第3話:盗難
「あなた、もしかして、鬼?」
「ああ、そうだ。」
「じゃあ、あなたがおばさんを・・」
「それは違う。君の村を襲ったのは陰の鬼だ。奴らは元来、私たちと共に人間界と鬼人界の境目にある、あの何だ、あの、人間界で言う・・・関所の様な物を互いに守ってきたのだが、ある時一人の人間が森に迷い込んできてしまったんだ。その時に森に古くからある石版の下を掘り出し始め、鬼人達の寝ている間にある宝物を持ち出してしまったんだ。その時に見張りにいた陽の鬼はなぜか眠っていたのだ。そして、そのことが陰の鬼たちにばれてしまって・・・戦争状態になってしまったんだ。」
そう言うと、陽ノ丸は部屋の奥のほうへ行き、梅は一人取り残されてしまった。
その晩の事だった。暗闇に包まれた、丸太小屋の中へ、一匹の狼のような化け物が静かに小屋のほうを見ていた。狼のような化け物の後ろには、その手下であろう子鬼たちがいつでも突撃できるように、万全の体制で長の「いまだ!」を待っていた。しかし何時までたっても長の声は響かず、沈黙のときを過ごす事となった。
やがて月が雲に隠れようとしたとき、長である化け物は何かを察したのだろうか、目の色を変えて呪文をかけ始めた。
「宝珠よ・・・そなたの場所はわかって居る。その輝かしい姿、我に見せてはくれぬのか・・・さあいまこそっっっ!その結界を打ち破らん!」
そのときだ。長の角から光が放射状に放出されると、やがてそれは煙突のすぐ横に一転に集中した。
「そうか・・・そこであったか!」
長はもう一度、今度は違う呪文を唱えた。そのとき、さっき一点に集中していた光は一気に消え、長の目の前の、なにやら羅針盤のような物の上に、宝珠が横たわった。
「子鬼を招集するまでもなかったな・・・皆の衆、退散じゃ!」
そう言うと、足跡も残さずに、暗闇の中に逃げていった。その様姿は月のみぞ知る、と言った所だろうか。闇に消えていく様姿はまさに電光石火のようだった。誰もいなくなった小屋の前では、この後起こる惨事を予感させる、不吉な風が吹いていた。