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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 17 * GRACELAND
108/198

* Careful

 金曜日の夜──地下一階、ブラック・スターのメインフロア。壁際のカウンター脇に立っているベラは客のひとり、ジェイドという女と話をしている。

 「企画、通ったんだ」ジェイドが口元をゆるめて言った。「これから準備に入って、早ければ十二月から放送開始。週一だけどね」

 彼女は先月二十歳になったばかりの大学生だ。ずっとやりたかったラジオ放送の企画があったらしく、大学入学後、案を練ってはラジオ局に企画を持ちかけていて、それがやっと採用されたという。普段は合コン大好き人間なものの、音楽に対する情熱はベラと同じくらいだ。

 「それでも放送枠持てるってだけでもすごいじゃん。おめでと」ベラは答えた。「なんか奢ろうか」

 「あら。じゃあアイスクリームが食べたいな」

 「トリプルいきますか?」

 「いいわね」

 「バニラとチョコとビターいこうか」

 「そんなのあり?」

 メニュー表には載っていないが「ありよ」と答え、ベラは無線でアイスクリームをオーダーした。

 「ベラがCD出してくれればね、それもラジオで流せるのに」

 ジェイドは少々不満そうに言った。ラジオ局で採用された彼女の企画というのは、リスナーに恋愛エピソードを募集、それに対し彼女が恋愛相談というカタチで答えつつ、メジャーなものもマイナーなものも関係なく、その状況に合った曲や彼女からのメッセージを代弁してくれているような曲を探してラジオで流す、というものだ。

 「だからヤだって。でも」ベラは彼女に向かって身を乗り出した。少々声を潜める。「なんならあなたがうたうって手もあるよね。もちろんリスナーの話をネタにするようなことはしないけど、そうじゃなくて、あなたがここで曲を作ってうたう。CDを発売する。で、使えそうなのがあったらラジオで流す。なんならキュカとエルバにもCD出してもらえばいい」

 「おお。マジで? けどそのラジオ企画、私の案のままなら金曜の予定なんだけど」

 「なら金曜は休みで、土日の両方か、もしくはどっちかか? 合コンに行く回数は減るかもだけど」

 ジェイドはけらけらと笑った。

 「毎週末に合コンしてるわけじゃねーよ。けど店は十時半までで、十一時までには帰れるんでしょ? 週末なら、そのあとからでもできないことはないんだけどね」

 ベラは微笑んだ。「考えといて。ヒラリーのCDもね、最初こそ詰め込んでアルバムにしたけど、定期的な小遣い稼ぎのために、これからはシングル発売が主なの。エルバもキュカも曲がかなり増えてるから、あなたがここでシンガーをやるかどうかは関係なく、レコの話は持ちかけてみる」

 視線をそらし、彼女はほんの少しだけ悩むような表情をした。すぐまたベラに質問を返す。

 「面接あんだよね。雇ってもらえるかな?」

 「それは平気だと思う。私がライブする時、あなたよく一緒にうたってくれてるもん。普通にうまいと思うし」

 「マジ? じゃあ頼んでみてくれる? まだ夏休み終わってないから、しばらくは時間的余裕、あると思う」

 「じゃあすぐにでもボスに──」

 後方から、アイスクリームをトレイに載せて持ってきたエイブとデトレフが来て、ベラに声をかけた。

 「お待たせ」とエイブ。「ごめん。混んでて」

 ベラはショートジーンズのポケットから五百フラムを一枚出してトレイに載せた。彼はアイスクリームの乗った皿をカウンターテーブルに置いた。

 「これ、これ」ジェイドがエイブの着ている黒いTシャツを示す。「このTシャツ、なにげに欲しい」

 エイブはスタッフ用だよと答えた。メインフロアスタッフは、二枚までなら五百フラムで売ってもらえる。三枚目からは千フラムで、バンドたちも希望すれば一枚千フラムで売ってもらえる。どの場合も、店でしか着られないことになっている。

 「ベラが時々、ミニサイズ着てるでしょ。あれが超かっこよく見える」と、ジェイド。

 「ああ、ベラの着こなしかたってのもあるんだろうけどね。デザインもベラだよ。ボスと二人でこそこそと準備進めてた。八月に入ってすぐそれが届いたもんだから、僕らはみんな、感動通り越して唖然としたっていう。無駄にかっこいーんだもん」

 「しかも」デトレフはベラの肩に腕をかけて彼女の首をはさんだ。彼もブラック・スターのTシャツを着ている。「無駄にいろんなサイズ頼んでるしな。首元とか裾部分とか、形もちょっと違うのがあったりするし。スタッフフロア用に用意したはずなのに、裏のスタッフやバンドたちにもやたら人気だっつー謎」

 Tシャツ製作の本来の目的は、開店当時からフロアスタッフ全員が目印のためにつけていたリストバンドよりも目立たせるためというのもあるが、仕事から直行してきたスタッフのために、というのが大きかった。ベラはラウンドネックだけでなくVネックやUネック、さらにはタートルネックやボートネックまでもを考え、裾も、ノーマルなものから少々変わったものまで、長さ大きさも数種類を用意した。おかげでスタッフ全員が一枚どころか数枚を買っている。次々と注文がくるので、ディックは呆れを通り越して笑っていた。

 ベラが笑う。「おかげで収支がプラスになってるんだからいいの」

 「お前貢献しすぎ」と、デトレフ。「“Careful”いくぞ」

 この曲を演るということは、マトヴェイがつきあっている女──不倫の相手が来ているということだ。これはベラが詞を書き、曲をデトレフが作った。完成後、詞を読んだマトヴェイはけらけらと笑った。女の反応しだいでは別れるそうだ。不倫の事実は三人だけの秘密なので、エイブはもちろん、パッシもディックたちも、なにをネタにして詞が書かれたかは知らない。

 「また新曲?」ジェイドが訊いた。

 エイブが答える。「そう。もう毎日毎日あれこれ覚えなきゃいけない状態。ベラとディックの作曲ペース、半端ない」

 笑ってデトレフがつけたす。「まあレコしたCDくれるから、聴いてりゃそのうちなんとなくを覚えるんだけどな」

 「やっぱベラの天才度、半端ないね」ジェイドは食べていたチョコレート味のアイスクリーム、一口ぶんをスプーンですくい、ベラに向けた。「がんばれ小悪魔ちゃん」

 遠慮なくそれをもらうと、ベラはステージにあがる準備にとりかかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「誰に向けたわけでもないの」ステージの上、マイクを使ってベラは言った。「ただテーマをもらえたから、詞を書いた。曲はデトレフがつけてくれた。超かっこいい。歌詞カードを用意できなくてごめんなさいなんだけど、どうにか聴きとっていただけたら嬉しいです。そして身に覚えのある方は、肝に銘じてほしい。原点は、私の大嫌いなこと。んじゃ、いきます」人差し指を立てた左手をあげる。「“Careful”」

 マトヴェイのベースから、演奏がはじまった。



  私に隠れて 禁断の果実を口にしてしまったあなた

  警告はしたはず

  何度も何度も

  最後の審判ではどんな言い訳も通用しない

  時がくれば犠牲になるのはあなたひとり

  だって彼女は泣いていない


  不自由を選んだのに

  自由が欲しいなんて言うのね

  誘惑に溺れるつもりなの?

  破滅の足音が近づく

  もう逃げられない


  もっと慎重に行動しなきゃだめ

  それは永遠に味わえるわけじゃない

  善悪よりも最悪な真実

  その気になれば 彼女はあなたのすべてを壊してしまえる


  直面してるこの現実に勝るものなんてない

  あなたは隠れてるつもり

  だけど他人は見てるもの

  甘みが毒性と共に増していく

  永遠の夜を望んでいないなら

  なぜ進むの


  はじめておいて

  やめる方法がわからないなんて言うのね

  魂を売り払う気なの

  ガラスの斜面を落ちていく

  今となってはもう手遅れ


  もっと慎重に行動しなきゃだめ

  それは永遠に味わえるわけじゃない

  善悪よりも最悪な真実

  その気になれば 彼女はあなたのすべてを壊してしまえる


  本能はトラブルを招く

  本能はトラブルを招く

  本能はトラブルを招く

  ほら、もうすぐそこに


  もっと慎重に行動しなきゃだめ

  それは永遠に味わえるわけじゃない

  善悪よりも最悪な真実

  その気になれば 彼女はあなたのすべてを壊してしまえる



 この曲を披露した結果、マトヴェイは夫のいる相手の女とおおいに言い合うことになり、けっきょく別れた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ジェイドは、ベラのつきそいでキーズ・ビルのレンタルスタジオへと行き、ディックの面接を受けた。すんなりと合格し、さっそくTシャツを手に入れた。どうせならオリジナル曲でということで、しばらくはベラと一緒に作詞をし、その方法を覚える。いずれは作曲の方法も覚えるつもりだ。

 面接を終えたあと、レンタルスタジオの受付カウンター。ジェイドは足を止めた。

 「あれ、ヤニ?」

 受付カウンターでディックの対応をしていたヤニがぽかんとする。「誰?」

 「誰って、ひどいな。大学一緒だっつの」

 「いや、知らない」

 「マジで」彼女の顔は少々ひきつっている。「授業もいくつか、おんなじのとってんだけど」

 「へえ」

 そっけなく返事をすると、彼はまたディックの対応に戻った。彼女は当然反応に困る。

 「気にしないで。基本的には主に話す人間のことしか覚えないから」と、ベラ。

 「そりゃ話したことはほとんどないけどさ。ってゆーかなに、バイト?」

 「そう。さっきはちょうど夕食とってたんだと思う」

 「あ」ヤニがベラに言う。「そのどうでもいい説明のついでに、口止めもしといてな」

 自分でしろとは思ったが。「だ、そうなので」ベラがジェイドに言う。「彼がここでバイトしてるってことは、大学の連中に言いふらしたりしないで。一部の友達しか知らないことなの。同じ大学に通ってる同期の子もバンドとしてブラック・スターにいたりするんだけど、仲良くない相手とは、ほんとに事務的な会話しかしないから。そのたびに私が口止めしにかかってる。ほんとめんどくさい」

 ジェイドは苦笑った。「わかった。そうする」

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