NOCTIS人気投票②―仲良し部門/バディ部門―
短い休憩が終わる。
最後にペットボトルのお茶を一口飲んで、朔はカメラを向く。
カメラのスイッチが入る。
「それでは、再開です」
朔の一言で再開。
「続いては、仲良し部門」
「これって、プライベートでってこと?」
凪が首を傾げると、朔は頷いた。
「そうだ。ステージ上以外での仲良さそうランキングだ」
「うん、そっか」
凪は納得したように頷く。
「では、この部門は四位から発表する」
朔が資料に目を通して、少しだけ、眉をしかめる。
三人は怪訝に思いながらも、朔の言葉を待つ。
ふぅーっと短い溜め息をついてから、朔は結果を発表する。
「……四位、朔×陽」
朔は苦い顔で額を抑え、陽は両手をあげて喜んだ。
「なんで喜んでんだ?お前」
奏に突っ込まれ、陽は奏を見上げる。
「なんでってランキング入ったらとりあえず、嬉しいだろ?」
「お前……バカか?」
奏は心底呆れた顔で陽を見る。
「バカって言うなっ、バカって」
そんな二人のやりとりを、凪は笑って見ている。
朔は、奏と陽の頭をはたいてやりたい衝動にかられる。
「奏!陽!」
強い口調で朔に呼ばれ、さすがに二人は口をつぐんだ。
「コメント発表だ」
ギロッと朔の鋭い目が三人を見た。
『なんだかんだで陽の後始末してる朔』
『喧嘩するほど仲が良い』
『奏×凪見守り係』
奏は不機嫌そうに、朔の資料を覗き込む。
「なんだよ?『奏×凪見守り係』って」
陽は吹き出して笑っている。
凪は怪訝な顔をしている。
「俺と奏、陽と朔に見守られてるの?」
「ンなわけあるかっ」
奏は即答する。
「見守ってる見守ってる」
そう言いながら、陽は大笑い。
奏は冷たい目で陽を見る。
それに気づいた陽は、ひえっと言って黙る。
「不本意だが……」
そう言って朔はまた、溜め息をつく。
「では、次」
「三位は、凪×朔」
陽が大きな声を出す。
「えぇー!意外っ」
「そう?」
凪がすぐ返す。
「え、凪、お前朔と仲良いの?」
陽は素直な疑問を凪に尋ねる。
「陽と奏が潰れたあと、よく二人で飲んでる」
奏と陽が顔を見合わせ、朔を見る。
朔の顔がまた苦い。
「……凪」
ふふっと笑って凪は朔を見返す。
「あれ?言っちゃダメだった?」
凪の視線を受けた朔は、わずかに胃のあたりに痛みを覚えた。
「コメント行くぞ」
聞かなかったフリをしたらしい……。
『凪にも世話焼きな朔』
『凪の体調管理は朔』
『奏×陽の止め役』
奏が心底面倒くさそうに髪をかきあげた。
「これ、最後のやつさ、さっきのヤツと一緒なんじゃねえの?」
それから、心外そうに。
「っつーか、止め役ってなんだよ、止め役って」
「さっきみたいのじゃない?」
なんでもないことのように凪が言う。
いつものこと、という感じだ。
「凪は何もしてないだろ?」
陽が言うと、奏は眉をしかめる。
「お前……いっつも凪に言葉で刺されてんの、忘れてんのかよ?」
「ゔっ」
陽は何かを思い出したのか、言葉に詰まる。
それを奏はにやにやして見ていた。
凪は相変わらず、わかっているのかわかっていないのか、にこにこして見ている。
「……奏、陽」
朔が二人を呼んで、にこっと笑う。
その笑顔が……怖い。
二人は無言で顔を逸らす。
「次、いくぞ」
朔は余計な言葉は挟まず、淡々と進行を始めた。
「二位、朔×奏」
続けてコメント。
『高校からの先輩後輩だから』
『奏が唯一頭があがらない』
『朔の前だと奏が少年のような顔してる』
コメントを聞いて恥ずかしかったのか、奏はぷいっと顔を逸らした。
「奏、照れてるー!」
「うるせぇ」
陽に指差され、奏は反射的に返す。
「朔は全員の面倒見役だね」
無邪気に言う凪。
朔はチラッと凪に目線を向けてから、額に手を当てた。
「奏は朔の前だと可愛いよね」
追撃。
「お前……」
奏は何も言えずに凪を見る。
「……凪、怖ぇ……」
陽は凪には聞こえない声でボソッと言った。
「次、一位」
空気を変えようとしたのか、朔が進める。
「一位は、奏×凪」
「やっぱりそうだよなぁ」
陽が頭で手を組みながら、当然のように言う。
「まあ、妥当だろう」
朔も同意する。
コメント。
『奏の後をとてとて着いてく凪が可愛い』
『奏が凪には優しい』
『並んでるだけで目の保養』
「最後のヤツ、仲関係ねぇじゃねーか!」
奏が突っ込む。
「そこは、まぁ、ファンの意見だ」
朔がフォローする。
陽がにやにやしてコメントを読み返す。
「『奏が凪には優しい』」
目を細めて奏は陽を見る。
「……陽」
低い声。
「だぁってさぁ……」
奏の冷たい目にも怯まない陽。
陽を止めようかと、朔が口を出しかけた時、
「奏は優しいでしょ?」
凪がずばっと。
「……凪」
陽が口をパクパクさせている。
朔は頭を抱えた。
「……奏が優しいのは、凪、お前限定だ……」
朔が小声で言う。
「え、そうなの?」
凪は驚いた顔をしている。
「そんなこと、ないだろ」
奏は反論するが、説得力はないようだ。
目が泳いでいる。
「お前、自覚ないの?」
陽は更にぽかんとして、奏を見る。
「は?」
反射的に声が出る。
陽はおかしそうに笑い、また冷やかそうと口を開きかけた。
奏は鋭い目を陽に向ける。
「……陽、お前、黙れ」
陽は、理解出来ないと言うように、両手をあげて首を振った。
「……陽」
朔の低い声が、陽を呼ぶ。
察した陽はそれ以上何も言わなかった。
「一位、奏×凪は圧倒的得票数だった」
そう言って終了させる。
資料に目を通した朔は、少しだけ難しい顔をしたが、すぐに真顔に戻り、進める。
「次は、バディ部門」
凪が不思議そうな顔をする。
「バディ?」
奏も首をひねる。
「仲良しと何違うんだよ?」
朔は説明をする。
「バディ部門は、ステージ上での信頼感、演奏中の呼吸、背中を預けられる相手、そういう意味での“相棒”だな」
三人は納得したように頷く。
「早速発表します」
朔は資料をめくる。
「まずは四位、奏×陽」
「よっしゃー!」
陽が拳をあげて、喜ぶ。
「お前、ホント単純だな」
呆れたような奏。
コメント。
『この二人が噛み合った時の勢いが一番ロック』
『喧嘩してるような音の煽りあいが好き』
『この二人の音が重なった時の爆発力が規格外』
「だよなーっ!奏と音で殴り合うの、俺好きなんだよなー!」
陽が大声で言う。
奏は少し驚いた表情を見せたが、すぐにステージ上のような不敵な笑みを浮かべた。
「俺が勝つけどな」
すると陽は、受けて立つ。
「いやっ、そんなことないだろ?俺だって負けないぜっ」
「無理だろ?」
また、そんな言い合いが始まりそうなところに……。
「奏、陽」
朔の低い声が飛ぶ。
反射的に二人は黙る。
くすくす笑う凪。
「ライブの時と一緒だね」
その言葉に疑問符が浮かぶ奏と陽。
「煽って、喧嘩して、音がぐちゃぐちゃになった所に、朔のベースが入って止めるとこ」
凪を見ていた二人は、一気に鎮火したようにお互いの顔を見合わせた。
……間違いない。
「でもね、楽しそうだよ?奏も陽も」
にっこり笑う凪。
急に気恥ずかしくなった陽は、頭を掻いた。
「ま、楽しいけど」
奏もボソッと呟く。
「まぁ、陽いなかったらつまんねーしな……」
朔はこめかみを抑えながらも、今回ばかりは凪に感謝した。
「じゃあ、次」
三位の発表だ。
「三位、奏×朔。コメント行くぞ」
『暴れる奏を制御する朔がカッコいい(もちろん暴れる奏も!)』
『NOCTISのはじまり、って感じがする二人だから』
『奏も朔もお互いを"わかってる"感がいい』
「まぁ、妥当だな」
朔は満足げに言った。
不満そうなのは、やっぱり奏だ。
「『暴れる奏』ってなんだよ?」
「奏、暴れてんじゃん」
即、陽。
「奏、暴れてるよ?」
凪まで。
朔は言うまでもなく、無言で頷いている。
口元だけでブツブツ言いながら、奏は舌打ちしかけて飲み込む。
「ま、奏のこと一番わかってんのは朔だからなっ」
「そうだね、NOCTISの根っこだからね」
陽と凪のその言葉で、締められる。
朔は少しだけ、唇の端を持ち上げた。
「じゃあ、次行くぞ。二位は……」
そう言って資料をめくる。
「朔×陽」
「おぉー!?」
と、陽。
朔はそれを無視して、コメントを読み上げる。
『NOCTISに欠かせないリズム隊』
『奏と凪が暴走しても、最後必ず戻してくれる安心感がある二人』
『やっぱり曲の土台をがっちり固めてくれてるから』
「やっとバンドっぽいの来たじゃん!」
陽が喜ぶと、奏はまた不満げに顔をしかめた。
「……また俺、暴走かよ……どんなイメージ持たれてんだよ……」
それには、陽も朔も苦笑いを返す。
……お前、暴走以外しないだろ……
とは、口にはしなかったが。
「うん、間違いないね。陽と朔の音があるから、NOCTISはしっかりした音楽やれてる」
凪は真面目に答えた。
「俺も、これには一票かな」
そう言って笑う。
朔も陽も、凪の真っ直ぐな評価に思わず笑みを浮かべる。
「ははっ。ありがとな、凪」
朔は何も言わなかったが、機嫌が良さそうなのだけはわかった。
「……次は一位」
そして、一位の発表。
「バディ部門一位は……奏×凪」
想像出来ていたのか、陽はつまらなそうに口を尖らせた。
「やっぱなぁー」
「これも、圧倒的だった。コメントも……すごい量きてるぞ」
『ステージ上での二人の煽り合いが最高にカッコいい』
『大人しそうな凪が、奏と演奏してると生き生きしてる』
『奏の声と凪のギターの響き合いが好き』
『音で会話してる感じがいい』
『ステージ上で並ぶ二人が、尊い』
『凪の憧れが奏に届いてほしい』
「……?」
奏が首を傾げる。
「なんだ?最後の?」
凪はさも当たり前のように答える。
「あ、それ、俺、前にインタビューで言ったから。奏の歌に憧れてNOCTIS入ったって」
「あー、そういうこと」
陽は納得したように手を叩く。
「……届いてほしいって……なんでファンがそんなこと言うんだよ?」
奏は納得いかないようだ。
「さぁ?」
凪は考える素振りを見せたが、思いつかなかったようだ。
奏は顔を背け、マイクには拾われないようにボソボソと呟く。
「……んなのっ……知ってんだよ、バカ」
「ん?奏どうしたの?」
凪に問いかけられ、奏は慌てて首を振る。
「……なんでもない」
「……ということで、仲良し部門、バディ部門は終了だ」
朔が締める。
「他にも色々部門があったが、それは次回のファンクラブ会報でコメントと共に発表します」
朔がファンクラブ会報の見本を見せながら、宣伝。
「最後!総合人気ランキングを発表します」
朔がそう言うと、横からスタッフが小さなくす玉を差し出す。
「その前に、もう一回、休憩」
朔がそう言うと、カメラの録画がオフにされた。




