表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第1章 星海転移編―星海に現れた鋼鉄の来訪者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/15

第5話 揺らぎ核への航路 ― 星海を裂く影の爪

 星海の光が〈みらい〉の船体を滑るように流れ、その軌跡はまるで“銀河の川”を切り裂く航跡のように広がってゆく。


 艦橋の前面スクリーンには、星々がゆっくりと伸び、圧倒的な異世界の静寂が広がっていた。


「艦長、〈アウロラ〉からの航路データ、受信完了しました。目的地までの距離……星海基準で“七潮”です」


 ユイが報告する。


「七潮って、どれくらいなの?」


 レイリアが首をかしげる。


「時間ではなく“位相距離”です。物質空間で言えば……」


 ユイの瞳に光が走り、計算がはじまる。


「……およそ数百光年相当の隔たりです」


「数百……!? そんな距離、どうやって移動するのよ!」


 レイリアの驚きは無理もない。


 しかし、遼はすぐにユイへ視線を向けた。


「ユイ。星海の“航行方式”は解析できてるか?」


「はい、艦長。“距離”という概念が物質宇宙より曖昧です。


 星海では、座標よりも“潮流の向き”が重要になります」


「つまり、流れに逆らわず乗れば遠くまで行けるってことか」


 遼がまとめると、ユイは嬉しげに微笑んだ。


「はい、艦長。まさにその通りです。星海の流れは“未来候補の密度”によって形を変えます。揺らぎ核へは……いま最も強い“願いの潮”が向かっています」


「願いの潮?」


 レイリアが首を傾げる。


「未来を守ろうとする意思が、潮流そのものを強めているようです」


 ユイはスクリーンに映る光海の流れを指し示した。


「この強い流れに乗れば、七潮先の揺らぎ核まで最短で到達できます」


「いい風だな」


 遼は笑った。


「なら進むしかない。〈みらい〉、潮に乗れ」


「了解、艦長。星海航行モードへ移行します」


 艦体が柔らかな振動を発し、船体外周に淡い青白いフィールドが展開していく。


 まるで〈みらい〉そのものが星海の一部――光の“船”へ変質してゆくようだった。


***


 船が潮流に乗った瞬間、周囲の景色が一変した。


 流れる星の光が線となり、青白い波流がぐわっと迫ってくる。


 穏やかだった星海が、一気に巨大な奔流へ変貌したのだ。


「すごい速度……!」


 レイリアが座席をつかんだ。


 しかし揺れはほぼない。


「艦長。推進器は使っていません。潮流が自然に引っ張っています」


「こりゃ……海の“黒潮”を捕まえた時に似てるな」


 遼が呟く。


「乗れば速い、逆らえば沈む。そんな感じだ」


「はい。だからこそ――潮流の“乱れ”が危険になります」


 ユイは表情を引き締めた。


 その言葉の直後だった。


 前方スクリーンが警告色に染まる。


「艦長! 前方に異常な歪み――“影波”です!」


 ユイの報告に、遼の視線が鋭くなる。


「影波……時間喰らいの侵蝕か?」


「はい。潮流モデルで見た黒い影……あれが“波”となって押し寄せています!」


 ユイの声に緊張が走る。


 スクリーンいっぱいに現れたそれは“黒い渦潮”だった。


 光の海が吸い込まれ、未来の可能性が削り取られていくような感覚すらある。


「艦長、直進は危険です! 潮流の流路が“固定化”されつつあります!」


「固定化……未来がひとつに押しつぶされるやつか」


「はい、このまま突入すれば〈みらい〉の未来も――」


 ユイの声がわずかに震えた。


「ユイ、落ち着け。分析を続けろ」


 遼が静かに言うと、ユイは深呼吸し、瞳に光が戻った。


「……はい、艦長!」


 遼はすぐさま指示を飛ばす。


「全周レーダー展開。潮流の“弱点”を探せ!」


「了解、艦長!」


 ユイの指が空中操作パネルを走る。


「……見つけました! 黒い渦の左側に、微弱な揺らぎがあります。そこだけ“未来の流れ”が残っています!」


「そこを通るぞ。レイリア、補助席頼む」


「了解よ、艦長!」


 遼は舵輪へ手をかけ、一気に左へ切った。


「――持っていけぇ!!」


〈みらい〉が潮流の壁を切り裂き、黒い渦のすぐ脇をすり抜ける。


 星海の光が暴風のように吹き荒れ、艦を揺さぶる。


「ユイ、フィールド強度!」


「120%へ増幅! 外殻、問題ありません!」


「レイリア、水平維持!」


「やってるわよ!」


 遼は歯を食いしばった。


 ――影波の圧力が、まるで巨獣が艦体を掴むように襲いかかってくる。


「艦長! 影の触手、前方に出現!」


 ユイの警告と同時に、黒い束が海を裂きながら伸びてきた。


「よし……」


 遼は舵をさらに倒し、潮流の端へ滑り込む。


「――抜けるぞっ!!」


 黒い触手が艦体のすぐ横をかすめ、星海の光が弾け飛んだ。


 瞬間、視界が一気に開ける。


「……突破、成功です」


 ユイの声は震えていたが、確かな安堵が含まれていた。


 レイリアは大きく息を吐き、額の汗を拭った。


「……死ぬかと思った……」


「同じく」


 遼は苦笑しながらも、視線はひたすら前を見据えていた。


 ユイがそっと遼を見る。


「艦長……さすがです。あの乱流で即座に突破経路を判断できるなんて、わたしでも……」


「あれはただの勘だよ」


 遼は軽く答えた。


「海の男は、潮の流れを読むのが仕事だからな」


 ユイは胸の前で手をぎゅっと握った。


「……“勘”って言葉で片づけないほうがいいと思います。艦長の判断は、わたしの予測モデルを何度も超えてきました」


 遼は少し照れ臭そうに目を伏せた。


「そうか?」


「はい。艦長は……“未来を読む力”を持っているのかもしれません」


 その言葉にレイリアがこっそり笑って、


「それ、ちょっとカッコつけすぎじゃない?」


「レイリアさん、事実です」


「えっ、本気なの……?」


 二人のやり取りが続く中、遼の視線だけは前方に、そして――


 浮かび上がりつつある“巨大な光の構造物”に向いていた。


「艦長……見えますか?」


 ユイの声が静かに震える。


「ああ……あれが――」


 星海の奥にそびえ立つ、巨大な光柱。


 幾重もの光の輪が重なり合い、中心で星屑のような輝きが脈動している。


 ――揺らぎ核。


 星海の未来潮流を守る“心臓部”。


「……ここが、“未来を守る戦い”の舞台ってわけだな」


 遼が呟く。


 ユイとレイリアが、遼の隣で静かに頷いた。


〈みらい〉は揺らぎ核へ向けて、その光の心臓へ――


 ゆっくりと、しかし確実に迫っていく。

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ