第8話:門出
「わ、私じゃないです。私はずっと眠っていたし、それに・・・」
「ならいいんだ。ちょっと確認したかっただけだ。」
そう言うと、陽ノ丸はその場に胡坐をかいた。
「とにかく、こんなことをしている場合ではない。・・・そうだ、お前、帰り道は分かるか?」
陽ノ丸の指は梅を指したが、やがてその指が陽ノ丸の顎元に戻った。
「分かるわけないか。私が連れて来たのだからな〜。お前、地図は読めるか?」
「残念ながら読めません・・・でも、言って貰えば大体分かりますよ。」
「そうか、あの井戸の中に入ればもとの世界へ戻れるだろう。ここからだと、随分かかるが・・・大丈夫だろう。」
陽ノ丸が言った事を頭の中に整理すると、すっと立ち上がってスーッと息を吸うと、「今まで有難う御座いました」と一礼して、急いで準備を進めた。
しかし準備をしている最中、梅の頭の中に疑問がふっと浮かんできた。
「そういえば、なんで私を置いて下さらないんですか?」
「そんなの、お前の身が危険にさらされるかもしれないからに、決まっているだろう。」
「なんで、そんなに私を守ろうとするの?」
「そんなの・・・いつか分かることであろう。さあ、行くんだ。」
「お元気で。」
そう言うと、梅は自分が思う精一杯の背伸びをして、別れを惜しむことなく梯子を降りた。
不思議なことに、梯子をあんなに怖がっていたのに、「帰れるんだ。」の一心で怖さを感じることはなかった。