第6話 まぁ、上手くいって、これからお金も稼げてくるかな?
翌日、私はシェイラちゃんを連れて、布教をするための空き地に向かっていた。
フロリアーノさんは今日も仕事らしい。朝ごはんを詰め込むと忙しそうに家を出ていった。
私が空き地に着くと、そこにはもう既に人だかりが出来ていた。
私は胸を張ってその集まりに近付くと、集まりの中の何人か、昨日の私を知っている人達が、声をかけてくる。
「……皆様、集まってくれて、ありがとうございます」
私が一言発すると、そこにいた全員が黙り込む。
「昨日、皆様が、様々な苦しみを抱えていることを知って、私にできることはないかと、考えておりました」
「私には、戦争を止めるような力はありません。ですが、私の故郷の教えが、皆様の願いを叶える一助になるかもしれないと、そう思い、今日、集まってもらいました」
離れる人は殆ど居ない。微かにどこかしらでヒソヒソ話をしているようだが、多くの人は、私を見ている。
「それでは、話していきましょう。その教えは……」
元々、この世界では、教義や学問といったもののハードルは比較的高い。だからこそ、民衆はそれらに飢えている。特に、自分達の役に立つもので、本来お金を払わなければ手に入らないものに。(全文、フロリアーノさんからの受け売り)
だからこそ、庶民の主婦をターゲットにする、というのは特に効果的だった。今が戦争中だということも、更に効果をもたらした。周囲に人が居ない人程、関わりを求めるものだ。これらは、私のカルト宗教からの経験則だった。
そう、ともかく、私は口から出まかせ(とは言っても、ある程度計画していた内容)を語り、人々の注目を掴んでいく。
更には、時折人々から質問も投げかけられた。
「争いは、対話によって止められないから争いなのではないですか?」
「私の夫は戦場で死にました。死んだら、どこへ向かうのですか?白金教は、天国と言っていますが、夫は白金教の軍と戦って死にました。では、天国に行けないのですか?」
「私の家は、今、誰もおらず孤独で寂れています。それは、あなたの言う倹約や奉仕に結びつくのですか?」
――良かった……フロリアーノさんとしっかり相談しておいて。
昨日、フロリアーノさんと宗教についての相談を進めていた時の事だ。
「実際、教義や信仰って、私達が決めるんじゃなくて、民衆に合わせるように作った方が上手くいくと思うんだよ」
「そうかなぁ〜心花ちゃん、でも、それだと、地域によって教義がバラバラになって、一貫性のない宗教になっちゃわないかな〜」
「だから、核は決めたいよね……それ以外の教えは、地域や個人、伝播によって定義するのがいいんじゃないかなと。実際、教義が多少変化しても、信仰対象と核となる教えがブレなければ、上手くいくかな、って。そういう例も知っているし」
「そっか〜〜世界に広めていく、って考えたら、そういった部分にも気を配らないといけないのね」
「実際、内紛だったりは広めていく過程で生まれると思うんだけど……そういうのも、やってみないと分からない所かな、って」
フロリアーノさんはニッコリと笑って
「そうだね〜!やるぞ〜!お〜!」
と、小さめの声で元気に、拳を上げた。
「で、一昨日の奴隷市場とか見ても、多分、皆治安が悪化して困ってるから、平和や融和を訴えるような教えが広まりやすいかな、って」
「でも〜争わない、だけだと、争いを義にする宗教には勝てなくないかなぁ〜平和とか、対話って、相手ありきのものでしょ〜」
「なら、目的を変えるのはどうかな?平和のための争いは、正しい行い、みたいな」
「それでも〜結局、平和を求めていない人って、あんまりいないと思うんだよね〜今のこの国(アンドラーシュ帝国)も相手の国(神聖カシウス国)も、戦争を勝って終わって、平和にしたい、って考えてると思うんだよね〜お互い、負けられないから戦争が続いている訳だし〜」
「うーん、いい案だと思ったんだけど……」
「あ〜なら、こういうのは?つまりね〜」
回想を終えて、私は質問に答える。
「あの、つまり……私達を苦しめているのって、誰なんですか?」
主婦から、何気ない質問が飛び出す。それは、今の民衆の、世の中全てに対する、不信感の現れ、自分の住む国、戦争をしている国、信じられない白金教、それらに対する、不信感。
「平和を望まない人、全てですよ」
私は悠然と答える。
「きっと、この国にも、相手の国にも、平和を望む人がいるのでしょう。しかし、それを快く感じていない人もいます。だから、争いは続くのです。私達の敵は、平和を妨害する人、全てですから」
また、フロリアーノさんの言葉を思い出す。
「この教義ならね〜きっと、この宗教を迫害しようとする人達を、追い込みやすいと思うんだ〜それこそ、白金教とか〜あそこ、結構激しい迫害主義だし、暴力主義だから〜」
「そうなの?」
「元々信仰している神様が軍神アマルガムだからね〜広まるにつれて苛烈さは鳴りを潜めていったけど〜過去は結構、激しい宗教だったらしいよ〜」
「……それなら、対立構造に、しやすいのかな」
私がフロリアーノさんの手前(フロリアーノさんは白金教のシスターなので)恐る恐る言うと
「そうだね〜というか、それを狙わないと〜今、アンドラーシュ帝国だと白金教の人気、ないから〜」
フロリアーノさんはなんてこともなさげに言う。
フロリアーノさんと3日も居て、わかったことがある。この人は多分、信仰や宗教を信じていない、必要のない人だ。
宗教よりも、大事なものを抱えている人だから、必要がないんだろう。
私も、過去にそういう人に会ったことがあるから、わかる。
――閑話休題、今の話に戻ろう。
主婦たちを中心にした民衆はざわめいている。それは、拒否反応によるものではなく、私の言葉を個々人で解釈し、理解しようとしているからだろう。
私はあえて、彼女たちの前では、少し回りくどい言い方をしている。それは、過去のカルト宗教から来る経験だ。
――人は、自分の頭で考えた、理解したと思ったことを、疑いにくい。
全ての答えを教えるのではなく、九割の答えを教えて、最後のひと押しだけを、相手に委ねる。
――と、また質問が飛んできた。
「先程から仰っている、東の方の宗教とは、何という名前なのですか?」
――来た。この質問を待っていた。
「『天鳳』教といいます」
私は、あくまでにこやかに、なんてことも無いように答えた。
「信仰している神様は!?」
「どうやったら入信できるのですか!?」
「私も入りたいです!」
声が様々に集まってくる。予想以上に好意的な反応が多い。それは、異世界ならではの警戒心のなさか、もしくは、民衆に蔓延る不満が予想以上に大きかったか、他の要因か――
ともかく、私はそれらの声に、親切に答えていった。
祈りの作法……(これはとりあえず、日本の仏教的な手法で教えた)
信仰する神はいないこと……(これを決めた時、フロリアーノさんが何か考えていそうな笑みをしていた)
この宗教のみを信じるならば、それが入信であること……
様々な質問を終え、満足した人々はそれらの作法を行いながら、各々の家へと帰っていった。
きっと彼女達が、更に教えを広めてくれるだろう。ゆっくりと、しかし確実に。そのためには、明日も、明後日も、同じことを行わなければ。
「シェイラちゃん、ごめんね。疲れたよね。ご飯を買って帰ろうか」
今日の時点で、多少とはいえ、寄進を得ることができた。フロリアーノさんに頼りきりの日々を少し脱せたことに、多少の喜びを覚えながら、シェイラちゃんと二人、帰路についた。




