奏と凪
「凪ってさ、時々消えそうになるよな」
何気ない奏のひとことだった。
「え?」
凪はドキッとして奏を振り返る。
練習スタジオ。
何気なくギターを弾いてる時だった。
奏はイスに座って、ペットボトルの水を飲み干した。
「そんなこと、なくない?」
笑顔で返す。
奏の瞳はいつも鋭い。
灰色の双眸が凪を射抜いている。
同じ男なはずなのに、一瞬で惹かれそうになる。
「……なんとなく、ね」
背もたれに身を預けて、奏は言った。
凪はギターを置いて、奏の向かいに座る。
「休憩」
そう言って凪もペットボトルに手を伸ばす。
「奏はさ、見てないようで人のこと、見てるよね」
「そんなこと、ないだろ」
ぶっきらぼうに奏は言った。
にこっと笑って凪は奏を見返す。
「たまに……言葉が刺さる」
奏は少し驚いた顔をしたけど、すぐにいつもの無表情に戻った。
「それは……おまえの事だからだろ?」
少しだけ目線を逸らす。
「仲間なんだから」
ちょっとだけ、恥ずかしそうに。
凪はくすくす笑いながら、奏を見た。
「奏はツンデレだね」
「は?」
そう言うと、奏は心外そうな顔してる。
そんなところも、奏がみんなに好かれる理由なんだろう。
もちろん、凪も奏という人間に魅せられた一人だ。
初めて、歌声を聞いた日から――
「奏にはかなわないよ」
凪はそれだけ言って立ち上がる。
「……どういうこと?」
奏は不思議そうに凪を見た。
ははっ、と笑って凪はギターを抱える。
軽快に流れる楽しげなギターの音が、凪の気持ちを代弁していた。




