第33話 朝日が昇る。
「……おい、確かあれか?白いロングヘアーの女とかがこの近くをうろついてたら殺すんだったよな?」
二人組の男が焚き火の近くに座って談笑している。
話している内容は物騒で下品極まりなく、男たちの姿もそれに準じて野蛮で薄汚い。
「どうせ殺すんだし先にちょっと犯しちまおう、ぜ……ごぷっ……」
聞き苦しい、と言わんばかりにクララがその背中を長剣で貫いた。けけけ、という笑い声が泡を食ったように掻き消え、もう一人の男も、剣に手を掛けるよりも早く、返す刀で喉を裂かれ、地面に膝を着く。
「……フロリアーノ様、神花様、終わりました」
血に濡れた手を拭きながらクララが廃坑の中に声を掛ける。
「ありがとう〜にしても、なるほどね。出口が廃坑に繋がってたなんてね〜」
そうやって廃坑の影から出てくるフロリアーノは、手に手綱を握り、御者台に座っていた。その先には、二頭の馬と馬車が繋がっている。
「医薬品も、食糧、地図もある。流石、王族御用達ね」
真夜が神花の包帯を替えながら呟く。シェイラも、
「医薬品は本当に助かったわ……そろそろ、目を覚ましてくれないかしらね」と呟いて神花の髪を撫でる。
その時神花が軽く身動ぎをした。それを見た四人は安堵の息を漏らして、まだ暗い闇の中でランプを点け、地図を開く。
馬車に積まれたその地図は、これ以上ないほど詳細に描かれていた。流石王族の地図だと思いながらフロリアーノは客室に戻り、真夜達と一緒に何処に行くか探っていると、馬車が勝手に動き出した。
フロリアーノの代わりに御者台に座っていたクララから声が掛けられる。
「フロリアーノさまー!馬が勝手に動き出しました!」
それを聞いてフロリアーノが御者台に顔を出す。その胸の辺りからシェイラも頭を出す。
「クララ〜馬の扱い方、学園で習ってないの〜!?」
フロリアーノが怒る。クララは肩を縮めながら、「本当に何もしてないのに動き出したんですよぉー」と情けなさそうに言う。
「馬がどこに行くか教育されているみたいね。偉い人の馬だと偶にあるわ。こうなったら何をしても無駄よ。馬に任せましょう」
と、シェイラが言った。驚いた様子だったが、フロリアーノもクララもそれを受け入れた(というより、受け入れざるを得なかった。シェイラの言う通り、馬はどう指示しても止まらず歩き続けたのだから)
「これ、王都に逆戻りなんてことは、ないですよね……?」
クララが不安そうに言う。
「まぁ〜王都から逃げるための馬車なのに王都に戻ることは無いでしょう〜。とはいえ何処に行くかは確認しておきたいし〜地図と照らし合わせましょう。クララも中に入って〜」
先程クララに理不尽に怒ったことなどすっかり忘れた様子で、フロリアーノが御者台から頭を引っ込める。それに続き、クララも中に入り、五人は揃って馬車の客室に集まる。
「五人もいるとやっぱり狭い……後ろの幌、開ける?」
と真夜が馬車の後ろに掛けられていた布を開くと、仄かに南の空が明るくなっているのが見えた。
最初は太陽かと思ったが、すぐに気付く。
王都が燃えているのだ。今も、衰えることなく。
あの王都の火災は、市民に多くの被害者を生んだ。
……そして、アンドラーシュ帝国唯一の学園は、その災禍の中心となった。
生徒、市民合わせて三百人以上の死者。
そしてこれは、秘された情報なのだが。
第三王女、アンドラーシュ=イヴは、虐殺の首謀者として責を負わされ、
城内部、最も監視の厚い監禁部屋へと収監された。
……その瞳は、変わることなく復讐の色を宿していた。
馬車は大分進み、神花を除く四人も、疲れ果てて、座ったまま眠ってしまった頃。
ゆっくりと、馬車の中心で寝かせられていた神花が目を開ける。
朝日が、馬車の幌の隙間から神花の顔に射し込み、その顔をキラキラと輝かせる。
ゆっくりと神花が体を起こすと、馬車は長い長い道を歩き、かつて歩いていた道は既に見えなくなっていた。
王都も、その火も、全て遠く遠くに消えた。
そんな中、朝日を一杯に浴びて、神花が伸びをする。
伸びをした時「い!いっつ……」と、脇腹辺りに痛みを覚え思わず小さく声を上げる。
と、それに反応して、寝ていた真夜が寝ぼけ眼の瞼を開く。
神花を見て、その目が大きく見開かれる。
「し、神花っ――!」
声を上げながら傷に障るんじゃないかという勢いで神花に抱きつき、その声で他の三人も起きると、それぞれが同じように神花に抱きつき、喜びの声を上げる。
その声は馬車の外、広い草原に響き渡っていった。
草原は優しい陽に照らされ、この先の道も、同じように照らされていた。




