酒豪は誰だ
「おっつかれー!!」
ひときわ大きな陽の声が響く。
申し訳程度にグラスをあげる奏。
しっかり全員とグラスを交える朔。
控えめにグラスを差し出す凪。
いつもの光景だった。
ライブ後の打ち上げ。
たくさんの人に囲まれても、NOCTISの四人は同じテーブルにいた。
ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲んでいる陽を、朔は鋭い目で見ていた。
「……陽、調子にのるなよ?」
序盤にも関わらず、朔は釘を刺す。
「だーいじょぶだってぇー」
その時点で大丈夫ではないことが確定している。
「陽は言っても無駄だからね」
凪がズバっと刺す。
「まーたー、凪は容赦ないっ」
陽はビール一杯どころか、一口で出来上がったようだ。
奏は無言でそれを見ていた。
「奏はぁっ、嬉しくないのっ?」
出来上がった陽に背中をばんばんと叩かれる。
「いってーよ」
面倒くさそうに奏は陽から上半身をそらした。
「十周年だよ!十周年っ!」
陽は楽しそうに叫ぶ。
「おめでとう!俺達!おめでとうNOCTIS!」
はぁっと溜め息をついて、朔は陽を座らせる。
「大人しく飲め」
陽は朔に抑えつけられても楽しそうだ。
静かにグラスを傾けながら、凪も笑顔で三人を見ている。
「奏はどう?」
にこにこと笑いながら、凪が聞く。
「何が?」
わかってはいるが、聞き返すのが癖だ。
「十周年」
簡潔に凪が言う。
「嬉しくない?」
奏は少しだけ考えて、ぶっきらぼうに返す。
「嬉しくないように、見えるのか?」
くすくすっと凪が笑う。
「奏は素直じゃないね」
ふいっと奏は顔を逸らした。
はぁーっと朔が大きく息を吐く。
「奏はもう少し協調性を持て」
「うるさい」
奏と朔のやり取りもいつもの光景だ。
「おーかーわーりー」
陽は大声で店員を呼んでいる。
呆れ返った朔は、もう注意する気も失せたようだ。
残りのグラスを煽った凪は、陽に便乗して次を頼む。
カランっと氷を鳴らして、奏はグラスを見つめた。
「十年……か」
短いようで長い。
そんな年月。
「色々あったね」
凪は遠い目をしている。
でも、笑顔は崩さない。
「大変だったのは、主に俺だけどな」
グラスを煽りながら、朔が溜め息と共に吐き出す。
「朔の胃が心配だね」
凪がまたふふっと笑う。
「全くだ」
奏はグラスから目を逸らさずに、ボソッと言った。
「十年も続くと思ってなかった……」
凪の笑顔がふっと消えた。
朔も真面目な顔で奏に視線を向けた。
……陽は既に横でテーブルに突っ伏していた。
「お前は……意外と脆いからな」
そう言ったのは朔だった。
不本意そうに奏は朔を睨んだが、間違いでもないと、自分でも知っていた。
「うっさい」
視線をそらして、奏は反論する。
声に力はない。
「でも」
凪の低い声が、奏と朔の視線を受ける。
「奏がいたから」
はっとして奏は凪を見つめた。
「ここまで来れた」
ね、と言って凪はまた微笑んだ。
ぐっと奏は言葉を飲み込んだ。
朔はそんな奏を見て、それから凪を見た。
「お前もいたから、な」
凪はきょとんとした顔をした後、優しい笑みを浮かべた。
「そう、かな」
奏はそんな凪を見て、ぶっきらぼうに言った。
「当たり前だろ」
凪は驚いたように奏を見て、それから今日一番の笑顔を見せた。
「ありがとう」
奏も朔も思わず、見惚れてしまった。
ちょっとの沈黙の後に、凪のグラスで氷が鳴った。
空になったグラスを避けて、凪は平然と次を注文する。
「……凪、お前、何杯目だ?」
ふと、朔の手が止まる。
口に手を当てて考えて凪はにっこりと答える。
「ん?7……8杯目かな?」
朔の肩ががっくりと落ちた。
「気づかなかった……飲み過ぎだろ?」
「え、そう?まだ全然」
ケロッとした凪が笑う。
奏は苦笑いしながら見ていた。
「やっぱ、お前が一番怖ぇーよ」
ボソッと呟いた奏の声は凪には届かない。




