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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 02 * I'M SO SICK
13/198

〇 Rock This World

 ドリンクバーの手伝いを終えたベラは、料理やドリンクで溢れ返るテーブルを囲んでいる、比較的若い男女六人のグループに呼び止められた。

 「君、CD出してないの?」薄いフレームの眼鏡をかけた、なんとも地味な男が訊ねた。

 「出してないわ。そんな趣味ないから」と、ベラはほとんどないに等しい愛想をまじえて答えた。

 「もったいない。作りなよ。このビルの上でレコーディングできるのは知ってるだろ? そんでむこうの通りにゼスト・エヴァンスって店があるの、知ってる? そこに持ってけば、インディーズでもCDを置いてくれるよ」

 サイラスの店の客かと思い、彼女は質問を返した。「あなたもバンドを?」

 「いや、おれはしてない。聴くの専門」

 ライトブロンドヘアの、派手な印象の女が割り込む。「気にしないで。こいつ、ただの音楽バカだから。楽器なんか、ぜんぜんできねーし。ネットで音楽漁るのが、趣味なだけ」

 ベラにはその女が彼に嫌味を言っているようにしか聞こえなかったが、地味な男は気にしていないらしく、さらなる提案をした。

 「そうだよ。ネットだよ。CDが面倒なら、ネットで配信すればいいじゃん。なんならやったげるよ、おれが」

 うんざりする気持ちを隠し、ベラは謹んで答える。「フライリーフ──階段にあった注意書き、見なかった? 撮影は禁止なの。特に映像。っていうか、許可なく他人を撮っちゃダメよ。犯罪だから。帰ったらネットで、“肖像権”ってのを調べてみればいいわ」

 ライトブロンドヘアの女を含み、五人は笑った。

 地味な男が言葉を返す。「けど今日も昨日も、そっちのスタッフは写真撮ってたよな?」

 彼女は微笑んだ。「だから、注意書きのプレートをよく見てよ。“スタッフが時々写真を撮ります。あらかじめご了承ください。写真を飾る場合がありますが、不満があればすぐにスタッフに申し出てください。即対応します”。そう書いてあるわ。それにスタッフは写真を撮る時、声をかけたはずよ」

 「確かに」と、ライトブロンドヘアの女がジュースの入ったグラス片手に応じた。「あたしはちゃんと読んだ。写真も、声かけられて了承した。撮ってって言ったら撮ってくれた。あんたが」地味な男を指差す。「気づいてないだけ」

 男は肩をすくませた。

 「プレートには気づかなかったな。悪かったよ」

 四人がくすくすと笑う。

 「けどあなたの歌、マジ最高」女が口元をゆるめてベラに言う。「昨日のさ、“Alone”? とか、マジよくわかる。超うざい女相手がいたら、あーやって言いたくなるもん」

 「そうね。私も実際見たのよ、うざい女。“あいつのせいでこんなになっちゃった”って言うの。なにもかもヒトのせい。喧嘩売られたわけじゃないんだけど、私が言い返したら、友達に助け求めてんの。ありえないでしょ」

 彼女は手を叩きながら、天を仰いでけらけら笑った。

 「マジでウケる。あれ、またうたう? 今日じゃなくても、いーんだけど。今度は、歌詞見ながら、じっくり聴きたい。昨日はね、わかるわかるってうなずきながら、二番でノリ覚えた。最後のサビんとこは、繰り返してくれたじゃん。家帰っても口ずさんでたよ。超すっきりした」

 彼女は話しかたに特徴がある。普通よりも少しスローに話し、ひとつの文章でも細かめに、はっきりと区切りをつける。そして声が高い。カマトトぶっているのとは少し違う気がする。そういう話しかたではあるものの、おそらく不良の類に近いだろうとベラは思った。

 「あら、よかった。次のオープンは来週の土曜と日曜。予定がわかるならちゃんと歌詞用意して、どっちかでうたうわよ」

 「マジ? んじゃ土曜。連れてこれたら、うざい奴をひとり連れてくる。んであれ聴かせてやって、あとからお前のこと言ってんだよって、裏で超笑ってやる」

 一緒にいる女二人もそれはいいと同意し、今度は六人でまたけらけらと笑った。ベラも他人のことをどうこう言える性格ではないものの、彼女たちも相当性格が悪いらしかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「緊張しない方法って、ない?」

 フライリーフ──出番を控え、地下二階でのスタジオ練習を終えたエルバが、深刻そうな様子でベラに訊ねた。

 「カラオケだと思えばいいんじゃないの? 詞は見ていいんだし」

 「答えになってないし、なんか違うし!」

 キュカは目を閉じたまま心臓のあるあたりを両手で押さえ、ドアの前の踊り場をくるくると小回りしている。

 「やばいよー。すげードキドキしてるよー。なにこれー」

 「ステージに立っちゃえばどうにかなるわ」ヒラリーが言った。「──と、思う」自信はない様子だ。

 エルバが訊く。「ねえ、ヒラリーは今ならもう、ライブハウスでも緊張しない? 最初はした?」

 「ええと──最初はすごく緊張したけど、姉が一緒だったし──今も時々、緊張はするけど──」彼女は必死に言葉を継ぐ。「とにかくうたうことに集中して、歌詞間違えないようにして──うたいはじめたら、平気かも。でもお客さんの顔は、あんまり見ないようにするわ。まえに、それで失敗したことがあるの。お客さんの顔見て、歌詞がぜんぶ吹っ飛んじゃって──」

 立ち止まると同時にキュカが声をあげた。「慰めになってない!」

 「ああ、ごめんなさい──っていうか二人に緊張されたら、私だって緊張しちゃうんだけど──」

 ベラは呆れて溜め息をついた。なだめる方法など知らないので、ドアをふたつ通り、ID確認係として入口脇にいるエイブとデトレフの前に彼女たちを立たせた。

 「ザ・ハグマシーン。どっちでも好きなほうとハグをどうぞ」と、ベラ。

 デトレフが笑う。「なんだそれ」

 「緊張してるんだって。だから、ハグでもしたらちょっとはマシかなと」

 「ああ。んなもん、適当にやっときゃいいんだよ。身構えんな。ミスしたらとか、よけいなこと考えても無駄。ベラに教わらなかったか? ノリで突っ切れ」

 エルバはしかめっつらを返した。「だってわりと有名な曲だし。歌詞間違ったらバレるし」

 エイブが訊ねる。「歌詞、覚えてるのを選んだんだろ?」

 「そうだけど、吹っ飛ぶかもしれないじゃん。間違ったらかっこ悪いじゃん」

 少々の呆れ顔を見せたデトレフは彼女を指で招いた。

 「ちょい来てみ」

 しかめっつらのまま彼女が従うと、彼は彼女の腕を引き寄せ、腰に手をまわした。エルバの首筋にキスをする。彼女は耳まで真っ赤になったが、デトレフは首筋へのキスを続けながら、彼女の脚を軽く撫でまわした。唇を離して彼女に微笑む。

 「ほら、“ドキドキ”の種類が変わった」

 呆然としていたエルバははっとした。「なにするんすか」

 「解けただろ、緊張」

 「別の意味でドキドキしてるんですけど? わけわかんないんですけど?」

 「だから、それでいい。よけいなこと考えんな」

 彼女がまたしかめっつらを見せる。「ハグしていい? 普通に」

 デトレフは笑ってそれに応じた。言うまでもなくキュカはぽかんとし、ヒラリーは耳まで真っ赤にしていた。これも言うまでもないけれど、ベラはよくやるわ、と思っていた。しかしそれで、エルバの緊張はほとんど完全に解けた。

 「あたしもハグしてもらっていい?」キュカがエイブに訊いた。

 彼が微笑む。「いいよ。デトレフみたいな下品なことはしないけど」

 デトレフとエルバは「下品言うな」と声を揃えたが、キュカは笑って彼にハグをしてもらい、頭も撫でてもらった。

 その後二人はステージに立ち、歌詞を間違えることなく出番を終えた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 やはり緊張していたヒラリーは、ジョエルやサヴァランのメンバーによってどうにかなだめられていた。一方ベラは、彼女を巻き込むようなうたいかたはするなと、パッシとマトヴェイからきつく言われた。

 これは、ベラの長所をひとつ崩すことになる。彼女は有名な曲を自分でうたうにしても、コーラスを真似たり、考えたりするのが好きだった。どこで低音や高音を入れ、どこでテンポをずらしてうたうかを考えるのが得意だった。過去に何度か行ったことのあるカラオケで、それを許してくれるのはアニタと、地元のひとつ上の先輩、ニコラだけだった。他は完全につられてしまい、うたっている実感がなくなるからという理由でそれを嫌がった。アニタやニコラは、つられることすら楽しんでくれた。

 もし今日、ここで一緒にうたうのがアニタやニコラだったなら、おそらくベラの理想どおりにうたいあげることができるだろう。けれどニコラは施設に入っていてまだ戻ってこないし、アニタのことはベラ自身が遠ざけた。ここで働くことを告げていないし、教える気もない。それどころか、新居の場所すら教えていない。数日後にはおそらく高校の入学式で会うだろうし、そうなれば当然、話をすることになるだろうけれど。

 「いける?」ベラはヒラリーに訊いた。

 深呼吸し、彼女も覚悟を決める。

 「いけるわ」

 「じゃ、いこーか」

 やはり廊下側から見てドリンクカウンターのある右側のステップから、ステージへとあがった。ヒラリーもあとに続く。客席は拍手で二人を迎えた。スタンドからはずしたマイクのスイッチを入れ、ベラが口を開く。

 「今私がなに考えてるか、わかります? こうやって並んだらほんと、天使と悪魔でしかないよね、みたいな。あ、私が天使なんじゃなくて、悪魔ね。私が悪魔」

 客たちはどっと笑った。彼女が続ける。

 「一曲だけ、彼女とうたいます。インセンス・リバーからのお客様。ミズ・ヒラリー」

 ベラが彼女を紹介すると、客たちはまた拍手をした。ヒラリーも照れくさそうに手を振って答える。

 「誘ってもらえて、すごく嬉しいです」両手でマイクを持った彼女が言う。「ほんとに、この店を知れてすごくよかった。来られてよかった。店の雰囲気も、お客さんたちも、とっても素敵で──スタッフのヒトたちも、みんなやさしくて、もちろんバンドのヒトたちも、シンガーたちも、ほんとに素敵です。大好き。正直──帰りたくないです」

 苦笑う彼女に、客たちは笑ったり口笛を鳴らしたりした。それは心からの本音だったが、浸っていいところではないともわかっているので気を持ちなおし、ヒラリーは曲紹介をした。

 「では、聴いてください。“Rock This World”」

 音楽が流れ、ベラがリズムに合わせて身体を揺らすと、ヒラリーも笑いながら同じようにした。そして、二度目があるかわからないコラボレーションがはじまった。



  いまだにヒーローを見つけられないんだけど

  彼ってほんとに存在する?

  やっぱり誰かの孤独を埋めるための

  ただのおとぎ話なのかもしれない


  今のこの世の中

  自分流に息するにはちょっと難しくて

  イヤな感じに狂ってる

  どこまでも空っぽの人生


  灰色の心に火をつけて

  曇りきった空を照らして


  この世界をロックするの

  ひっくり返す勢いでね

  ノリが悪いのはダメ

  テンションは上げていかないと

  世の中をよりよくしようなんてこと

  考えてるわけじゃないの

  ただ自由に生きたいだけ

  だから今、この世界をロックするの


  もしかしたら革命家を待ってるのかも

  それともそれは私?

  だめよ、あなたじゃまだ無理

  覚悟ができてないでしょ


  この世界にはなにが必要かしら

  言い訳が溢れ返ってる

  もっと言いたいことを言えばいいのに

  黙っててもはじまらないわ


  虹色よりも、黒と赤

  それが私たちの象徴でしょ


  この世界をロックするの

  ひっくり返す勢いでね

  ノリが悪いのはダメ

  テンションは上げていかないと

  世の中をよりよくしようなんてこと

  考えてるわけじゃないの

  ただ自由に生きたいだけ

  だから今、この世界をロックするの


  あたりまえの流れに逆らって

  つまづいたとしても それは脱落じゃない

  もしも沈んでしまった時は

  下から世界をひっくり返せばいい


  この世界をロックするの

  ひっくり返す勢いでね

  ノリが悪いのはダメ

  テンションは上げていかないと

  世の中をよりよくしようなんてこと

  考えてるわけじゃないの

  ただ自由に生きたいだけ

  だから今、この世界をロックするの

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