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現代イージス艦〈みらい〉、星海戦争へ ― AIと艦長が未来を変える物語  作者: ねこあし
第1章 星海転移編―星海に現れた鋼鉄の来訪者

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第2話 星環連合の使者 ― 光海より来たる者

 星海を漂う光の波は、液体にも気体にも分類できない。〈みらい〉の船体を柔らかく支え、時に押し返すように揺れながら、外界の物理法則がここでは“ひとつの選択肢”に過ぎないことを教えていた。


 巨大な銀の艦影――星環連合の旗艦らしき存在は、依然として〈みらい〉の正面を静かに保っている。


 その佇まいは敵意も威圧もなく、むしろ“待っている”という意思が透けて見えた。


「艦長……通信波らしきものを受信しました。でも、これ……」


 ユイが眉を寄せる。


 遼は目だけで続きを促した。


「……“音声”じゃありません。“意識波”です。こちらの認識領域に合わせて、自動変換を――あ、来ます」


 次の瞬間。


 艦橋の空間に、ひとりの女性の姿が光の粒子から立ち上がった。


 淡い銀髪。


 瞳は星海と同じ“光の海”が揺れるような蒼。


 服装は軍服でも法衣でもなく、どこか儀礼的な機能美を備えたスーツ。


 だが、その輪郭はいまだ半透明で、この世界に完全に“存在”しているわけではないらしい。


「……ホログラム、ではありませんよね?」


 レイリアが呆然とつぶやく。


 女性は柔らかな笑みを浮かべた。


『はじめまして。星環連合〈アウロラ〉所属、調整官アレイシアと申します。あなたたちの到来を、心より歓迎いたします』


 その声は、不思議なほど自然に耳へ届いた。翻訳という手順を感じさせず、まるで最初から同じ言語で話しているかのように滑らかだった。


「こちらはイージス艦〈みらい〉。艦長、橘遼だ。歓迎される理由を教えてもらえるか?」


 遼は最初に“問い”から入った。


 拙い友好はむしろ危険だ。特に、ここがどんな法則で支配されているのかすら分からない状況ではなおさら。


 しかしアレイシアは微笑んだまま、軽く会釈をした。


『あなたたちは“正しい航路”を選んだ者たちです。その選択は、こちらの世界にも影響を及ぼしました』


「……航路?」


 遼は眉をひそめる。


 アレイシアは艦橋の窓――星海を見渡すように手をかざした。


『あなたがたの世界では、未来は“結果”として訪れますね。しかし、星海では違います。未来は“選択の潮流”として存在し、無数の世界がその形を変えながら流れています』


 ユイが小さく息を呑む。


「……つまり、複数の未来が常に“候補”として存在する世界、ということですか?」


『正確です。ユイ=コード・ミライズ。あなたはすでに、未来の位相を扱った経験がおありですね』


 ユイの肩がぴくりと揺れた。


 遼は視線だけで“大丈夫か?”と問い、ユイは“問題ありません”と小さく頷き返す。


『そして――橘遼』


 アレイシアの視線が遼へ向いた瞬間、艦橋の空気がひときわ静まり返った。


『あなたは、自らの世界で“犠牲を前提とした未来”を拒みました。その意思は、こちらの世界で“未来潮流の干渉点”として観測されています』


「俺の……選択が、そんな影響を与えたってのか?」


『はい。あなたが選んだ未来は、星海の一部の潮流に“光点”として刻まれました。だからこそ、あなたたちはここへ“迎えられた”のです』


 レイリアがぽつりとつぶやく。


「……迎えられた? まるで私たちが、ここへ来ることが最初から決まっていたみたいね」


『決まってはいません。選ばれたのです。あなたがたの“選択”によって』


 遼は深く息を吸った。


「俺たちを呼んだのは、星環連合なのか?」


 アレイシアは静かに首を横へ振る。


『いいえ。私たちは“あなたたちが辿り着く”ことを観測していましたが、強制的な呼び出しを行ったわけではありません。この星海へ到達するには――あなたがた自身の航路更新が必要でした』


 ユイが小さく目を伏せる。


「……“天命選定”の残滓……あれが航路を書き換えたのですね」


『ええ。ですが、その更新は外的要因ではありません。“あなたたちが選んだ未来”が内部で連鎖し、結果としてこの世界へ接続したのです』


 遼は腕を組んだ。


 簡単にまとめれば――“誰も犠牲にしない未来”という選択が、既存の世界の可能性を超え、星海へつながる“新しい航路”を生み出した、ということだ。


「……なるほどな。概念は理解した」


 遼はアレイシアへと一歩近づく。


「で、歓迎された理由は? 俺たちに何をしてほしい?」


 アレイシアは一瞬だけ目を伏せ、そして静かに答えた。


『星海の“奥深く”で、未来潮流が乱れています。“時間喰らい”――あなたたちの世界でも断片的に観測されていた存在が、この層でも勢力を広げつつあるのです』


 ユイがはっと顔を上げた。


「時間喰らい……! あの概念干渉生命体……!?」


『はい。あなたたちが遭遇した存在は“端末”です。本体の影は、こちらの星海に潜んでいます。私たち星環連合は、潮流の乱れを抑えていますが――戦力が足りません』


 遼は思わずため息をつく。


「なるほど、ようやく話が読めてきた。……要するに、協力してほしいってわけか」


『はい。ですがこれは“依頼”ではありません。あなたたちが選んだ未来を守るためには、避けられない航路です』


 ユイが遼を見る。


「艦長……どうしますか?」


 レイリアも不安を隠せず、手を胸の前で組んでいた。


 ――どうするか?


 答えは決まっていた。


 遼は静かに息をつき、アレイシアをまっすぐ見つめる。


「協力する。ただし――俺たちは俺たちのやり方で守る。犠牲は出さない」


 アレイシアは深く頭を下げた。


『……その答え、確かに受け取りました。橘遼、ユイ、レイリア。あなたたちの航海が、ここから星海へ広がります』


「その前にひとつ確認だ」


 遼はあえて真剣な表情を崩さなかった。


「星環連合は、俺たちを“戦力”として扱うのか?それとも“仲間”として迎えるのか?」


 アレイシアは一瞬だけ驚き、そして微笑んだ。


『もちろん――“仲間”として。あなたたちを戦力として扱えるほど、この星海は単純ではありません』


 遼は少しだけ肩の力を抜いた。


「ならいい。……案内してくれ。この世界のことを知らなきゃ、戦いようがない」


『はい。〈アウロラ〉へ招待いたします。星海文明の核心へ――ようこそ』


 光がアレイシアの身体を包み、ゆっくりと消えた。


 遼はユイとレイリアに視線を向ける。


「よし、行くぞ。星の海だろうが何だろうが――航路を拓くのは俺たちだ」


 ユイは微笑み、


「はい、艦長。どこまでも、お供します」


 レイリアは胸元で手を握り、


「……未知の世界でも、あなたたちとなら進める。そう思えるから不思議よね」


〈みらい〉は光海を押し分け、静かに進み始めた。


 こうして、彼らの“新たな海原”が幕を開けた。

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