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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 17 * GRACELAND
106/198

* The Second Term

 九月二日、月曜日。始業式の日──遅刻して登校したので式はすでに終わっていて、ベラは二限目から教室に入った。

 さっそく、席替えをすることになった。ベラもハンナも今の位置に不満はなかったものの、マーシャとテクラはともかく、なんならセルジとニルス、ティリーとエフィもともかく、他は席替えをしたいという意見が多いのだろうから、反対などできるはずもない。

 席替えの方法というのは、中学も高校もさほど変わらない。まず、最初にグループを作ってから席を決めるか、その場合男女比を決めておくか否か、もしくは最初から個々でクジを引くかというのを決めることになる。そしてその席替え結果は、各科目の教師しだいでもあるものの、特別教室に移動した時にも影響する。教室を移動した場合、四人もしくは六人でグループを作って大きなテーブルに着くこともあるので、生徒たちは、少なくとも隣の席には、よく話す相手に座ってもらいたいという考えを持つ。

 この日彼女たちのクラスで行われたのは、男女関係なくグループをつくり、各グループの代表がクジを引いて好きな場所を選んでいくという方法だ。

 結果、ベラとハンナの席は、そのままの場所になった。

 廊下側最右列、いちばんうしろにテクラ、前にマーシャ、そしてササ。二列目、テクラの左隣にベラ、前にハンナ、そしてネアだ。この席順は、中央席の彼女たちに近い場所にティリーたちが席をとったことも少々影響している。

 中央列最後尾、ベラの左隣にティリー、その前の席にエフィが、さらに左列でティリーの隣にダリルが、その前にケリーが来た。ティリーとエフィが、行けそうならベラの近くに席をとろうかと言っていて、見事にそれを実現させた。

 席の移動がまったくなかったので、この席替えになんの意味があったのか、ベラにはよくわからなかった。

 そんな二時限目が終わったあとの休憩時間。ベラはクラスメイトの男子に呼ばれ、教室の前方戸口に立った。

 「お前がベラ? ウェ・キャスの?」

 教室の戸口に立っていた男が言った。呼び出したのは彼らしい。身長は、おそらく百七十五センチはあるだろう。ついでに言えば少々人相が悪い。というか性格が悪そうだ。彼の隣には、引き戸にもたれて携帯電話を操作する男がいる。

 「誰あんた」と、ベラは答えた。答えになっていないが。

 「会話できねーのか」

 「会話する気があんなら先に名乗りなさいよ。知らない人間にいきなり呼び出されたあげく、名前と地元訊かれて、ハイソウデスなんて素直に言うと思ってんの? バカなの?」

 背の高い性格の悪そうなその男はわかりやすく顔をひきつらせた。「ケイネル・エイジのふたつ上、アドニスって知ってるか?」

 当然彼女は反応する。「知ってる。なに? 友達?」

 「一応先輩。べつになにってわけでもない。こないだたまたま会ってちょっと話して、高校がここだっつったら、このクラスにダチがいるとか言うから。変だけどおもろい奴だって言うから、なんとなく見にきただけ」

 話は理解した。「じゃあ、あんた一年なの?」

 彼の顔がまたひきつる。「どういう意味だそれ」

 「いえ、老けてるなんて誰も言ってませんよ」

 「言ってるのと同じだよなそれ」

 「違うのよ。落ち着いてるっていうのよ。一年生が持ってるはずの初々しさがないだけよ」

 「それはお前も一緒だろ」

 「ムカつくので蹴っ飛ばしてもいいですか」

 「はあ?」

 彼の隣で携帯電話を操作していた男が声を抑えて笑っているのにベラは気づいた。そこに、彼女の後方、教室の中から誰かが誰かを呼んだ。

 「マシュー」

 ベラは振り返った。同じクラスの、確かギャヴィンという男だ。彼は背が低いというのもあるがそれ以上に、中学一年生と言っても通じるのではないかというほど童顔だ。よくジャックと一緒にいるので、彼女はあまり話したことがない。

 男が視線をそちらにうつす。「よ」

 「なにやってんの」

 「言ってなかったっけ、ケイネルの上の奴が、このクラスにダチがいるって話してたの。言ったと思ってたんだけど」

 「いや、知らんけど」ベラへと視線をうつす。「──が?」

 「そー。すげー性格悪い」

 「ええー」

 「ねえ」ベラが性格の悪い男(マシュー)に言う。「なんでいきなり現れた見ず知らずの人間に、性格が悪いとか言われなきゃいけないの?」怒っているかのようなセリフだが、彼女はいたって冷静だ。

 「いや、それ言ったらお前、なんで初対面で老けてる扱いされなきゃなんねーんだ」

 「だからしてないってば。落ち着いてるって言ったの。老けてるなんて言ってないのに勘違いされるのがイヤだから、老けてるなんて言ってないよって言ったの」

 「もうなに言ってるかわかんねーよ」

 「うん、ごめん、私もよくわかんない。でも老けてるとは言ってない」

 「わかったって。もういいわ。んで」苦笑っている背の低い男へと視線をうつす。「ギャヴィン、お前こいつと話したことねーの?」

 「あー? いや、あんま──」ベラへと視線を向ける。「り?」

 「ええ、あんまり。っていうか数えるほどだよね、たぶん。ちょっとどけとかなんとかかんとか」

 「けど席替えする前、なにげに隣だったよな。中央列と右列ってのはあるけど」

 「そういえばそうね。でも話したことは」背の高い男(マシュー)に言う。「ほとんどないですごめんなさい」

 「いや、あやまんなくていーけど。っつーかお前、デカくね? ミュールのせいか?」

 ベラは四センチ高のミュールを履いているので、彼との身長差はほとんどない。けれど少々ムカついた。「ミュールのせい。ぜんぶそう。ぜんぶミュールが悪い」

 「いくつよ?」

 「百六十七です」一センチだけサバを読んだ。本当は百六十八センチある。

 「マジで!?」ギャヴィンが言った。「いや、デカすぎ」

 人相の悪い男(マシュー)が笑う。「お前と一緒じゃね」

 「ばらすなよアホ」ギャヴィンが言った。つまりベラより一センチ低いということだ。彼女に言う。「そんだけ身長あんなら、もう厚底とかやめたほうがいいと思う」

 「あら、あなたが厚底靴を履けばいいだけだと思う」

 今度は彼の顔が引きつった。「お前、身長コンプレックスの人間がそれしたらどんな気持ちになるか、知らないだろ」

 「うん知らないけど、なんで? 視界が広がってわーい、絶景だー、とかってなんないの?」

 「いや、確かに履いたらなるけどさ」

 「アホだろお前」口の悪い男(マシュー)が割り込む。「その厚底履いたあと、普通のベタ靴履いてみろよ。自分の身長が十センチくらい下がったように感じるんだぞ」

 「そんなに下がったように感じたことはねえよ! 大げさすぎだろ!」

 ギャヴィンは全力でつっこんだが、ベラは納得した。

 「ああ、そっか。なるほど」

 「いやいや納得するなよ。確かに気分はへこむけど!」

 彼女が笑う。「じゃあもうあれだよね、足の裏に鉄板でも仕込んでおけばいいよ。そしたらどれだけ靴履き替えても、あなたの身長はプラス五センチだから」

 口の悪い男(マシュー)も笑ったが、ギャヴィンはやはりつっこんだ。

 「五センチ厚の足型鉄板がどこにあんだよ!?」

 「それはこう、もう、世界回って、どこかで鉄板職人を捜してですね」

 「ちょっと興味あるけどいないだろ! もう頼むからやめろって、帰ったらネットで“足型鉄板職人”て検索しちまいそうだわ!」

 ベラも人相の悪い男(マシュー)も、ついでにその隣にいる(まったく会話に入ってこない)男も、揃ってけらけらと笑った。

 そして、あっというまに三時限目開始のベルが鳴った。人相の悪い男(マシュー)ともうひとりは自分たちの教室へと帰っていき、ベラはやっと、その男がマシューという名前なことを覚えた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 そして放課後。ベラは担任のミースター教諭に呼び出された。職員室にではない。一年の教室があるフロアの、中央階段の隣にある小会議室だ。小会議室といっても、普通教室と同じだけの広さがある。

 「今日あなた、少し遅れるって電話くれたわよね」パイプ椅子に腰をおろしたミースター教諭が切りだした。「理由を言ってなかったけど、記録のために一応必要になるから、理由があるならとりあえず教えてくれる?」

 つきあっている男と揃って遅刻することにして、中学の時に着ていた完全校則違反の偽制服プラスネクタイと、仕事用作業着を着て、朝からバルコニーで二回連続でしてました、などと言えるはずがない。

 「朝方起きたら気分が悪くて、二度寝したら寝坊しました」と、ベラはかなり適当な返事をさらりとした。彼女はミースター教諭の向かいでパイプ椅子に座っている。

 「それは体調不良って言ってるの? それとも寝坊だって言ってるの?」

 「どっちでもいいです。両方ホントなので」どちらも嘘だ。

 教諭は溜め息をついた。

 「まあいいわ。じゃあもうひとつ質問。あなたが連絡を入れたの、あの電話番号は、誰の携帯電話?」

 ベラはぽかんとした。「は?」

 「あなたの親御さんから、電話番号をみっつ預かってる。ひとつは親御さんの職場の電話番号、もうひとつは親御さんの携帯電話番号。あとのもうひとつは、あなたの携帯電話番号。あなたと連絡をとる場合は、あなたの携帯電話に直接連絡をするようにって言われてるわ。でもあなたが連絡してきたの、どの電話番号でもなかったと思うんだけど」

 「まさか、電話番号を記憶してるんですか?」

 「いいえ、まさか。末尾の番号に見覚えがなかっただけよ。それにあなたが連絡を入れるほんの少し前、教えてもらってるあなたの携帯電話に電話したの。電源が入ってないってなったわ」

 ようするに、連絡を入れるのが少し遅かったということらしい。「そっちの番号の携帯電話は、充電はしてますが、普段は電源を落としてます。つまり使ってません。世話になってる人が、うちの事情をすべて知ったうえで私用の携帯電話を契約してくれたので、いつもはそれ使ってます」

 ほとんどポーカーフェイスに近い、最低限のメイクしかしていないミースター教諭は、少しだけ眉を寄せた。「そのこと、親御さんは?」

 「知るわけないです。私のことになんて興味ないですし。十六にもなってない小娘にひとり暮らしさせろって言われて、すんなりと了承するようなヒトですよ。私がなんでその携帯電話を使いたがらないか、ちょっと考えてもらえばわかると思いますが」

 なにか反応をしそうになったのを、教諭はベラにもわかる様子でなんとか抑えた。溜め息混じりの深呼吸をする。

 「いいわ。じゃあそっちの番号、教えといてもらえる?」

 「あのヒトに言わないなら」

 「言わないわ」

 そう答えが返ってきたので、ベラはミースター教諭が持っていたレポート用紙に自分の──アゼルが買ってくれた携帯電話の電話番号を書いた。

 「それから、もう少し質問したいんだけど」と、教諭が再び切りだす。

 「はい」

 「一学期の終業式の前日にあったような、体育やなにかで怪我をしてってことがあった時。よっぽどじゃない限りは、むこうに連絡もしないほうがいいの?」

 「そうですね。こっちはしてほしくないし、むこうもそんなくだらないことで連絡すると、たぶん怒ると思いますよ。っていうか、まさかしたんですか?」

 教諭はまた溜め息をつきたいかのような表情で首を横に振った。

 「連絡したけど繋がらなかった。というか、繋がったけど電話に出てもらえなかった、っていうのがいちばん正しい表現ね。保険医の先生がなんともないって言うから、その一度だけで、あとはなにも」

 本当の緊急事態なら、電話が一度で終わるはずはない。折り返さずともかけなおしてこないということは、たいした用ではないということだ。“母親”も、そう判断したのだろう。

 「なら、もうやめたほうがいいです」ベラは言った。「時間の無駄ですよ」

 「でもあなた、貧血とは言え、あの時倒れてるのよ。ひとり暮らしでしょ? 連絡がなければ、やっぱりなにかあったのかとは思うわよ」

 「貧血よりもたぶん、寝不足のほうが大きいです。あれ以来反省して、眠れる時はちゃんと眠ってますし、食事もできるだけちゃんとしてます。もう“なにか”はないですよ。もともとそんなにヤワじゃないですし」

 「その華奢な身体じゃ、そのセリフにはあんまり信憑性はないんだけどね」

 ベラは苦笑った。「まあ、そうですけど。遅れる時はちゃんと連絡入れます。そちらがあのヒトに連絡を入れなきゃいけなくなるようなことは、するつもりがないので。遅刻の連絡がないにしても、昼までは待ってください。行く気があったら、遅れるっていう連絡を入れるのすら面倒な時があるんです。そちらがかまわないなら、友達にメール送って、そこから先生に伝えてもらいますけど」

 「ああ、ならそうしてちょうだい。昼までは待つ。それ以内なら、彼女たちの誰かからの伝言っていうのでもいいことにするわ。あの子たちの誰かには、ひとり暮らしだってこと、言ってるの?」

 今度はベラが首を横に振った。

 「言ってません。あまり言うつもりもないです。──もしかしたら、ハンナにくらいはそのうち、言うかもしれませんけど。変に心配されたくないんで、わかりません」

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