爆発する夜
ステージを照らすライトがせわしなく動く。
端から端までを走り回り、奏が叫ぶ。
ギターの音が奏の声を追いかけるように、鋭く響く。
たたみかけるようなドラムの音が会場を包み込み、ベースの音が曲を押し出す。
ステージを移動しながら、凪は奏と目が合った。
普段とは違う奏の目。
煽るような、激しさを含んだ目つき。
自分の心臓が跳ねるのを感じながら、凪は目を細めて奏を見返す。
ギターの音が歪みを含んで熱く跳ね上がるのを感じた。
そこが会場のモニターに抜かれ、悲鳴が響き渡る。
奏は視線を客席に落とし、指差す。
更に爆発する歓声。
凪は手元に視線を落とす。
……奏、今日も調子いいな。
一瞬、溜めてから凪は意図的に奏の声からギターをずらした。
朔が気づき、陽が気づき、そして奏が気づく。
口元だけでにやっと笑った奏は逃さないように合わせに行く。
いや、むしろその先を行く。
朔のベースが抑えに来る。
奏の声が更に高く、会場を支配する。
凪のギターが追随する。
抑えきれなくなったのか、陽のドラムも激しくなる。
奏は悪戯っぽく笑い、朔を見る。
左手を朔に向けて、来いとでも言うように、指差す。
その表情を見た朔は、制御することを諦めた。
ベースの音が変わり、奏を追うように速くなる。
そこからはもう、爆発だった。
会場中が轟音に包まれ、これ以上ないくらいの熱がステージを支配した。
歓声が音を呑み込むほどに膨れ上がる。
ライブ後。
朔が険しい顔で凪に近づいてくる。
「凪」
まだ熱の引かない顔で凪は朔を見上げた。
「朔?どうかした?」
ふぅっと息を吐いてから、朔は鋭い目を向けた。
「お前、わざとだろ?」
「?」
凪は首を傾げる。
「音、あげただろ?」
にこっと凪は笑った。
「奏、調子良さそうだったから」
はあっと再び息を吐いて、朔は頭を抱える。
「ああなったら、奏も陽も暴走するのわかってんだろ?」
「でも、面白くなったでしょ?」
悪気なく微笑む凪。
「そういうことじゃない」
ピシャッと朔は言う。
そこへ、奏が割り込んでくる。
「でも、お前だってああいうの、嫌いじゃねぇだろ?」
朔は一瞬言葉を詰まらせた。
まんざらでもないのは、事実だったからだ。
そこへ陽がひょこっと顔を出す。
「ホントは朔も好きだろ?ああいう爆発した感じ」
何かを言い返そうとして、朔はやめる。
陽はばんばんと豪快に朔の背中を叩いた。
「素直に楽しかったって言えよっ!」
はぁっと息を吐いて朔は顔をあげる。
「楽しかったのは、認める」
そして、諦めたように答えた。
凪はくすっと笑う。
奏は口元だけでにやっと笑っている。
「だが」
順番に三人に視線を向ける。
「毎回許されるとは思うなよ」
釘を刺すように。
「特に奏。お前は暴れすぎだ」
奏は腕を組んでふっと笑っていた。
「そして凪。お前は奏を煽るな」
凪はにこっと笑った。
「あとは陽。お前は自分から巻き込まれにいくな」
陽が少し気まずそうに笑った。
「でもさ、盛り上がったし、良かったんじゃん?」
肩をすくめて陽は開き直ったように言った。
朔は大きく息を吐く。
「調子にのるな」
「悪くなかっただろ?」
奏は口元をにやっとさせて朔を見る。
「だから、調子にのるな」
「会場凄かったね」
凪もしれっと言う。
細めた目だけを凪に向けて、朔は頭を抱えた。
遠くから、歓声がまだ聞こえてくる。
「まだ盛り上がってんな」
陽が振り返り、呟く。
「お客さんも楽しかったって」
凪はまた笑顔になる。
「これが結果じゃねぇの?」
壁にもたれながら、奏はドヤ顔で朔を見た。
「まぁ、そうだな」
朔は胃を抑えながらも、少しだけ満足していた。




