第15話 影の核を穿て ― 星海決戦・第一展開
〈みらい〉は揺らぎ核へ突進しながら、黒い影の触手群をミリ単位で回避していた。
星海の光は荒れ狂い、衝突するたびに火花のような光粒子が弾ける。
「艦長、前方の影密度が急上昇! “本体の影”がこちらへ位相を寄せています!」
ユイが警告する。
「つまり――こっちを本気で潰しにきたってわけね」
レイリアが苦笑交じりに呟いた。
遼は舵をさらに押し込み、影と影の“狭間”へ躍り込ませる。
艦体の外側に、黒い膜がかすめた瞬間、未来の情報が削り取られるような凍りつく気配が走った。
未来が消される感覚――
その異質さに、普通の人間なら恐怖で操艦どころではないだろう。
だが遼は、ほんの一瞬も迷わなかった。
「ユイ、影の中枢はどこだ?」
「解析中……! 影は分裂体を何十層も作って防御しています。核に近い領域ほど“未来固定濃度”が高まっており――」
その瞬間、艦橋の照明が一瞬落ちた。
「……っ!?」
レイリアが息を呑む。
「艦長……影がわたしたちの“未来位相”に干渉してきています。このままでは――“存在そのものが薄れていきます”」
「わかってる。だが止まるわけにはいかん」
遼は揺らぎ核の方向を見据えた。
「影の本体に辿り着かない限り、未来は守れない」
ユイは歯を食いしばるように目を伏せ、それから決意を込めて顔を上げた。
「……はい、艦長。では――影の“未来制約を逆手に取る”戦術を提案します」
「逆手に?」
「はい。影の固定化領域を“未来の確定”と捉えるなら……その裏に必ず“固定の裏側”――揺らぎの“死角”が存在するはずです。未来をひとつに絞った結果、その影に“選ばれなかった”未来の残滓が必ず生じるんです」
遼の目がわずかに細まった。
「……未来の影が濃いほど、逆に“未来の揺らぎも生まれる”ってことか」
「はい、艦長。影が未来を奪うほどに、その周囲には“削られた未来の隙間”ができる。そこが――影の“弱点”です」
この説明を理解できる人間が世界にどれだけいるだろうか。
しかし遼は、自然に飲み込んでしまう。
彼の“勘”は、潮流・風・戦況の変化だけでなく――
未来の揺らぎすら直感で捉えていた。
「ユイ、その弱点位置は特定できるか?」
「はい。ですが影が常に位置を変えています。読み取るには……艦長の操艦が必要です」
遼は小さく笑った。
「任せろ。未来も、潮流も……読んでみせる」
レイリアはわずかに笑い、席を握りしめた。
「……艦長のそういうところ、ほんと頼もしいわね」
***
「影の“揺らぎ死角”、出現確率18%……23%……上昇!」
ユイが叫ぶ。
「艦長、三時方向に微弱な“光の裂け目”!
あれが……未来の揺らぎです!」
「よしッ!」
遼は舵を右へ切り込み、影の密集地帯へ突っ込んだ。
黒い触手が四方から迫る。
未来位相が削られ、艦体の存在が軋む。
「ユイ、防御フィールドは?」
「80%維持! 限界を超えますが――増幅します!」
「増幅ってアンタ……!」
レイリアが悲鳴に近い声を上げた。
「大丈夫だ、ユイを信じろ!」
遼が叫ぶと、ユイが頬を赤らめたように見えた。
「……はい、艦長。信頼に応えます!」
艦体全周に薄い光が走り、影の触手と激突する。
衝突した瞬間、黒い膜が弾け、光の裂け目が一瞬だけ広がった。
「今だ……!」
遼は舵をさらに押し込み、裂け目へと滑り込んだ。
影の世界の内部。
そこには――“何も存在しない”。
光も、重力も、時間すらない。
ただ、無の中に浮かぶ“黒い核”。
未来を喰う獣の心臓。
「艦長……! あれが影の核です!」
ユイの声は震えていた。
「撃つぞ。ユイ、主砲に星海位相弾を装填!」
「装填開始――三秒!」
しかしその瞬間――
黒い核が脈動し、影の壁が急速に閉じ始めた。
「艦長! 影が死角を塞ぎにきています! 数秒で脱出不可能になります!」
「なら撃ち抜くしかねぇだろうがッ!」
遼の叫びに、ユイの手が震える。
「主砲チャージ完了……!」
「撃てェ!!」
白青の光が主砲から解き放たれ、影の核へ直進する。
しかし――
黒い核の表面が歪み、“未来の鎧”のように複数の位相を重ねて防御した。
光弾は一層を貫いた。
だが――届かない。
「くっ……!」
ユイが声を上げる。
「艦長、影の核は“未来層”を何層も重ねています! このままでは抜けません!」
レイリアが叫ぶ。
「じゃあ、どうするのよ!?ここで止まったら――!」
遼は舵から手を離し、深く息を吸った。
「ユイ。未来層の“間”を狙うことはできるか?」
「……間……?でも、未来層は固定化されていて――」
「固定化してるから“隙間”があるんだろ」
遼の声は迷いなく、静かだった。
「未来をひとつに絞るなら、その“裏側”が必ず存在する。そこへ打ち込む。ユイ、お前なら狙えるはずだ」
ユイは息を飲み、そして――瞳に光を宿した。
「……艦長。未来の“裏側”を読むなんて……そんな非常識な命令、普通なら成り立ちません」
「だができるだろ?」
「……はい。わたしには艦長がいますから」
ユイの手が宙を走り、主砲の照準が影の核の一点へ重なる。
「未来揺らぎ層――捕捉……!」
「撃てッ!!」
第二射が放たれた瞬間、遼は艦をわずかに傾けた。
その操艦は“未来の揺らぎ”を読んだ、直感の極み。
光弾は未来層の“隙間”へ吸い込まれ――
黒い核へ、直撃。
「貫通ッ!!!」
ユイが叫ぶ。
影の核が一瞬だけ光り、砕け散った。
黒き防壁が裂け、影の本体が苦しむように揺れる。
「艦長……! 影の核の防御、破れました!ここからが――本体への反撃開始です!」
遼は口元に険しい笑みを浮かべた。
「よし。――未来を喰う化け物を、ここで止めるぞ」
〈みらい〉は影の中心へ向けて、さらに深く飛び込んでいく。
星海決戦、第一展開――突破。
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