奏の余話
凪が帰ってからも、俺はしばらくソファに座ったまま、ぼーっとしていた。
事務所のスタッフに声をかけられるまで、ただそこにいた。
「もうスタジオ閉めますので」
そう言われて、ようやく帰路につく。
特に何か考えていたわけでもない。
本当にただ、ぼーっとしていただけだった。
家まで歩きながら、今日のことを思い出す。
和気あいあいとした動画配信。
ファンからの評判もいい。
こういった仕事が、嫌いなわけでもない。
でも。
『奏が歌うと世界が変わる』
『奏がいるから、NOCTISがNOCTISで在る』
そんなコメントを思い出す。
俺は、ただ歌ってるだけなのに。
そこまで想われるのは、ありがたい。
でも、同時にそこまで言われると、少し重い。
……凪の目も誤魔化せなかった気がする。
けど、凪も疲れて見えた。
大丈夫とは言っていたが、大丈夫じゃなくてもそう言う奴だから。
「困ったヤツ」
少しだけ、笑う。
NOCTISは、誰が欠けても、壊れる。
俺だけが、NOCTISな訳ではない。
でも……
――九年連続一位
そこまで俺だけか?
そんな想いがよぎる。
「期待……ね……」
思わず溜め息と共に漏れる。
少しだけ、足を止めて空を見上げる。
ちょうど夕暮れから夜に変わる直前の黄昏どき。
夕陽の赤から染みていくように紺に変わっていく空。
その絶妙な時間が、昔から好きだった。
懐かしいような、切なくなるような、狂おしくなる不思議な感情がこみ上げる。
自分の中の衝動が空に現れたような、色。
ふっと笑って、また歩き出す。
また、明日も歌うだけだ。
俺の中の衝動を。




