第一話
―薄暗い夕闇の中で灯篭に灯る淡い灯が、妖しく、儚い蝋燭の灯の如く揺らめいている。静まり返った山をよそに、ふもとではにぎやかに祭囃子が響いていた。近くの民家では、地元の人たちが豚汁を振るっていた。その内の一つ、伊吹家では、にぎやかな祭りとは対照的に、山のような静けさがあった。その家には5人、家族がいるが、その内3人は祭りの運営などで出かけていた。家にはもう70になるおばあちゃんと7歳位の小さな子供がいた。その子供は暗闇に淡く灯った蝋燭を背にすやすやと寝ている。しかし、どうも外が騒がしいようで、その重い瞼は次第に軽くなっていく。
「ん、ん〜。うるさいな〜何?お祭り?人がせっかく休んでるのに。ね、バーチャーン。」
その声に見事にこたえるかのように、おばあちゃんはそっと口を開いた。
「なんだい?」
「ね、なんのお祭りなの?」
「鬼神様を祭っているんだよ。」
「えっ!?オニガミ!?それってなに?」
「あのね、おばあちゃんのおばあちゃんが話してくれたんだけどね・・・」
「えっ!?おばあちゃんのおばあちゃん!?」
その子は急にすくっと座ったので、おばあちゃんはフフッと笑って、続きを話した。
「この煉獄島ではね、昔から悪い人たちが連れてこられてね・・・」
―「梅ちゃん、梅ちゃん。」おばさんの声だ。
「梅ちゃん、た、大変よ〜」どうも落ち着かないようなので、梅はあきれたような顔をした。
「とりあえず落ち着いて。何があったのです?」
「あ、あのね、う、裏に、鬼がいる。」
「えっ!?鬼?」
この島には半分は人間、もう半分は鬼が住んでいる。その鬼のなかでも、陰と陽との鬼に分かれていて、どの鬼も互いに支えながら住んでいた。鬼には鬼の、人間には人間の、文化をそれぞれ持ち、顔を合わせることはあまりなかった。しかし最近になって、その境界線である岩が何者かに破壊され、怒った鬼が民家を襲うようになっていた。
「大変だよ。裏の豚小屋がこわされちゃう。」
梅はハッとした表情で、裏に向かって走り出した。