第9話:帰還
梯子を降りると、そこには人間界では考えられないような壮大な自然が広がっていた。何本かの樹木はまるで何千年も生きてきたかのように、そこにどっしりと座っている。
「す・・・すご〜」
そう言う他になかった。梅の故郷の家は草原に位置しており、そのため、高い遠くの山の樹木など見えるはずもなかったのだ。
っとここで梅はハッとした表情で我に返った。
「こんなに感動している場合じゃなかった。さあ、先を急ごう。」
そういうと、一つ深呼吸をしてその樹木の間を抜けることにした。
しばらく行くと、さすがに疲れたのか、アキレス腱が痛んだ。
「痛たたた・・・ちょっと休憩しよう。」
この時の梅には、もうかつての「弱くて小さい子」のイメージは無くなっていた。
その時だ。「ぐぅ〜」梅の腹が、まるで漫画に描いたように可愛く鳴った。
「そろそろお昼時かぁ。今日のご飯はこれだけ・・・」
そう心の中でつぶやくと、さっきこっそり作ってきたおにぎりを革のカバンから取り出した。
「やっぱりこういうときにはおにぎりよねぇ。大自然に囲まれながらの食事は何でも美味しいけど。」
そう言うと、やっぱりここでも精一杯の伸びをして、最後の一口をくわえた。
そしてふと前を見ると、目の前には高い樹木はなく、小さな丘があった。
「わぁ〜。すご〜い。」
そこからはいつも梅が見ていた景色が広がっていた。
「やっと、やっとここまで帰ってきたんだ。もうすぐ、皆に会えるんだ!」
しかし、よく見てみると、少し捻じ曲がっているようにも思えた。
「そうか、これが陽ノ丸さんの言っていた、不思議な現象なんだ。」
-人間界と鬼人界の境目にある、あの何だ、あの、人間界で言う・・・関所の様な物を・・・-
しかし、一番大事な井戸が見つからない。
「おかしいなぁ・・・あっ!あれかな!?」
梅の目線の先には、確かに木箱のような色をした井戸があった。しかし、本当にここから人間界に帰れるのかどうか、正直不安が残りそうだ。
「大丈夫なのかなぁ。でも、ほかに戻るところは無さそうだし。」
そう言って梅は井戸に飛び込んだ。
それからと言うもの、不思議なことに鬼の姿は一度も見られなくなったが、煉獄島の上空には、絵に描いたようなドス黒い雲が覆うようになった。