第12話 星環戦術会議 ― 影の正体と“未来の鍵”
揺らぎ核を守る初戦から数時間。
〈みらい〉は〈アウロラ〉の母港区画へ帰投し、艦隊旗艦内部の“戦術会議室”へ招かれていた。
室内は半円状のホールで、中央に星海の潮流モデルが浮かんでいる。
その周囲には星環連合の高官らしき存在が六名――皆が人型だが、人間とはどこか違う気配を放っていた。
遼、ユイ、レイリアの三人は円卓の対面に案内され、正面には調整官アレイシアが立つ。
「まずは、揺らぎ核の防衛。艦長、あなたたちのおかげで第一次侵蝕を防ぐことができました」
「礼はいい。……だが、あれは“一時しのぎ”だろ」
遼は淡々と返す。
アレイシアは静かに頷いた。
「はい。影は完全には退きませんでした。
むしろ――これからが本当の脅威です」
潮流モデルが黒く染まり、中心に巨大な“影の穴”が現れた。
「これが……“本体の影”?」
レイリアの声が震える。
「正確には“影の触媒”。本体そのものは潮流の外層に存在しています」
アレイシアが説明する。
「外層……?」
遼が眉をひそめる。
「はい。未来潮流の“外側”――未来として認識できない領域。そこに潜む存在が“時間喰らい”です」
ユイが小さく息を呑んだ。
「……つまり、私たちが観測できた影は“単なる手”……?」
「そうです。時間喰らい本体は観測すらできません。観測可能なのは“侵蝕に使われた影”――いわば、その意志の残滓です」
「残滓であれだけ強かったってことは……本体はどれだけ……」
レイリアが口元を押さえる。
遼は冷静だった。
「目的は何だ? 本体は何を望んでいる?」
アレイシアは胸に手を当て、言葉を選ぶように続けた。
「――“絶対未来”です」
ユイが目を見開く。
「絶対未来……可能性がひとつだけの世界……?」
「はい。そして、それは“時間喰らい以外の全生命の終焉”を意味します。選択する自由が奪われ、ただ一つの流れへ収束した未来。世界は死に、潮流は凍結し、星海は消滅します」
「だから固定化するのね……未来をひとつに縛り上げるために」
レイリアが呟く。
遼は腕を組み、アレイシアをまっすぐに見据えた。
「……それだけじゃないな?」
アレイシアは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「艦長……なぜそう思われますか?」
「敵が“わざわざ揺らぎ核を狙う理由”が説明になってねぇ」
会議室にいた星環連合の高官たちが、ざわりと色めき立つ。
遼は続けた。
「潮流を固定したいなら、もっと外側からじわじわ侵蝕すりゃいい。だが影は“核”を狙った。……核に近づけば星海全体が一気に崩れる」
「……艦長、まさか――」
ユイが目を丸くする。
「ああ。揺らぎ核の奥に、影が欲しい“何か”がある。違うか?」
数秒の沈黙。
アレイシアは静かに口を開いた。
「さすがは艦長……。星海に来てわずかな時間で、核心へ辿り着かれました」
「言え。核に何がある?」
アレイシアが掌を向けると、潮流モデルの中心が光り――
一つの“粒”が浮かび上がった。
それは小さな光の欠片。
だが近づくほどに脈動を増し、まるで心臓の鼓動のように震える。
「これは……?」
「“未来の鍵”――星海の全潮流の根源コードです」
ユイの声が震えた。
「未来の……根源……」
「はい。このアクセス・キーを手に入れれば、潮流の書き換えが可能になります」
レイリアは声を失った。
「書き換えって……つまり、未来そのものを……?」
「はい。星海のすべての未来を、ひとつに固定できます」
遼は小さく息を吐いた。
「……影が欲しいのはそれか」
アレイシアは頷く。
「揺らぎ核を破壊するためではなく――“鍵”へ直接アクセスするために影は核へ迫りました」
ユイが震える声で続けた。
「もし鍵が奪われれば……?」
「星海は即座に完全固定化されます」
アレイシアの声は限りなく静かだった。
「あなたたちの世界も、あなたたち自身も――“ひとつだけの未来”へ強制的に縛られます」
レイリアは椅子の背に体を預け、大きく息を吸った。
「……そんなの、絶対に許せないわ」
「もちろんだ」
遼の声は揺れなかった。
「アレイシア。“鍵”の保全は俺たちに任せる。影の本体がどこにいようが、核まで辿り着かせない」
「艦長……本気で?」
ユイが遼を見る。
遼は迷わず頷いた。
「未来を奪われて困るのは、星海の連中だけじゃない。――俺たちだ。俺たちの未来は、俺たちで守る」
アレイシアは深く頭を下げた。
「……橘艦長。星環連合はあなたたちを“潮流守護者”として正式に認定します。揺らぎ核の防衛戦は、次の段階へ移行します」
「次の段階?」
遼が聞き返した。
アレイシアは静かに答える。
「――影の本体を誘き出し、“鍵”への侵入経路を断つこと。そのために、あなたたち〈みらい〉が必要です」
ユイが息を呑み、
レイリアは拳を握りしめ、
遼はゆっくりと微笑んだ。
「上等だ。やることがハッキリした。――未来を守る戦い、始めよう」
潮流モデルが輝き、会議室の天井に星海の光が揺らめいた。
こうして〈みらい〉とその乗員たちは、星海全体を救うための“核心任務”へ踏み出すのだった。
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