第5話:息止め
梅は高所恐怖症なので、梯子に一度は掴まったが、すぐにあきらめてしまった。
「だめ・・・やっぱり無理・・・」
梅はそう自分に言い聞かせて、丸太小屋の中に逃げ込んでしまった。そうして時間は過ぎていったが、埒が明かず、襖の前でうずくまって陽ノ丸を待つことにした。その時だった。うずくまって泣いていた目の前が急に暗くなった。
「何を泣いているんだ・・・仕方がないか・・・急にこのような光景を目にしたら誰でも足が竦むであろう。まあよい、今日の分はもう済んだ。今日はゆっくり寝て居れ」
「ねえ、私は何時元の世界に帰れるようになるの・・・?」
「それを調べに今から出かけてくる。いいか、よそ者が来たら息を止めるのだぞ。お前のように小さき子はすぐに息のにおいを嗅ぎ付けて食べるからな。いいか、鼻をつまんで息をいっぱいに吸え。」
梅は実際に試しに息を止めていたがどうにも息が続かず、心配になって陽ノ丸に聞いた。
「ねえ、息止めなきゃ駄目?」
「食われたいんだったら呼吸してもいいぞ。まあ、あまり来ないから大丈夫だろう。心配するな。じゃあ。」
そういうと、また陽ノ丸は翼を広げ、どこかに飛び立っていった。梅はその光景を目に焼き付けるように最後の最後までまじまじと見つめて、やがて襖の前に布団を敷き、毛布に包まるようにして眠りについた。