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第一話:召喚者の見た夢は、現実となるための一歩を進み出す


第一章:異世界召喚



鏡サイドと飛鳥サイドを交互に進めていきます。




『キャアアア!!!!』

『うわあああ!!!!』


 その場に響くのは、悲鳴や慟哭(どうこく)


『何だよ、これ……』


 目の前の現実を受け入れられずに、呆然となる者。


『私たちを助けてください、勇者様!』


 召喚陣の上に居る『少年(・・)』に助けを求める『少女(・・)』。


『全く、何やってんのよ』


 呆れ混じりに現れた人物に、


(あす)()……?』

『久しぶり、鏡!』


 『少年』と顔見知り(・・・・)の『少女』との再会。


『感動の再会は後回しだ! アスカ!』

『分かってる!』


 顔見知りの少女の仲間らしき金髪の獣人少年とのやり取り。


『黒騎士?』


 顔見知りの少女の言葉に、首を傾げる仲間。


『私たちがちゃんと援護してあげるから、安心しなさい!』

『ここは俺たちで足止めしといてやるから、お前らは早く行って倒してこい!』

『ああ!』

『はい!』


 前に立つ男性と女性に、戦うべき相手へと立ち向かっていく者たち。





「夢、ですか……」


 そこで、目が覚めた。

 先程見ていたのが夢だというのなら、場所も状況も時系列も全てバラバラなのも納得できる。妙に生々しい部分もあったが。

 それでもーー


「夢は夢でも、これは予知夢なのでしょうか?」


 予知夢かどうか確証は無いが、とにもかくにも、今は自分のやるべきことをやるだけだ。


   ☆★☆   


「……」

「……」


 片や召喚陣の上に座る黒髪の少年、片や立ったままの金髪の少女が無言で視線を交わす。


(皆さん、こんにちは。俺の名前は月城(つきしろ)(かがみ)。先程まで幼馴染とも呼べる各務(かがみ)飛鳥(あすか)という女と一緒に居たんだが、これは、どういう状況だ?)


 まるで一人称の物語のような、誰かに語っている(てい)だが、彼を知る者たちから見れば、普段通りとは到底言えないような様子ではあるのだが、いつもなら「冷静になりなさい」とばかりに突っ込んでくる存在も不在であるがために、ただただ現在自分が置かれている状況から目を逸らそうとする。


(……これって、まさかーー? って、いやいやいや! もしそうなら、何で俺なわけ!?)


 さらに、真下にある魔法陣と周囲にファンタジックな装束の者たちが居るという状況が、彼を混乱させるのに拍車を掛けているのだろう。


(とまあ、そんな現実逃避はさておき……)


 さすがに、ずっとそうしているわけにも行かないので、鏡は息をそっと吐いて、ぽつりと呟く。


「それにしても、本当に飛鳥はどこ行ったんだ?」

「え?」

「ん。いや、こっちの話です」


 自身の呟きに対し、不思議そうにする少女に、鏡は苦笑すると、改めて周囲に目を向け、先程の光景を思い出す。


『私たちを助けてください、勇者様!』


 今目の前にいる少女と最初に会った時に言われた第一声が、それだった。

 鏡自身、勇者? とも思ったのだが、幼馴染や友人たちがその手の物語やゲームなどが好きだったり、それを見ていたり、やっていたりしていたから、この状況も受け入れようと思えば、受け入れられる。

 ただーーやっぱり、飛鳥が隣にいれば、もっと良かったのだろうが、とも思ってしまうわけで。


「あの……一つ、お聞きしたいのですが」

「何ですか?」

「飛鳥……俺以外に女の子がもう一人、居ませんでした?」


 そんなの、周囲を見回せば愚問にも等しいのだが、鏡としては、他の人からの意見も聞きたかった。

 もしかしたら、この場には居たのかもしれないが、自分が気を失っている間に何かあって、居なくなっただけかもしれない。

 それがーーたとえ、見ず知らずの場所で、良く知る存在である飛鳥がいないという事実からの現実逃避だとしても。


「いえ、(わたくし)たちが確認しましたのは、間違いなく貴方お一人なのですが……その方がどうかなさったのですか?」

「いや、居ないのなら居ないで良いんです」


 そう返事をしながら、鏡は何とか笑みを浮かべる。

 幼いときから、その時間のほとんどを一緒に行動していた少女。

 そんな少女が、側に居ない。こちらに来る前、自分と同じように魔法陣に引き込まれるように、飛鳥はこちらへ来たはずだろうにーー……

 だが実際、飛鳥はこの場には居らず、目の前の少女が嘘吐いているのかも分からないし、今の鏡には判断できない。


「あ、紹介が遅れました。(わたくし)はルーシェリア・フォン・アインレイシア。どうぞ、ルーシェとお呼びください」


 丁寧に軽く頭を下げ、名乗る金髪の少女ーールーシェリアに、内心戸惑いながら、鏡も名乗る。


「あ、俺……僕は月城鏡って言います。鏡で良いですよ」

「ふふっ、別に無理に言い直す必要はありませんよ。貴方が話しやすい話し方で話してください」


 そうは言われても、高貴さを滲ませる彼女に対し、本当にいつも通りに話していいものなのだろうか。


(飛鳥なら、何を言われても、口調は変えないんだろうけど……)


 そこで、互いに笑みを浮かべるが、どう見ても二人の笑みの種類は違っていた。


「……少しずつ、で良いですか?」

「分かりました。では、少しずつ慣れていくとしましょう」


 ルーシェリアが満面の笑みを浮かべ、鏡に手を差し出す。


「我が世界と我が国へ、ようこそ。カガミ様。貴方を勇者とし、これから先、幾度の困難や危険が待ちかまえていようと、我らが全力でサポートさせていただきます」


 慣れない「カガミ様」という呼ばれ方をされながらも、内心で瞬時にメリットとデメリットを考えた鏡は、差し出されていたルーシェリアの手を取り、立ち上がる。


「ああ。こちらこそ、よろしく」


 これが、鏡の異世界生活、最初の出来事であり、始まりでもあった。


(何としても探しに行くからな。だから、それまでは無事で居ろよ。飛鳥)


 そんな気持ちも抱きながら。





「っ、」


 身体中が痛くて仕方がない。

 少しでも動かそうとすれば、すぐに激痛が走る。


「かが、み……」


 激痛と「何でこんなことになってるんだろう?」という感情による涙を堪えながらも、幼馴染の名前を呼びながら、人が居そうな方向へと必死に手を伸ばすが、それも空しく空振りし、彼女(・・)ーー飛鳥の意識は、そこで暗転した。

 ただーー


「何で、人間(・・)がこんな所に居るんだ? しかも、こんなにボロボロで」

「さあ? それにしても、珍しいものを着ているよね」

「……とりあえず、生きてるみたいだし、さっさと治療して、話を聞いてみるか。敵かどうかはその時に分かるだろ」


 運良くそんな男たちの気まぐれにより、飛鳥は助けられることになるのだが、これが、彼女の波乱に満ちた異世界生活の始まりでもあった。

 そして、それと同時にーー


「さあっ、私を楽しませて! 退屈させないでちょうだい!」


 女神の暇つぶしも、現時点を(もっ)て、本格的に開始されたのである。



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