○ Sparks Fly
数件のシューズショップをまわっての買い物を終えたあと、四人はグランド・フラックスにあるデザートショップに入った。ファーストフード感覚でケーキやパフェ、クレープなどのデザートが食べられる店だ。ベラの奢りでそれぞれにデザートを注文し、四人用の席についた。
「一日に五万フラムを使う高校一年生──」レジーがつぶやく。「マジありえん。オレら、それ稼ぐのに必死になってんのに」
「ベラって、実はすっごいお嬢様だったりする?」エフィが訊いた。
「そんなんじゃない。節約するから貯金があるだけ」半分嘘だ。「じわじわ使うより、貯めてからぱーっと使うほうが好きなの」
「ぱーっと使える金があるって、すごい羨ましい。あたしなんか常に財布の中身と相談して、足りなくなったら親に泣きつくもん」
「それがフツーだって」パーヴォが言った。「そんでこっちは親と喧嘩勃発、プラス非行に走る感じだけど」
彼女は笑ってうなずいた。
「そういや高校の友達が、喧嘩とかカツアゲとか、うちの地元じゃ日常茶飯事だーっつってた」
「どこ?」
「アッパー・エイト・ミリアドとか、エイト・ミリアドとか。暴走族もいるし、中学も荒れたとこが多いんだって」
「あー、そりゃな」とレジー。「ちょっと田舎行きゃ、あるとこにはあるって。性格も短気なの多いし。女も気強いの多いし」
「友達もわりと気強いよ。ね」エフィはベラに同意を促した。ダリルやティリー、そして地元の方角は違うものの、ケリーのことでもあるのだろう。「高校で一緒につるんでる同じクラスの女友達、三人いるけどさ。みんな煙草吸うんだもん。ベラも吸うって話だし。気づいたらあたし、不良に囲まれてたよ、みたいな」
パーヴォは口元をゆるめた。「お前は不良じゃねえの?」
「違うよ? どっから見てもごくごく普通の乙女じゃないですか! 純潔だよ? オトコとつきあったことなんかないし、処女だし!」
恥ずかしげもなくきっぱり言われたその言葉に、彼とレジーは数秒ぽかんとし、そしてげらげらと笑った。その大笑いは、店内にいる客たちの視線を集めてしまうほどだった。
「え、なんでそんな笑う?」
どうにか笑いをこらえ、パーヴォがエフィにあやまる。「いや、悪い悪い」笑いすぎて涙が出たらしく、それを指で拭う。「今どき処女だっつーのを恥ずかしげもなく言う奴とか、すっげーめずらしい気がして」
抑えてはいるが、レジーもまだ笑っている。「高校生になったら、地味真面目系に属さねー処女は、たいてい焦ったりするもんな。周りに非処女がいると特に」
エフィは首をかしげた。
「そうなの? あたしはそんなん、べつになんも思わないけど。周りにも処女いるけど、そんなん言ってないよ?」
「いやいや、言うわけねーべ。むしろ本気で焦ってて、けどオトコできる気配がなきゃ、たいていはオトコなんかいらねーっつーのが普通。焦ってるなんて思われたくないんだろうし」こちらもベラに同意を求める。「な」
「そうね、それが多いと思う。あと友達といるほうが楽しいとか。理想高いのにモテない奴ほど、そうやって言い訳する」ベラの頭の中には、ケリーや地元の同級生、ハヌルが浮かんでいた。
「好きな男、いねーの?」パーヴォがエフィに訊く。「その気になりゃオトコできるだろ」
照れではなく、彼女は眉を寄せ唇を尖らせた。
「できないもん。告白もされたことないし。したこともないけど」
「誰かに惚れてたんならすればよかったのに、告白」
「うーん」小首をかしげる。「なんかさ、ピコーンてクるヒトがいなかった。かっこいーって思うヒトはいたよ、先輩とか。けどどーにかなりたいとかって、あんま思わなかった。彼氏欲しーとは思っても、つきあいたい! ってのがないみたいな」
「タメには?」レジーが質問した。「いいのいなかったんか」
首を横に振った。
「だめだめ。タメと年下はダメなの。弟いるから、ガキっぽいのがダメなんだよね。自分がオトナだとかってわけじゃないし、むしろガキだけど。なんならベラのがずっとオトナだけど。でもなんか、引っぱってくれるヒトがいい。なんでも知ってて、いろいろ教えてくれるヒト」
ベラが割り込んで訊く。「頭いいのが好みだったりするの?」
「や、そこはべつにこだわらない」あっさりだった。「どっちかっつーと、赤点前後のテスト結果見て、わかんねーよって一緒に投げ出すほうがいいかも」
わりと細かい好みがあるらしい。「だって、よかったね」ベラは彼らに言った。「秀才がいいとか言われたら、あんたたちトモダチにすらなれないもん」
エフィがけらけらと笑う。「いやいや。頭いいヒトは苦手。なんかぜんぶ見透かされてそうだし。バカ騒ぎもできなさそうじゃん」
彼らはわかるわかると同意した。
レジーが言う。「けどベラはそうじゃないっぽい。頭のいいツレとバカ騒ぎすることもあるって」
「マジ? そんな楽しー子たちがいんの?」
ベラが答える。「最近はしてないけどね。去年はよく遊んでた。飲み会だったり夏祭り行ったりプールで遊んだり、夜中までゲーム三昧だったり」
「ちょっと待って」とエフィ。「飲み会って酒? 去年てことは、ベラまだ中三じゃん」
「うん、だから?」
「ええー」
「相手は高校生よ、ふたつ上。受験手伝ってもらったり、遊んだり。今は私が忙しくて、そんなのもできないけど。夏休みに入ってからけっきょく、遊んでないもん」
「あらら」
レジーが細く説明する。「オレらに連絡よこしたのだって、かなりひさしぶりだもん。五月だっけ、一度会ったけど、それからこないだまでは完全無視だったからな。そんでいきなり連絡よこして、おしさしぶりですとかフツーに言いやがる」
「そうそう」パーヴォがあとを引きとった。「電話どころか、メールだって何度か入れたのに完全無視。キレても無駄。ゴメンであっさり終わる。冷たいにも程がある」
エフィは苦笑っていた。「やっぱそんななんだねー。うちらもメール無視されるもん。みんなで遊べないのって送っても、返ってきたとしても“無理”の一言。他の友達も、がちょーんてなる。超切ない」
ベラが言う。「メールの相手が欲しいなら、この二人にアドレス訊けばいいじゃん。たまになら暇つぶしの相手になってくれるかも」
心なしか、彼女は背筋をぴんと伸ばた。少々真剣な様子で二人に訊く。
「教えてもらってもへーき?」
「ヨユー」
彼らが声を揃えて答えたので、彼女も携帯電話を取り出し、三人はあっさり、メールアドレスと電話番号を交換した。
「そーいえば」嬉しいのか、エフィの口元はさらにゆるんでいて、携帯電話をしまわず両手で握っている。「免許は九月からなんだよね。単車買うのはいつくらい?」
「十月の予定」パーヴォが答えた。「まあ免許に合わせるけど」
レジーがつけたす。「先輩に安く譲ってもらうから中古だけどな。いろいろいじってあんの、一旦ほとんどノーマル状態に戻して、そっからオレら好みにいじりなおす」
彼女は身を乗り出した。
「買ったら見せてくれる?」
またベラが割り込む。「セリフ間違ってる。そこは“乗せてくれる?”って訊くところ」
「え」
「そーいやお前、乗ったんだってな、チェーソンの単車に」レジーが訊いた。
「うん。ちょっとの距離だったけど、スクーターとはまた違うよね。状況的に浸れる気分じゃなかったけど、ちょっとおもしろかった。でも私はスクーターのが好き」
パーヴォは小首を傾げた。「そーか? 単車と一緒に走ってたら、すげー切なくなるぞ。リミッターカットしたところで、やっぱ単車には勝てねえ。単車のほうがいじりがいあるし」エフィに言う。「手に入ったらベラにも見せるつもりだし、そん時暇だったら来りゃいいじゃん。なんなら乗せてやる。いちばん最初にケツに乗せんのはカノジョだって約束、してるけど」
さらりと言われたその言葉に嫉妬するでもなく、エフィはにっこりとした。「じゃあ約束。カノジョの次、二番目に乗せて。どこでもいいからドライブする」
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三日後の日曜、夜。いつもどおり、ベラはブラック・スターのメインフロアでステージに立っていた。
「私の歌じゃないよ」と、マイクを使って彼女が言う。「もう一回言う。私じゃない」
客たちは笑った。ほとんどの客がすでに、彼女がこれからうたおうとしている曲の歌詞を見つけている。ベラは続けた。
「こういう感情、私にはさっぱりなのです。だって誰かと目が合った時、私が最初に思うのは、なにジロジロ見てんだよとか、なに睨んでだよとか、そうじゃなくても、あ、軽そーだなとか、頭よさそうだなとか、そんなのばっかだし」
フロアはさらなる笑いに包まれた。彼女も苦笑う。
「無線でもう喋るなって言われてる気がするから、おとなしくはじめます。レディの皆さんは、淡い初恋を思い出してください。思い出したくないなら、初恋じゃなくてもいいから純粋だった頃のことを思い出すか、それすらないなら、そこらにいる男にトキメいてください。男は知らないけど、まあとりあえず、ぐだぐだするのはやめてください。んじゃパッシ兄さん、音楽お願いします」
パッシは笑って機材を操作し、音楽を再生した。フロアに曲が流れる。
「友達の恋心を参考に、ちょっとがんばってみたらできちゃった新曲です。“Sparks Fly”」
曲紹介をし、ベラはうたいはじめた。
たった一度街角で見かけただけ
おかしいってわかってる
だけどその短い時間に私はあなたのことを記憶した
きっとあなたの想像以上よ
大切な人がいるってわかったのはそれからすぐのこと
私じゃない誰か
打ち明けることが罪になるなら口を閉ざすわ
だけど本当はあなたに伝えたい
あなたのことを考えるたび
今まで知らなかった感情が
全身に溢れだして
このハートを刺激する
だって火花が散るのが見えたんだもの
私の目が、あなたの目を捉えた時にね
一瞬にして私の心を掴み
夜も眠れなくしてしまったあなた
今私が願うのはたったひとつだけ
あなたが目を閉じた時
火花が散るのが見えたことを思い出してほしい
あなたの目が、私の目を捉えた時のことをね
数ヵ月後、再びあなたに会えた
まだシングルじゃないのね
あなたの幸せを願ってる
だけど私が笑わせたい
今以上の輝きをあげられるの
ふたりならきっとできるわ
こんな時、待ってるっていうのは不謹慎
だからまだ気づかないでいて
でも小さなわがままは許してほしい
本当は今すぐあなたに伝えたいけど
あなたのことを考えるたび
今まで知らなかった感情が
全身に溢れだして
このハートを刺激する
だって火花が散るのが見えたんだもの
私の目が、あなたの目を捉えた時にね
一瞬にして私の心を掴み
夜も眠れなくしてしまったあなた
今私が願うのはたったひとつだけ
あなたが目を閉じた時
火花が散るのが見えたことを思い出してほしい
あなたの目が、私の目を捉えた時のことをね
友達があなたのことを話してくれる
いいところも悪いところも
それでも私の興味は尽きない
あなたの笑顔とあなたの声が
今でも焼きついてる
私の脳裏に、空に打ちあがる花火のように
もしもあなたを手に入れたら
私は本気で覚悟しなくちゃいけないんでしょうね
きっと危険な橋を渡ることになるから
でもあなたが私の手をとってくれるなら
なにも怖くない
あなたについていくわ
あなたのことを考えるたび
今まで知らなかった感情が
全身に溢れだして
このハートを刺激する
だって火花が散るのが見えたんだもの
私の目が、あなたの目を捉えた時にね
一瞬にして私の心を掴み
夜も眠れなくしてしまったあなた
今私が願うのはたったひとつだけ
あなたが目を閉じた時
火花が散るのが見えたことを思い出してほしい
あなたの目が、私の目を捉えた時のことをね
私の心に火花が散るの
あなたの中にも




