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第7話 雷が10本同時に落ちたような、そんな日

そうやって、何日も広場と家を往復し、人々の信仰を集めていった。

毎日、集まる人々は少しずつ増えていき、宗教は広まっていった。

相変わらず、フロリアーノさんは仕事が忙しいようで、一度も集まりに顔を出すことはなかった。が、家で日々の進捗や、変わっていったことを告げる度に、知識欲が刺激されるのか、面白そうに聞いてくれている。

シェイラちゃんも、殆ど喋らない。まだ、心を開いてくれていないのかもしれない。


いよいよ今日は、空き地に収まらないほどに人が増えた。私を見るだけで、拝んでくる人も増えた。主婦が多いが、その中に老人や小さな子供の姿も見えるようになってきた。

これはいい兆候だ。あくまで主婦はとっかかりであり、より多くの種類の人々を勧誘しなければ、とても世界的な宗教を作れはしない。


今日も、空き地で演説と質問会を行い、それで終わりかと思った、その時。

「おい!そこに集まっている人共!動くな!全員拘束する!」

その声が人混みの向こうから聞こえた。私は一般的な女性より少し身長が高いため、人混みの、その先も見えた。

そこには、兵士と思しき(片手には槍、鈍色の金属でできた鎧と兜を被った人)が、数十人、立ち並んでいた。

「……え……」

私は、考えが甘かった。

日本では信仰の自由が認められている。だからこそ、何か、犯罪行為をしなければ、こうやって集まって、教えを説くことに問題は無いと考えていた。フロリアーノさんも、法を洗って、この行為に問題はないだろうと、そう言っていた。

考えが甘かった。法や規則が、必ずしもこの異世界で通用するわけではない。

それらは全て、為政者の心ひとつ、いや、それどころか、前に立つ兵士の、心ひとつなのだ。


予想していない事態に、完全にフリーズする私。人々も、もはや私の言葉ではなく、兵士達が自分たちをどうするか、そのことばかりに思いが寄ってしまっている。


その時、私の手を誰かが引いた。

「……走って!」

私は、その手に連れられて、人混みをかきわける。

後ろから兵士や人々の揉み合う声、怒号が聞こえる中、家と家の隙間を通り、しゃがみ、私は、何とか兵士達の包囲網から脱出した。


「……はぁ、はぁ……」

息切れをしながらも、手を引いてくれた人物の方を見る。その人物は、少し蔑んだような目で私を見ている。

「シェイラちゃん、なんで……」

その人物、シェイラちゃんは、座り込んだ私を上から見下ろし、頭を大きく振る。

「なんで逃げなかったわけ?あんなこと、しているんだから兵士に捕まったら終わりって思わなかった?」

シェイラちゃんは、初めて会った時と同じ声で、しかし、はっきりとした言葉で語る。

「しゃ、喋った……それに、内容も……」

「それは喋るよ。私だって口が付いているんだから。今まで喋らなかったのは、そっちが子供だと思って触れ合ってたから、合わせてただけ」

「え……それって……」

シェイラちゃんはまた大きくかぶりを振り

「私、40を超えてるんだけど。確かに、外見は小さいけど、あなたの2倍は生きているから」

私は絶句してしまった。

「ほら、立って。あんなことがあったんだから、今日は目立たない方がいいでしょ。家に帰ろう」

「う、うん……」

シェイラちゃんは私の手を引いて歩いていく。頭がおかしくなりそうだ。

「その、シェイラちゃんは、なんで……喋らなかったの?」

「そっちが子供だと思ってたし、それに、よく分からないことに巻き込まれたと思ったから、静かにしておいた方がいいかなって、思っただけ」

「あ!そうだよ、私達、シェイラちゃんの前で色々……」

「初日も起きてたよ。どんな酷いところに連れてかれるのかと思ってたから、様子を見たいと思って」

私はずっと驚きっぱなしだ。シェイラちゃんは、もしかしたらだけど、私よりも断然、賢いのかもしれない。

「集会の時は、黙って、子供の振りをした方が良かったでしょ。喋るとボロが出るかもしれないから、黙ってたの。それに……」

「それに?」

私が尋ねると、シェイラちゃんは少し面倒くさそうに

「……まぁ、後で話すわ。それより、早く家に帰らないと」

それきりシェイラちゃんはまた黙ってしまったので、私もしょうがなく黙り、家へと帰った。


フロリアーノさんの家の扉を開け、中に入る。まだフロリアーノさんは帰ってきていないようだった。

「はぁー、疲れたぁ」

私がそう言って椅子に座ろうとすると、机の上に、一枚の紙が置いてあることに気がついた。

「え?」

私がその紙に手を伸ばすと、シェイラちゃんもそれに気がついたのか、横に立って紙を覗いてきた。


それには、フロリアーノさんからの言葉が、書いてあった。

「心花ちゃん。シェイラちゃん。まずは謝りたいと思います。ごめんね」

その文字を見ただけで、私の心臓は跳ねた。

「紙でお別れをすることを、許してください。私は、実家に帰るよう、命じられてしまいました」

「まだまだ、一緒にいたかったけど、どうしても、無理だそうです」

「アンドラーシュ帝国から、白金教は撤退するそうです。その先駆けとして、私が呼び戻されることになりました」

「なので、帝国内の宗教には空白が生まれます。きっと、心花ちゃん達の目的には、都合がいいことになると思います。頑張ってね」

「最後に、もう一度謝らせてください。ごめんね」

「追記・家はそのまま使って大丈夫です」


……嘘、でしょ……

私は、思考も、体も、凍りついたように、止まってしまった。

半開きの扉から、ぬるい風が流れ込んできて、私の手に握った紙を揺らした。

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