表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵闇に奏でる―NOCTIS STORY  作者: 夜月黎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/36

夜と一緒に

最初は軽い気持ちだった。


「すっげぇ、声いいヤツいてさぁ」


バンド仲間の友達の友達とか、そんなヤツが言ってた気がする。


「陽も聞いてみ?」


スマホから流れる簡単な音源を聞いて、俺は随分、叩きつけるような荒々しい歌い方する奴だなぁって思った。


少しだけ興味を持った俺は、友達と一緒に会ってみることにしたんだ。

(半ば強制的に会いに行ったんだけど)


「ほら、アイツ」


少し離れた所から見たそいつをみて、俺は思った。


――声……っつーか、良いの顔じゃんか!!


太陽の下が似合わない、白い肌。

やたら整った綺麗な顔立ち。

鋭い瞳は灰色(グレー)で、周りすべてを攻撃しそうな凶暴さを宿していた。


一瞬怯んだけど、俺はいつもの調子で声をかけた。


「奏もバンドやってんだって?俺もなんだよー!!」


名前はあらかじめ聞いていた。

名前までイケメンだよ、こいつ。


「……ああ、そうなんだ」


奏は、最初驚いたような顔をしたけど、すぐにその瞳は強い拒絶を示した。


だが、ここで怯んじゃ、俺じゃない!


「一緒に音合わせようよ!」


なるべく明るく、声をかける。

でも、奏は、


「今度ね……」


と言って行ってしまった。


「えぇー?」


残された俺は間抜けな声を出した。


あのノリで行って断るか、フツー。


少したってから、俺は悔しくなってきた。

意外と負けず嫌いなんだよ、俺。


絶対、アイツの歌声、生で聞いてやる!!


そう決意した俺は、毎日、学校帰りの奏を突撃訪問した。


「今日は暇?」


「……いや」


そう言って帰ろうとする奏は、どう見ても暇そうなんだけど?


適当にあしらわれてる感がすごい。


「……っくっそー」


俺は拳を握りしめて、奏の後ろ姿を睨む。



次の日も。


「今日こそ!?」


「……悪いな、無理」



その次の日も。


「今日は、いいだろ!?」


「……体調悪い……」


本当か?

そうは見えないが。

毎回一言でぶった斬られる。




……いくら俺でも、折れそう。


俺、なんでここまで意地になってんだろ。


一瞬疑問を持つが……すぐに首を横に振る。


いやいや、絶対アイツの歌聞いてやるって決めたじゃんか!!

負けないぞっ!!




そして、一週間が経った頃。


「今日はどうだ!?」


勢いに任せて聞いてみた。


少し沈黙があって、奏は小さく溜め息をついた。


「わかったよ、今日は行くよ」


半ば諦め混じりには見えたが、俺は勝った!!


奏が来るって聞いて、意気揚々と準備をした。





無言で入ってきた奏は、軽く頭を下げる。


「……一曲だけな」


そう言って、奏はマイクの前に立つ。


カッカッカッ


ドラムスティックを鳴らし、演奏が始まる。


最初から全力で飛ばす俺を振り返り、奏は挑発的な目で俺を見た。


その表情は、さっきまでとは違い、生き生きとしている。


マイクをスタンドから取り外し、とんでもない声量でシャウトする。

空間がビリビリと揺れる。


なんだよっ!?あの()!!

普段とちがいすぎんだろっ!!


だけど、そらせない。

あの強い瞳に持って行かれる!!


胸がうずうずする。

なんか知らねーけど、わくわくが止まんねー。


短いイントロが終わって、奏の歌が入る。


刹那。


時間(とき)が止まったように感じた。


奏の声以外、耳に入ってこない。


スマホで聞いた時よりも、ずっと乱暴で荒々しくて、でも、真っ直ぐに響いてくる歌。


少し高めの、真夜中みたいな声。


スティックを握る手が震える!

鳥肌、止まんねぇー!!


俺はスティックを握り直し、思いっきり叩く。

音が跳ねる。

奏の声も、更に上を跳ねる。


奏の夜みたいな()が、俺を射抜いてくる。


背筋が、ぞくぞくするっ!!


俺は必死でドラムを叩く。

奏についていくように。

奏に負けないように。


奏も全身で歌い続けていた。

その身体の中の衝動を吐き出すように。


壊れそうなほどの衝動に、俺は少しだけ気圧される。


それでも、奏はそんなことお構いなしにただ、剥き出しの凶器のような歌を奏でている。



……生き辛そうな、ヤツだな。


後ろから見つめながら、そう思った。



永遠にも思えた、長い演奏(じかん)が終わる。

俺は、大きく息を吐く。


こいつはっ!声が良いなんてもんじゃない!!


――存在自体が、最高過ぎる!!


俺の方を見た奏は、また挑発的に笑った。


「……お前、ヤバいな」


思わず零れたような言葉だった。


この時、俺は決めた。


絶対に、こいつの後ろでドラム叩いてやる!!


って。


あの壊れそうな歌を、俺の音で補ってやりたい。


どんなに拒否られても、拒絶されても!!


しかし、そんな決意をよそに、奏は一言だけ言った。


「……お前、俺と来いよ」


一瞬、何を言われたか理解出来ずに、ぽかんとする。


だけどすぐに。


「もちろん!!」


全力でOKした。




あれから、だいぶ時間はたったけど。


――俺は、今でも奏の後ろでドラムを叩いている。


あの時感じた、衝動も一緒に。

あの、夜みたいなヤツと一緒に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ