陽、激辛地獄
今日は、TVの歌番組の収録の予定だ。
朝、いつものスタジオで音合わせ。
それから、楽屋で食事を取ってからTV局に向かう予定だ。
音合わせ後、楽屋のテーブルに弁当が並べられる。
いつものように、一番最初に現れる陽。
「お、今日カレーかぁ!」
大声でそう言いながら、テーブルにつく。
渡されたペットボトルのお茶を横に置いて、他三人が来るのを待つ。
続いて奏がやって来て座る。
そして、凪。
最後に朔が来て、座る。
四人揃ったところで、陽は弁当の蓋を開ける。
ふわっとカレーの匂いが漂う。
「カレー、うまそっ」
そう言ってふと前を見る。
なぜか、凪の前にだけ、ティラミスが置いてある。
「凪、カレー食わねぇの?」
にっこりと凪は笑う。
「あとで」
そう答えて凪は、ティラミスにスプーンを突っ込んだ。
幸せそうに食べている。
奏と朔はカレーを開けて、既に食べ始めていた。
陽は慌てて自分のカレーにスプーンを突き刺し、口に頬張る。
瞬間。
「かっらっ!!」
陽の絶叫が響く。
顔が真っ赤だ。
奏が動きを止めて、陽を見ている。
「大げさじゃね?」
呆れたように笑う。
朔は冷たい目で一瞬だけ陽を見た。
何も言わずに、普通に食べている。
「いや、マジで今日のカレー激辛じゃね?」
陽は更に続ける。
額から汗を吹き出させながら、ペットボトルを手に取る。
勢いよくお茶を流し込み、
「……」
無言。
変な顔をして、頬がひくついている。
「……なぁ、奏」
それから奏を見る。
「あ?」
カレーを頬張りながら、奏が視線をあげる。
「お茶、飲んだ?」
もぐもぐと口を動かしながら、陽を見る。
「まだ」
陽は次に凪を見る。
にこっと笑う凪。
「飲んでないよ」
先回りした凪が答える。
チラッと朔が視線をあげる。
「どうした?」
不審そうに陽に問いかける。
陽が微妙な顔で首を傾げる。
「……なんか、お茶も辛い……」
奏が吹き出す。
「お前、お茶辛いわけねぇだろ?」
「陽、味覚おかしくなったんじゃない?」
凪がニコニコ顔で陽を刺す。
「凪……お前、笑顔なら何言っても許されるわけじゃないからな……」
陽の恨みがましい目が凪を見る。
ふうっと息をついて、朔が口を出す。
「時間がないからな、陽。早く食え」
陽はしぶしぶと残りのカレーをかきこむ。
少しだけ、むせながら。
その後、TV局の控室で。
「本番前の打ち合わせです」
そう声をかけられ、四人がテーブルにつく。
それぞれの前にペットボトルの水とクッキーの袋が数個置かれる。
座るなり、陽はそのクッキーに手を出した。
それを見た奏は顔を横にそらして、口元を隠し笑った。
「……単純なヤツ」
その声は陽には聞こえなかったが、朔の鋭い目が奏を見た。
慌てて真顔に戻り、テーブル上の台本に視線を落とす。
何の疑いもなくクッキーを口に放り込んだ陽は、一瞬後、またしても変な顔をして固まる。
「陽、また変顔してるよ?」
凪に突っ込まれ、陽は眉をしかめる。
「あ、うん……」
今回は陽は何も言わなかった。
その様子を、朔は黙って見ていた。
そして、収録が始まり。
四人がゲスト席に座る。
番組のあるコーナー、今週のオススメスイーツをゲストが紹介するコーナーだ。
「今週はシュークリームでーす!」
アナウンサーが声高々に紹介する。
凪の目が輝いているのが、わかる。
「今回のシュークリームは行列が出来るお店に、スタッフが朝から並んで買ってきました!」
高級そうな箱を掲げ、カメラに向ける。
それから、ひとつずつ、メンバーに配られる。
「天音さんはスイーツ好きなんですよね?」
アナウンサーが凪に振る。
「はい、食事よりスイーツ食べちゃうくらい、好きです」
いつもに増してにこやかな凪に、スタジオ中が癒される。
「それでは、いただきましょう」
そのかけ声で、全員がシュークリームを口に運ぶ。
奏は一口だけ食べる。笑顔を張り付けているが、目が笑ってない。
実際は甘すぎて辟易していた。
朔は営業スマイル全開で美味しそうに完食している。
凪は、言わずもがな、嬉しそうに頬張っている。
そして、陽は……。
「なんっっだ、コレ!!」
口にした瞬間、顔を真っ赤にしながら立ち上がった。
「からっ!!」
そう言いながら、むせ始める。
ゲホゲホっ。
むせながら、右往左往する陽にスタッフが水を渡す。
慌ててそれを飲んだ陽は、その水を盛大に吹き出した。
「なんでっ水が辛いんだよっ!!」
そう叫んで陽はその場に崩れ落ちた。
床に手をついて項垂れ、
「……俺、もうダメだ……」
小声で呟く。
そこへ、カメラを抱えたスタッフが陽の前に立つ。
「へ?」
きょとんとして陽は周りを見回した。
奏が腕で顔を抑えながら、必死で笑いを堪えている。
朔は満足そうに唇の端で笑い、凪は少しだけ申し訳なさそうにこちらを見ている。
「……まさか……」
ぽかんとする陽に、
「朝霧さん、ドッキリでしたー!!」
アナウンサーがボードを掲げる。
周囲から笑いと拍手が起こる。
呆然とする陽の背中をばんばんっと叩きながら、奏が話しかける。
「お前っ、最高に面白ぇな!!」
大笑いだ。
その影から凪がひょこっと顔を出す。
少し困ったように笑っている。
「陽、ごめんね」
その横では朔が腕を組みながら、陽を見下ろす。
「リアクションがいまいちだったな……」
「お前は鬼かっ」
咄嗟に陽が返す。
立ち上がった陽にアナウンサーがマイクを向ける。
「いかがでしたか?」
いかがですかって、んなもん知るかっ!
と内心思ったが、これはTV。
陽はぎこちない笑顔を張り付けた。
「あはは〜、全然気づかなかったですねー」
「お前、単純バカだからな」
奏がボソッと言う。
「奏」
すぐに朔に止められる。
「っつーか、この歌番組、実際にあるやつですよね?」
「はい、今回は番組に協力していただきましたー」
呑気に答えるアナウンサー。
そして、
「なので、今回はこの後、NOCTISの皆さんに新曲を披露していただきます」
「は?」
陽は間抜けな声をあげる。
「え、俺この状況で演奏すんの?口の中、まだひりひりしてんだけど……」
「それでは、スタンバイお願いします〜」
「えぇっ!?」
陽はそのまま朔に引きづられてステージに向った。




