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第9話 私たちは。

私達は、広めのテーブルを隔てて相対した。先に口を開いたのは、フロリアーノさんだった。

「も〜、しょうがないな〜」

その口調は優しげで、私達の考えなどお見通しのようで、そして、固い意思を感じさせた。

「心花ちゃん、心花ちゃんの気持ちは嬉しいよ、だけどね……」


私は戻れないの。

フロリアーノさんは、そうはっきりと告げた。

私は、テーブルを回り込んで、フロリアーノさんに近づきながら

「それは、フロリアーノさんが、そうしたいと思ったの?」

フロリアーノさんは、少し躊躇うように顔を下げてから

「……うん、そうだよ」

その声は小さく、頼りなさげだった。

「違うよね。私の知ってるフロリアーノさんは、もっと、楽しそうだったよ。私と二人で天鳳教の計画を立ててる時も、その計画が上手くいって、これからどう社会に影響してくとか、ずっと、楽しそうに話してくれてたよね」

私は、フロリアーノさんに距離を詰める。

「フロリアーノさん、私、フロリアーノさんのためなら、なんだってするよ。もし、世界中を敵に回しても、私は、フロリアーノさんといたいよ」

フロリアーノさんが後ずさる。その口から小さく「心花ちゃん……」と声が漏れた。

「お願い、フロリアーノさん。私、フロリアーノさんがいないと、ダメなんだよ。一緒にいて」

私は、フロリアーノさんのすぐ前に立った。手を伸ばせば、すぐに触れられる距離だ。

フロリアーノさんは俯いていて、私からは表情が見えない。

「私ね……家から、帰ってこいって、言われたの」

フロリアーノさんが、小さな声で喋り始めた。

「私の家は名家で、だから、私が半ば勘当みたいに左遷された時も、沢山お金とか、援助して貰えたの」

「私がこうやって、沢山のことを学べたのも、好きに生活できたのも、全部、親のおかげなの」

「だから、その恩は、返さなくちゃ、いけないから……だから、私は……」

フロリアーノさんが、その先を言う前に、私はフロリアーノさんの話に割り込んだ。

「あのね、フロリアーノさん!」

フロリアーノさんは、びくりと体を震わせて、言葉を止めた。

「私、実は、両親を捨てたの!」

「私、両親に18まで育ててもらって、色々あったけど、学校も行かせてもらって、ご飯も食べさせてもらって……」

「そんな両親を、私は、捨てたの!」


少し戸惑いながらも、フロリアーノさんは言う。

「でも、心花ちゃんのそれと、私のそれは、違うでしょ……」

「確かに、私の両親は、私からしたら馬鹿で、盲目的だったけど!でも!そんな両親を正しいって言う人もいて、それでも私は、両親を捨てたの!だって、違ったから!考え方も、生き方も!」


「フロリアーノさんは、その両親の考え方とか、生き方に、納得してるの!?きっと、フロリアーノさんが家に帰ったら、その両親みたいになるよ!?前、言ってたよね!ずっと、気が合う相手がいなかった、って!」

「でも……私……」

フロリアーノさんが、フラフラと視線をさ迷わせる。

私は、話している内に熱が入ってきたのか、フロリアーノさんの手を掴んで

「私、フロリアーノさんのその罪悪感も、背負うから!半分、私が背負うから!だから、私達と、一緒に、いて……」

いつの間にか、話している私の目からは涙が零れていた。フロリアーノさんの方を見ると、同じように頬を涙で濡らしていた。

「あ、フロリアーノさ、ん……」

フロリアーノさんの手が、私の背中に伸びる。フロリアーノさんが、私を抱きしめる。

「これからも……よろしくね、心花ちゃん」

私も、恐る恐るフロリアーノさんの背中に手を伸ばす。

そうして、全てハッピーエンドかと思ったその時。

部屋の扉が鳴る。女性の声で

「どうかなさいましたか?」と、聞こえてくる。


「え、わわ、どうしよ」

慌てる私の手を、フロリアーノさんが掴む。

「心花ちゃん、こっち!」

そうして、フロリアーノさんは、私を布団に押し込み、自身も布団に入る。

「……入りますねー」

そう言って、扉を開ける音が聞こえる。

「……あれ?気のせいかな……失礼しました」

扉が閉まる。しばらくして、ヒソヒソとフロリアーノさんが喋る。

「危なかったね〜心花ちゃん」

「う、うん。そうだね、フロリアーノさん」

そう言うと、何故か少しフロリアーノさんが不機嫌そうになる。

「……フロリアーノさん、じゃなくて呼び捨てで〜」

「えっ」

「ほら、フロリアーノって、言って〜」

「…………ふ、フロリアーノ、さ、さ……」

「さ?」

「ふ、フロリアーノ、ちゃん……」

フロリアーノさんは少し首を捻った後、まぁいいかという風に微笑んでくれた。

「なら、心花ちゃん、ほら、目をつぶって……」

え?なんでだろうと思ったけど、とりあえず今のフロリアーノさんの言うことには全て従うことにする。なんかちょっと怖いし……

フロリアーノさんの気配が近づく。

何かが、私の唇に触れる。

「……え!?」

「……ん?心花ちゃん、どうしたの〜?」

フロリアーノさんはにっこりと笑う。今、唇に触れたのって、何なのか。それを、フロリアーノさんに聞くことは、私には出来なかった……無言の圧があるよ……

「そ、そろそろ行こうか!フロリアーノさん!」

「そうだね〜これからもずっと、よろしくね〜心花ちゃん」

なんだろう。フロリアーノさんの私を見る目が、前と、少し違うような、気が、しなくもないけど……


私は窓を開けて、ランタンを持つと、それを左右に大きく揺らす。フロリアーノさんは何をしているか分かっていないようだけど。

それから少し待つ。その間に、またフロリアーノさんと少しお話をした。

「あのね、フロリアーノさん。そういえば、シェイラちゃんのことなんだけど……」

「うん、シェイラちゃん。どうしたの〜?」

「実は、シェイラちゃんって、別に子供じゃないみたいで……いや、体は子供なんだけど、頭脳は大人というか……」

自分で言っていて、どこの高校生探偵なんだよなんて思ってしまった。シェイラちゃんはフロリアーノさんを取り戻す私の我儘を沢山助けてくれたのに、失礼な考えかもしれない。

「そう、なの〜?」

フロリアーノさんがピンと来ていない。でもきっと、シェイラちゃんと喋れば分かるはず……と、その時。

窓の外で眩い光が一筋、邸宅の反対側へ飛んで行った。

「シェイラちゃんだ!行こう!」


そう、シェイラちゃんは、ちゃんと脱出策まで考えていた。もし、フロリアーノさんも一緒に連れ出すとなれば、行きのようにはいかないかもしれない。人が一人増えれば、それだけ立てる音も大きくなる。

だから、帰りはシェイラちゃんが撹乱してくれるらしい。邸宅の反対側に落ちた光は、眩く光り続け、私達の側には更に濃い影が落とされている。


その影に乗じて、私とフロリアーノさんは脱出した。木を降り(フロリアーノさんはあまり木登りが得意ではなかった。だから私が抱き抱えながら降りた)

シェイラちゃんの潜む場所まで向かうと、シェイラちゃんは地べたに寝そべって寝ていた。

これも本人から聞いたことだ。


「私の魔力はあなた程高くないから、多分、光を出したら倒れると思うの。だから、帰り際に回収してね」


私がシェイラちゃんを背負って、フロリアーノさんと二人、人のいない街中を歩いた。

「ねぇ、心花ちゃん」

フロリアーノさんが口を開いた。辺りは静まり返っている。

「私、家を捨てちゃった」

そうだね、なんて言えない。きっと、フロリアーノさんにとって、それは実際のところ、大事なことで。

「心花ちゃんのせいだよ〜」

え!?わ、私!?

いやでも、その通りだ……フロリアーノさんの人生を変えてしまったのは、私だ……

「ふふ〜冗談」

あ、あぁ〜

何か、フロリアーノさん、変わったなぁ。前も可愛かったけど、今はこう、なんというか……

「でも、そうだね〜」

なんだろう?続く言葉が予想できず、私は首を捻る。

フロリアーノさんは私の耳に口を近付けて


「……責任、取ってね〜」


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