陽、エゴサする
人気投票発表の次の日。
練習終わりのスタジオで。
真剣な表情でスマホを見ている陽。
「陽、今日静かだね」
凪が離れた場所から陽を見ている。
そのすぐそばで、奏も陽を見る。
「……あいつ静かだと、あとでろくな事になんねー気がする……」
つかつかと近づいていく朔。
陽の前に腕を組んで、仁王立ちする。
「いい加減にしろ、陽」
冷静に言ってはいるが、朔の顔は怒っている。
「あっ、やべっ」
陽はそう言いつつ、スマホを離さない。
朔は陽のスマホを取り上げる。
「あ、返せよぉ」
情けない声。
朔は冷たい目で陽を見下ろす。
「お前、いい加減にしろ。朝からずっと心ここにあらずだ」
朔が怒るのも無理はない。
陽は朝からずっとスマホをいじりっぱなしだ。
練習を始めても、どこかうまく噛み合わない。
陽だけが、一拍遅れる。
それには、奏も凪も気づいてはいた。
理由までは知らなかったが。
「そんなにエゴサして楽しいか?」
「ゔっ」
陽は顔を赤らめて絶句する。
奏と凪は顔を見合わせる。
「「エゴサ……?」」
ぷっと奏が笑う。
「お前、そんなことしてんの?」
凪は不思議そうに首を傾げる。
「なんでそんなことする必要あるの?」
陽は固まったまま、三人を見上げる。
ふうっと朔は息を吐く。
「やるのは勝手だが、仕事には影響させるな」
少しだけしゅんとする陽。
「……はい」
でも、すぐに。
「でもさぁっ!」
大声をあげる。
「やる気出すにはもっと褒め言葉欲しかったんだよーっ!!」
全員、無言。
一拍置いて。
「……は?」
奏の顔が歪む。
朔は呆れたように、顔を逸らす。
「昨日のファンからのコメント聞いてさ、もっと褒められたいって思って!!」
「お前は……バカか」
珍しくストレートに朔は言った。
「昨日のファンコメント、陽褒められてたよ?」
「もぅー、凪は黙って!」
プンスカする陽は、スマホを見せる。
「ほらっ見て!」
『陽の明るさに救われる』
『陽の笑顔は太陽よりも眩しい』
『今日も陽がNOCTIS照らしてる』
奏が覗き込む。
「すげーだろっ!?」
陽は得意げにスマホを掲げる。
すーっとスクロールした奏は、下の言葉を読み上げる。
「『陽が今日もバカやってる、笑う』」
「奏っ何読んでんだよっ」
引ったくるようにスマホを手元に戻し、陽は自分でコメントを読む。
「もっといいのあんだろっ。『陽いるだけで楽しい』とか、『陽の存在がNOCTIS救ってる』とかっ」
「それ、いいのばっかり読んでるだけだろ?」
笑いを堪えて奏が言う。
「うるさいっ、ああっ、なんで俺のタグ付けで『奏イケメン』が出てくんだよっ」
陽はひとりで大騒ぎしている。
「……やっぱり陽、静かじゃなかったね……」
凪は困ったように笑って朔を見た。
朔の眉間にシワがよっている。
「……陽」
朔の低い声。
ビクッと、陽は肩を震わせる。
「……はーい……」
何かを察したのか、大人しくなる。
「朔はやっぱりお母さんだね」
凪がにこっと笑う。
はぁっと本日何度目かの溜め息が朔から漏れた。
「……朔?胃薬いる?」
心配そうに覗き込む凪。
凪のその言葉にさえ、胃が痛くなる思いだった。




