表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ


 とある世界のとある場所。

 そこには三人の女がいた。

 三人のうち二人はあちらこちらへと忙しそうに動き回っており、うち一人は寝ころびながら、目の前の水晶を見ていた。


「ちょっと、寝転がってないで手伝ってよ」

「無駄よ。言ってる暇があるなら、私たちが動いた方が早いわ」


 動き回っていた二人の言葉に、寝転がっていた女は思う。


(バカね。私がこうやって下界を見てるから、状況が分かっているっていうのに)


 水晶は様々な場面を映す。

 子供たちが遊ぶ所や若者たちの青春、先が短いと分かっていても元気に暮らす老人たち。


(でも、つまらないわ)


 女はそう思う。


(私たちの世界にイレギュラーを入れたらどうなるかしら?)


 ふと思いついた考えに、我ながら面白いと思いながら、水晶に映るのは、自分たちのいる世界とは別の世界。

 そして、そこに映っていたのはーー……


「見ーつけた。彼にしましょう」


 女は誰にも気付かれずに、ニヤリと笑みを浮かべた。


   ☆★☆   


 時空管理局・戦闘機動課。


「ったく、どういうことだ! 今まで音沙汰無しだというのに」

「落ち着いてください。場所はグラスイースト世界。寄りによって彼女(・・)が不在な時に起こるなんて……」


 警報機の様な物がその場に鳴り響く。

 それを聞き、机に握り拳をぶつけて怒る男に、女が宥める。


「とりあえず、私は彼女に連絡だけはしておきます」


 女の言葉に頼む、と男は言うものの、どうしたもんか、と目の前の画面を睨む。


 グラスイースト世界。

 グラスワールドと呼ばれる東西南北と中央の五つからなる世界の一つであり、その東に位置するのが、グラスイースト世界である。

 グラスイースト世界にも神はおり、そのうち世界を仕切る女神の数は三人。

 この世界の担当者は北に位置するグラスノース世界へ召喚された異世界人であり、現在そちらでの仕事も兼ねて故郷とグラスノース世界、そして、この場所を行き来していた。


「課長、彼女と連絡取れたんですが、召喚魔法の使用許可が欲しいと言ってるんですが」

「はぁっ!?」


 課長と呼ばれた男は変な声を上げた。


「直接繋ぎますね」


 最初からそうすればいいのに、と思う反面、彼女は彼女でやることがあるのだろう。


「召喚魔法の使用許可ってどういうことだ?」


 繋げられた回線に、男は尋ねる。


『嫌な予感がするんです。グラスイースト世界はグラスノース世界同様、勇者と魔王が存在します。グラスノース世界とは違って、亜人差別があり、グラスイースト世界の住民たちの中には、獣人などの亜人たちを排除しようとする活動をする者たちがおり、実際に行われています』

「グラスイースト世界がそういう世界なのは、俺もよく知っている」

『では、そんな世界に、何も知らないーーそれも、異世界人たちが勇者として、喚ばれたらどうしますか?』

「……何?」

「……あ」


 怪訝する男に対し、話を聞いていたらしい女が何かに気付いたように声を上げる。


『何も知らなければ利用するのに都合がいい。しかも、グラスイースト世界の女神の一人が仕事を放棄気味だと、(こちら)へリークしてきましたから、すでにこちらの観察対象に入ってます。つまりーー』


 グラスイースト世界の人間たちが勇者召喚しようとすれば、女神の一人がそれを利用しないはずがない。

 そして、こちらにとっても、問題が一度に二つも片付くことになる。まさに、一石二鳥だ。


『ただ、そのためには召喚された者の制止役が必要です。召喚された者は女神に利用されるでしょうから、制止役は女神に気付かれず、こちらから送り込んだと分からないように、勇者召喚と同じ方法でグラスイーストへ召喚する必要があります』

「それでも、グラスイースト世界を管理しているのは女神たちでしょ? 問題の女神の一人に見つかる確率の方が高いわよ?」

『ですから、私はその見つからない確率(・・・・・・・・)に賭けます』

「もし、失敗してその者が亡くなったらどうするつもりだ」


 男の問いに、担当者は黙り込む。

 もし、問題の女神に見つかれば、こちらから送った人物の命はないかもしれない。


『大丈夫ですよ』


 二人は目を見開いた。


『女神に妨害されるのは予想済みですが、超強力な防御壁を陣に仕込みますから』


 それに、と担当者は続ける。


『多分、喚ばれるのは私の関係者ーー』


 いや、弟子のはずですから。

 担当者はそう言った。


   ☆★☆   


 地球世界・日本のどこか。


「鏡」


 呼び止められ、鏡と呼ばれた少年は振り返る。


「飛鳥」


 飛鳥と呼ばれた少女はよ、と手を軽く挙げる。


「鷹森たちと一緒じゃないのか」

「別にいいのよ。(ゆい)蒼緋(そうひ)と一緒だから」


 そう言いながら、鏡の隣を飛鳥は歩く。

 二人の友人である鷹森結(たかもりゆい)東雲蒼緋(しののめそうひ)は二人の姉たちと同様に幼馴染であり、飛鳥たちは結と蒼緋と小学校からの付き合いがある。

 鏡たちが結と蒼緋の姉ーー結理(ゆうり)朱波(あけは)の二人と最後に会ったのは、中学二年生の時だ(なお、結の兄である友愛(ゆあ)と最後に会ったのは受験勉強時であり、分からない点を教えてもらっていた)。


「に、してもだ。テスト明けだし、どっか行くか?」

「あんたとデートするつもりはありません」


 ちょうど試験最終日で早く帰れるのも最後であり、そんな言い合いしながら、二人は通い慣れた道を歩いていく。

 だから、何もないというわけではないのに、


『慣れは怖いわよ』


 という数年前に聞かされた言葉を思い出した二人は悪くない。


(だからって……)


「こんなのありかああぁぁああ!!!!」

「っ、鏡!?」


 いきなり足下に現れた光る魔法陣に叫ぶ鏡に、飛鳥が手を伸ばすがーー


「うっ、そ……」


 引っ張り上げるどころか一緒に足下の召喚陣に飲み込まれた。






「だから、そう簡単にはいかせないって」


 そんな二人の状況を、遙か遠くの世界から見ていた人物は笑みを浮かべながらそう言う。


 そしてーー


「やっぱり邪魔が入るか。予想通りね。でもーー」


 女ーーいや、女神は笑みを浮かべる。


「目的のためには邪魔はさせないし、その程度で隠したなんて、ふざけないでほしいわ」


 女神は手を一振りする。


「ごめん、二人とも。でもお願い。この世界をーーグラスイースト世界を、助けて」


 関係のない者たちを、被害者を、魔王を殺さないでくれ。


 遙か遠くの世界から見ていた人物はーーグラスイースト世界の担当者はそう祈るしかなかった。


(今は無理だけど、必ず助けに行くから)


 だから、時が来るまでは待ってほしい。


 そして、彼女は目の前の問題を片付けるために、歩き出すのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ