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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 16 * SPARKS FLY
105/198

○ Voice

 九月一日は、ベラとアゼルにとって特別な日だ。

 なんの記念日、というわけでもない。あえて言うなら、法律的にはどうかわからないが道徳的に罪を犯した日の記念日、とでも言うのか。

 三年前、彼女は中学一年生で、彼は中学三年生だった。つきあいはじめて一ヶ月半ほどが経過した頃で、その日はふたりの出身校であるウェスト・キャッスル中学の第二学期始業式があった。その日、彼女たちは揃って遅刻しただけでなく、物置のようになっていた第一校舎の四階に行き、あろうことか式の真っ最中に、我慢できずにひとつにつながった。

 九月一日は、はじめて“普通ではない場所”で抱き合った日だ。

 日曜の朝、コンドミニアム──ベッドの上。ベラはアゼルの傍らに脚をくずして座り、彼の髪を指で弄んだり、彼の頬を撫でたりしていた。

 起きているはずのアゼルは、一向に目を開けようとしない。彼女がリビングで着替えているあいだに寝返りをうったらしく、仰向けになって眠っていたはずの身体は今は彼女のほうを向いているものの、いつもならなにかしらリアクションがあるのに、今日は動くことすらしない。まるで我慢比べだ。

 「ねえ、起きてってば」ベラはまた言った。同じような言葉を、おそらくもう十回くらいは言っている。

 アゼルはまた無視した。

 さすがの彼女もむっとする。今日は日曜で、自分にはブラック・スターでの仕事がある。あと数時間で家に帰り、支度をして店に行かなければならない。なのにこれだ。せっかく“朝”なのに。

 「起きないなら、この格好で仕事行くから」

 数秒間があったものの、この言葉には反応があった。相変わらず目は閉じたまま、彼の右手は彼女の左膝を探りあて、脚の上へと移動して、スカートを見つけた。

 また数秒、動きが止まった。

 そしてまた動きだした。彼の右手は、今度はノースリーブのベストを見つけた。

 ベラは口元をゆるめてそれを見ていた。おそらく彼は、自分がどんな格好をしているかわかっただろうと思った。だが言っておくことはある。

 「公式じゃないよ。偽物のほう」

 そう彼女が言うと、アゼルはゆっくりと目を開けた。彼女の格好を確認して、思わずか口元をゆるめた。

 「そんな趣味持った覚えはねえよ」

 世の中には“コスプレ”という、なにかの制服に着替えてどうこうという趣味のジャンルが存在するらしい。

 「そのわりには嬉しそうだけど」と、ベラ。彼のことを言えないほど、彼女の口元もゆるんでいる。彼の右手に指を絡めた。「趣味がないなら着替えてこようか」

 「お前はそういう趣味があったのか」

 「なに言ってんのよ。セーラー服や中学の公式ベストを着てるわけじゃない。これは偽物。ただのファッション」

 「非公式なだけで中学の時に着てたやつだろ。しかもスカートは中学のやつ」

 ベラは、中学の冬のセーラー服が気に入らないというだけの理由で、中学一年の十月一日から二年に進級した一学期のあいだ、公式のベストスタイルができるまで、秋、冬、春はロングスリーブの白シャツに紺色のベストという、完全に校則違反な格好をしていた。後にそれが学校側に正式に採用され、校章の入った、新しい春秋用の新制服が作られた。

 「そうだけど。高校バージョンってことで、ネクタイ結ぼうかと思ったんだけどね。結びかたがわかんないの」

 「んなもんがあったら、お前の首絞めちまう可能性が」

 「結びかたわかるの?」

 「忘れた」

 顔をしかめ、彼女は自分の後方に置いてあったマダーレッドのネクタイを手にとって見せた。

 「店で教えてもらってこようか。ベストなしでスカートをギンガムチェックにでも変えて、そしたら別の意味でロックになる」

 「それはどうでもいいけど──今何時だ」

 「もう九時になる」

 答えが曖昧だったので、アゼルは一度彼女に背を向け、ナイトテーブルにある携帯電話で時刻を確認した。

 「──時間がねえ」

 「だから起きてってずっと言ってたじゃん」

 ベッドヘッドにクッションをいくつか重ねてから再び仰向けになり、そこにもたれる。「来い」と言って彼女を呼んだ。

 ベラは従った。ネクタイを持ったまま、アゼルの上に乗る。そしてシーツ越し、彼がどういう状態になっているのかがわかり、笑った。

 「趣味がないとは思えない」

 「うっせーあほ」

 少々悩みながらではあるものの、彼は彼女の首にネクタイをつけた。ベラにはなにがどうなっているのかさっぱりわからなかったが、少々形がいびつな気はするものの、おそらく正解の絞めかただ。

 よけいな部分をベストの中にしまおうとしたがそのまえにアゼルが身体を起こし、彼女の腰を浮かせてシーツを抜きとった。彼女を抱えたままベッドの端に移動してそのまま立ち上がる。ベラは彼の首に手をまわした。

 「隣の部屋、連れてってくれる?」

 「それよりもっといいとこがある」

 いいところ、というのはバルコニーだった。それもミッド・オーガストの時のように立ったままではなく、過去を再現するよう、彼女をタイルに座らせ壁を背負わせた。膝をついたアゼルは正面から彼女にキスをする。

 そのキスは当然、一度や二度のフレンチキスですむはずはない。

 「──やっぱり、持ってくればよかったかな」息を乱しながらベラが言った。

 彼はすでに彼女を自分の脚の上に座らせ、彼女の下着を脱がしにかかっている。「なにが」

 「学ラン」

 「着ねえよアホ」

 「本物のほうがよかった?」

 「いや」

 アゼルは、自分を求めるベラの一部に触れた。当然彼女は反応するが、彼は笑った。

 「お前もヒトのこと言えねー。いつから濡れてたんだよ」

 「うるさいな」

 「あ」

 「なに」

 「明日、遅刻するか」

 「自分が遅刻するのは嫌がるのに私には遅刻させるの?」

 「イヤならいいけど」

 「イヤじゃないけど、いいけど、手が止まってることも気になります」

 「わがまま」

 読めないタイミングでアゼルが一気に自分の中に入ってきたうえ、その勢いで何度か思いきり身体を突かれたので、バルコニーとはいえ外だとわかっているにもかかわらず、ベラは声をあげた。抑えられなかった。

 すかさずネクタイを掴んで彼女を引き寄せ、アゼルが顔を近づける。

 「“外”の時は声抑えろっつってんだろ」彼は彼女を睨んでいる。「喘ぎ声だけは、他の誰にも聞かせんな。お前のその声だけは、死ぬまで俺のもんだ」

 一瞬にして、ベラの中に電流のようなものが駆け抜けた。

 「──死ぬまで、じゃ、ない」右手でアゼルの頬に触れる。「死んでも、ずっと──」左手を彼の首にかけ、我慢にうつむいて目を閉じた。「──お願い。イキそう──」

 「欲しいなら続き言えよ」

 彼がどんな状態なのかも、彼女はわかっている。どちらも気を抜けば、一気にそこまで達してしまう。

 再び顔を上げ、彼女は彼の視線を受け止めた。

 「──死ぬまでじゃない──死んでもずっと──私の、この時の声は、あんたのもの。あんた以外には、絶対に聞かせたりしない──もっと、聞いて。独占して──私が喘ぐのは、あんたと、こうしてる時だけ──」

 ネクタイを掴んでいた手を彼女の首にまわし、彼は額を合わせた。

 「──もー、無理。一回、出す」

 「声、抑えられないと困るから、キスして」

 ベラの唇に、アゼルはキスをした。

 「思いっきりでもいいから、服噛むみたいに、肩、噛んでろ。タトゥー台無しにするんじゃなきゃ、爪立ててもいい。声は、俺にだけ聞かせろ」

 そしてまた、キスをした。

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