第4話 もしかして、天国っていうのはここなのかもしれない
……私達二人は、シェイラちゃんを連れて、フロリアーノさんの家へと、歩いていた。
シェイラの料金は全額フロリアーノさん持ちだし、私を含めて、二人のヒモ……いや、シェイラちゃんは違うから、一人のヒモ(私)と子供なわけだが。
ともかく、養っている分際で、更にシェイラちゃんという子供を買うということを、決めてしまったわけだ。私のわがままで。
……フロリアーノさんに申し訳がたたない……
「あ、あのね、フロリアーノさん。その、宗教を立ち上げるにあたって、広告塔というか、そういう人って、いるでしょ?シェイラちゃんだったら、ずっと可愛らしいし、きっと、そういう風になってくれるんじゃないかな……って」
……言いながら、自分が恥ずかしくなってきた。
これは正当化だ……私が、自分の感情任せにしたことを、後出しの理屈で正当化しようとしているだけだ……
うう、私にはそういう所があるんだ……自分の知らない一面を知ってしまった……
私が何も言えなくなって俯きそうになると、フロリアーノさんは
「……ふふふ〜そうだね。心花ちゃんは、よく考えてるもんね。大丈夫だよ。私も、シェイラちゃんを引き取ることに同意したから」
う、うぅ……私の内心を全部見透かした後のフロリアーノさんの優しさが痛い!
これは……早く宗教を立ち上げて、ちょっとでも稼げるようにならないと……そして、フロリアーノさんの望みも叶えられるようにならないと!
私が決心を新たにして、三人でフロリアーノさんの家に帰るまでの間、シェイラちゃんは一言も喋らなかった。
「よ〜し!それじゃ〜みんなで、お風呂に入ろっか!」
フロリアーノさんが家に帰って開口一番、片手を突き上げて叫ぶ。
「確かに、シェイラちゃんも汚れてるしね……あ、私がシェイラちゃんを見てるから、フロリアーノさん、お先にどうぞ」
フロリアーノさんが?みたいな顔でこっちを見てくる。
「みんなで、だよ〜?」
え?
ええ?
わぁ!!!
私は、フロリアーノさん、シェイラちゃんと一緒に、木製のバスタブに入っていた。
「お湯炊くのにもね〜結構薪とかがいるから〜」
そう言ってフロリアーノさんは大きめの桶にタオルとお湯を入れていた。
そういえば、貯めたお湯に浸かるのって日本が中心で、海外だとそこまでメジャーでもないんだっけ……温泉とか……
いや、だからって三人は!それは、あんまり、ダメじゃないの!?しかもこのバスタブ、小さいし!
「ごめんね〜私一人で暮らしてたから、色々少なくて〜お湯とかも、もっとお金あれば三人それぞれで入れたけど〜」
うっ!ヒモ二日目の私にダイレクトで刺さる!文句を考えていた自分が恥ずかしい!いや、恥ずかしいのはこの状況だから……自分が恨めしい!愚か!厚顔無恥!
フロリアーノさんが全裸で微かに泡立てたタオルでシェイラちゃんの髪を拭い、顔、体と拭いていく。
全裸の、女性と美少女……!?
あわ、あわわ……
今更ではあるが、フロリアーノさんは胸もかなり大きく、対して、私はほとんどない。シェイラちゃんは今のところ私側だけど、元の顔の素材が違いすぎる。
自分よりも圧倒的に美しい、なんなら今までに見たことの無いような美人の裸なんて、それは同性でも当然照れるし、緊張するし、見続けてしまいそうになる!
男性なら考えてみてほしい、もしトム・クルーズが目の前に現れたとして、それで緊張するな、照れるな、見るなという方が理不尽じゃないだろうか!
私が自己弁護を終え、フロリアーノさんの首周りやふくらはぎに視線を寄せていると、
「……はい、シェイラちゃん、お疲れ様〜終わったよ〜」
と言って、フロリアーノさんがシェイラちゃんを離す。
シェイラちゃんはいそいそとバスタブから出ると、タオルを使って体を拭き始める。
「……じゃあ次は〜心花ちゃんの番だね〜」
「え!?!?」
いけない、大きな声が出てしまった。
いやでも、大きな声だって出るでしょ!フロリアーノさん!?何言ってるの!?
フロリアーノさんが私を?洗う?
それは、ちょっと……流石に、ダメでしょ!!
……いやでも、これも異世界の流儀なのかもしれない。この世界では、これが常識なのかも。だとしたら、おかしいのは私ってことになる。なら、ここは、洗ってもらうべきじゃないか?
私は誰に言うでもない言い訳を繰り出して、フロリアーノさんの方に向き直り、固く目をつぶる。
……ん?
いくら経っても、フロリアーノさんの手が肌に触れる気がしない。
なんで?と思い、恐る恐る目を開けると。
フロリアーノさんが困惑顔で固まっていた、その手にボディタオルを差し出したまま。
……あっ……
遅まきながらに自分の勘違いに気づいた私は、顔を真っ赤にさせながら、震える手でフロリアーノさんのタオルを受け取る。
その私の様子で、私の勘違いを察したフロリアーノさんも、少し遅れて、頬を赤くする。
奇妙な雰囲気のまま、私達はお風呂から上がる。
「あ……」
フロリアーノさんが、床で寝ているシェイラちゃんを見て小さく声を漏らす。
「寝ちゃったんだね〜私達も、ちょっとご飯食べたら、寝よっか〜」
夕食は帰る途中にフロリアーノさんが買っておいてくれた果物とサンドイッチだった。フロリアーノさんは見るからに食が細そうだけど(それこそ、みずみずしい果物だけを食べて、森の中の小さな泉のほとりで暮らしていて、朝には動物たちが集って……)
おっといけない、妄想の世界に入り込むところだった。
ともかく、私もフロリアーノさんも食が細い方だと思うし、食費があまりかからないのは良い点だ。とはいえ、シェイラちゃんは食べ盛りだろうけど。
パパっと食べ終えると、歯磨き(木と草で作った歯ブラシ)を終え、フロリアーノさん、シェイラちゃん、私の川の字順で、フロリアーノさんのベッドで寝る。
「ごめんね〜ちょっと狭いかも〜」
「ううん、フロリアーノさんのベッドだから……なんなら、私床で寝るよ」
「そういう訳にもいかないよ〜それなら、私だって床で寝るよ〜」
そんなことをボソボソと言い合いながら、三人で寝た。
シェイラちゃんが暖かくて(流石子供の体温……)ゆっくりと眠れた。




