朔の弱点
「今日の休憩、これ見ようぜー!!」
陽がタブレットを掲げて、三人に見せる。
そこに表示されているのは、少し前に流行ったホラー映画だった。
「いいんじゃない?」
即、凪が返事する。
奏はチラッとタブレットに目を向けただけだった。
ガタッと、後ろで音がする。
三人の目が、朔に向く。
「あ、すまん」
表情は変わらないが、足元では椅子が倒れている。
その一方、視線がするーっとタブレットからズレていく。
「ん?」
陽が首を伸ばして見ている。
「……どうした?」
「いや、お前がどうしたよ?」
陽が手をヒラヒラさせながら、問い返す。
「特に問題ない」
朔のその言い方が、既に違和感がある。
ぐーっと首を傾げて、奏が朔を見る。
何か思い出そうとしているようだ。
あ、と突然声をあげる。
「お前、ホラー映画苦手なんだっけ?」
奏が手を叩く。
凪は知っていたようで、困ったように笑っている。
うずうずとにやけが止まらないのは、陽だ。
「え、朔、ホラー苦手なの?」
陽が一歩前に出る。
わざとらしく朔の前にタブレットを突き出し、朔を覗き込む。
朔の顔から血の気が引いていく。
「……やめろ」
朔の低い声。
だが、陽は聞く気がなさそうだ。
「え?楽しいじゃん、ホラー」
朔は無言で陽から離れる。
倒れた椅子を丁寧に戻し、冷えた目を陽に向ける。
それに気づいた奏が、顔を引き攣らせる。
「……おい、陽……そろそろやめた方が……」
そう言いかけるが、陽がかぶせるように、にひひっと
笑う。
「こんな機会、めったにないじゃん」
「陽?」
凪の声がゆっくりと陽を呼ぶ。
振り向いた先にはにっこりと笑った凪の笑顔。
「自業自得って言葉、知ってる?」
「は?」
呆気にとられる陽をよそに、朔は素早くタブレットを取り上げた。
「……陽は余裕がありそうだな?」
朔の鋭い目が陽を射抜く。
「え?」
「休憩は五分だ」
陽の驚愕の声があがる。
「な、なんでーっ!?」
腕を組んだ朔の冷たい目が陽に向けられる。
「凪が言ってたじゃないか。自業自得って知ってるか?」
陽が項垂れる。
「学ばねぇヤツ」
ぼそっと奏。
朔の目が奏にも向けられる。
「奏、お前もだ」
「は?」
奏は驚いて朔を見返す。
「なんでだよ?」
眉をしかめる。
朔は奏を見下ろす。
「お前も、煽っただろうが」
「……あぁ……」
諦めたように、奏は肩を竦める。
翌週の陽のスケジュールには、急遽入れられたバラエティ番組のロケが四本並んでいた。
「新曲の宣伝してこい」
朔はそう言って、にやっと笑う。
「練習もサボるなよ」
とつけ加えることを忘れなかった。
陽はしばらく、ホラーなんか見たくないと心底思った。
「なぁ、凪」
奏が呼ぶ。
「ん?」
ふいっと振り返る。
「なんでお前、朔がホラー苦手だって知ってんの?」
にこやかに凪は笑った。
「前に酔っ払った朔が自分で言ってた」
奏は口を開けて呆ける。
「朔が?自分で?」
悪気なく頷いて、凪は続けた。
「なんかね、作り物がダメなんだって」
「へ、へぇー……」
奏は顔を引き攣らせる。
これ以上聞いたら、ダメな気がする。
「……っつーか、お前が最強だよ……」
奏は口元だけで呟く。
「え?なんか言った?」
凪の笑顔は、今日も爽やかだ。




