凪と朔
凪は時々、朔が怖い。
見透かされたような気になるからだ。
朔は、冷静だ。
人をよく見ている。
奏に対してもそう。
陽に対してもそうで、厳しく接していても、ちゃんと見ている。
どこまでも冷静で、平等だ。
……少しだけ、奏に甘い気はするけど。
「凪」
責めるでもなく、咎めるでもなく、落ち着いた、でも色のない呼び方。
この口調で呼ばれる時は、だいたい見抜かれてる。
凪はいつものように穏やかに笑んで振り返る。
「お前、今日調子悪いだろ?」
「悪くないよ?」
凪はきょとんとして返す。
朔は軽く溜め息をついて、凪に近づく。
軽く凪の額に手を当てる。
「……熱い」
朔はもう一度溜め息をつく。
「どう見ても熱があるだろ?」
「いつもと変わんないけど……」
朔は眉間にシワを寄せて凪を見下ろす。
それから、凪をソファに座らせて水を渡す。
「今はそれしかないから、まずそれ飲め」
有無を言わさない勢いで言って、朔は自分の荷物から車の鍵を出す。
「帰る用意しとけ。送ってくから」
「わかった……」
観念したのか凪は大人しく水を飲んで、帰る支度を始めようと立ち上がる。
「いいから、座っとけ」
奏はぶっきらぼうに言って凪の荷物を取りに行く。
陽は凪の隣に座って、取ってきた体温計を渡す。
「朔、よく気づいたなぁ」
「そうだね、俺も気づかなかったのに」
凪は視線を落とした。
少し長めの金に近い茶色の髪が、はらりと流れる。
「はぁ……」
凪の口から息が漏れる。
やっぱり少しだけ、辛いのかも知れない。
その時、朔が戻って来る。
「行くぞ」
そう促す。
凪から体温計を受け取った陽が大騒ぎする。
「ちょっ、凪、お前、39度も熱あるぞ!!」
「そっか」
それを聞いても凪は淡々としていた。
奏は荷物を朔に渡すと、凪を支えて立ち上がらせる。
「奏、ありがとう」
そう言って立ち上がった凪は、やはり少しふらついていた。
奏は車まで凪を送ってから、スタジオに戻る。
助手席に座った凪は、ふっと力を抜いた。
「ごめんね、朔」
ハンドルを握った朔は、心配そうに凪を見た。
「お前……いい加減、少しは自分に興味を持て」
真面目そうな朔の黒い瞳が、じっと凪を見据えている。
少しだけ、ドキッとする。
「……うん……」
曖昧に返事をする。
「体もそうだけどな。普段から……な」
今度はギクッとする。
やっぱり、朔には見抜かれてる。
凪は今度は返事が出来なかった。
「……俺だって心配してるんだ……陽も、奏もな」
諦めたように朔は言った。
「……うん」
また、曖昧に答える。
少しだけ、陽と奏の顔が脳裏に浮かぶ。
それからこう答える。
「……わかってる……でも……」
続きは言葉にならなかった。
朔は何も言わずに車を走り出させた。
凪は目を閉じて、思う。
――やっぱり、この場所、心地いいな、と。




