第11話 光海の裂け目 ― “本体の影”との初遭遇
揺らぎ核周辺で続いていた戦闘は、常識という言葉を置き去りにしたまま激しさを増していた。
〈みらい〉は影の触手をかいくぐり、エーテル弾頭による反撃を繰り返しながら揺らぎ核の前面防衛ラインへ迫っていく。
光と影が入り乱れ、星海そのものが呻くように揺れ続ける。
揺らぎ核は脈動しながら光輪を広げ、そのたびに波紋のような“未来の輝き”を周囲へ放射していた。
――だが、影の侵食速度の方が速い。
「艦長……揺らぎ核の外殻が“未来減衰域”へ落ちていきます!」
ユイの声が震える。
揺らぎ核の一部が黒ずみ、光の流れが鈍っているのがわかる。
「間に合うのか……!」
レイリアが歯をかみしめる。
遼は迷わず命令を飛ばした。
「ユイ、フィールドを“星海適応率”120%へ強制拡張! 影の接触に対する位相干渉を最大化しろ!」
「了解、艦長! 装甲表面の存在確度を強制上昇……! でも、この状態だと――」
「エネルギー消耗が激しい?」
「はい。戦闘を続けられる時間は短くなります」
「問題ない。ここで踏ん張らなきゃ意味がない」
短いその言葉に、ユイは震えるまつげを伏せ、強く頷いた。
「……はい、艦長」
***
〈みらい〉は影の海へと切り込むように突進した。
影は知性を持つように触手を伸ばし、艦体にまとわりつこうとする。
「来る!」
レイリアが叫ぶ。
「ユイ、回避だ!」
「了解――!」
艦体が急激に反転し、触手の束を紙一重で避ける。
影が空間を削り取るように揺れ、未来の“可能性”を奪う波が走った。
「……っ! 艦長、今の攻撃……」
「わかってる。“存在そのもの”を食う気だ」
その時だった。
ユイが突然、顔を強張らせる。
「艦長……! 前方に……異常位相反応……!」
遼は反射的にスクリーンへ目を向けた。
揺らぎ核の背後――そこに、光海の“裂け目”があった。
空間が波打ち、光が吸い込まれ、渦が反転したような“穴”。
そこから這い出るようにして――巨大な黒い影が姿を現した。
「……あれが……」
レイリアが息を失う。
「本体の“影”です、艦長……!」
ユイの声が震える。
先ほどまで相手をしていた触手群とは比べものにならない。
その存在は“巨大”という言葉すら追いつかないほど巨大で、形状を持たない。
黒い霧が固まり、海のように揺れ、山のように盛り上がり、星のように輝きを呑み込む。
――未来を食う“影”そのものだ。
「……なんてものを敵にするんだ俺たちは」
遼は苦笑とともに呟いたが、視線は一切揺らいでいない。
「艦長、影の本体が揺らぎ核を“取りに来ています”!」
「距離、あと二千……!」
「艦長……間に合いません……!」
ユイの声は震え、レイリアは拳を握りしめる。
その瞬間――揺らぎ核が反応した。
光輪が強烈に放射され、核全体が“鳴動”する。
星海が震えた。
光が揺れ、未来の潮が逆流し、すべてが渦巻く。
「……揺らぎ核が、動いてる?」
遼が呟く。
「艦長……! 揺らぎ核は“自律的な意志”を持つ存在です!」
ユイが口早に説明する。
「未来潮流を守るため、存在位相を変換しようとしています!」
「自分で動いてどうするつもりだ……?」
レイリアが息を詰める。
ユイがはっと顔を上げた。
「――退避です!」
「退避?」
遼が問い返す。
「艦長、揺らぎ核は自分自身を“未来の場所”へ移動させようとしています!
影の侵蝕から逃れるために!」
「なるほど……未来そのものが、未来へ逃げるってわけか」
遼は舌を打った。
「だが、それを影が許すかどうか……」
巨大影が核へ覆いかぶさるように広がってきた。
光が押しつぶされ、未来が消える。
揺らぎ核の輝きも弱まりつつある。
「……艦長」
ユイが震える声で呼んだ。
遼は、揺らぎ核と影の距離を見つめた。
そして――
ゆっくりと、しかし迷いなく命令を下した。
「ユイ。〈みらい〉を揺らぎ核の前へ。――核を逃がすために、影を止める」
ユイの瞳が大きく揺れた。
「艦長……! そんなことをしたら――」
「影と真正面からぶつかることになる!」
レイリアが息を呑む。
「わかってる」
遼は二人の視線を見回した。
「でも、あの揺らぎ核が未来を守る心臓部なんだろ?なら、守らなきゃいけない。――俺たちの世界も、その先の未来も」
ユイが唇を噛みしめた。
「……艦長は、いつも……そんな……」
「何か問題か?」
遼が軽く笑うと、ユイは涙をこらえながら首を振った。
「いいえ……。――艦長だから、できることです」
レイリアも頷く。
「行きましょう。影の本体が相手でも……私たちならやれる」
「よし」
遼が指揮席に座りなおす。
「ユイ、進め!揺らぎ核と影の間に入り込む!」
「了解ッ、艦長!!」
***
〈みらい〉は星海を切り裂き、核と影の間へ飛び込む。
影の巨大な塊が迫る。
闇の海が襲いかかる。
「艦長、影の圧力が強い……!」
「位相維持が限界です!」
ユイとレイリアが叫ぶ。
遼は立ち上がり、叫んだ。
「ここが踏ん張りどころだ!――〈みらい〉、耐えろッ!!」
その瞬間――
影の本体が咆哮した。
音ではない。
未来が震える。
揺らぎ核が悲鳴のように光を放つ。
黒い波が〈みらい〉へ襲いかかる。
星海が歪み、未来潮流が乱れ、世界がひっくり返るような圧力。
「艦長――!!」
ユイが叫ぶ。
遼はわずかに笑った。
「……来いよ。――未来を喰う化け物が相手でも、俺は止まらん!」
〈みらい〉は揺らぎ核の前に立ち塞がり、
影の攻撃を“正面から受け止めた”。
未来を守るために。
星海が震え、光が奔り、影が裂ける。
――戦いはさらに深い段階へ突入していく。
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