星空の伝承『星の恋人』
わたしたちはみな、夜空を見上げて亡くした人を想います。
子供の頃から信じられている、言い伝えがあるのです 亡くなった人は、星になるのだと
わたしもまた子供の頃 おとうさまから教典片手に読み聞かされました。生前よい生き方をした人は、亡くなったとき星になる。そして空の上で生き続けるのだと。
わたしの恋人は夜空に居ました。彼はわたしより先に亡くなったのです。天の高いところにある わたしが丁度見上げた視線の先、金色の星が彼。彼の遺体を燃やした炎の中から 白い天使が立ち上って夜空に運ぶと、あの星が現れたのでした。
けれどああ、わたしは恋人と同じ場所へは行けません
わたしは彼を亡くしてからというもの、ろくな生き方をしませんでした。何もかもに無気力で、毎日空を見上げてばかり、怠惰なままに死んでしまいました。なのでこうして冥府の川の、星になれなかった人がいく場所へ連れて行かれるところなのでした
神様はほんとうによく生きた人やものだけに手を差し伸べて空へ迎えてくださるのでしょう
冥府の底の底まで落ちては、空を見上げることも叶いません わたしは彼を最期に目に焼き付けるため、船の上から夜空を見上げました
すると みつけた彼の星が、間違えようもない彼の星が
何度も何度も見上げた空から
まっすぐ、尾を引いて落ちていくではありませんか
わたしは息を呑んでその美しい、けれど恐ろしい、悲しい光景を見詰めました
彼が、夜空の上から居なくなってしまう…! どうして、どうして
見失うまいとまばたきもせず一心に見詰めた視界の中で 彼の星はどんどん大きくなっていきます
近付くごとに冥府は天のように明るくなり 静まりかえっていた空気が震え、水面が渦をたてました
その時ようやく気付いたのです 彼が、輝く夜空での命を捨てて、神に選ばれた栄誉も捨てて、永遠の安寧をなげうって、どこへ向かって落ちているのか。
ああ、そうです 彼はこちらに向かって降りてきている!
空から海を突き裂いて冥府まで落ちてきた彼は、輝く微笑みで一面を塗り替え 抱き留めたわたしの身体を穿ちました
「迎えに来たよ」と懐かしい、彼の声が聞こえた気がしました
それから一度、世界は終り 平らにどこまでも広がっていた大地は砕け、神様が天から欠片を集めて握りしめたので 丸い球体になりました
大地で隔られていた天と冥府は 球の中心に冥府があり 大地と海が覆うようにあり その外側に天の国があるようになりました。
彼が無茶をしたことで、大変なおもいをした神様たちは
その後いつの世になっても、人を星にするのを やめてしまったそうです。




