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第30話 聡い君へ

……私は、この晩のことを、死ぬまで後悔し続けるだろう。

私が神花ちゃんに避難民を助けに行くよう伝えたのは、大きな打算で、だった。


イヴさんと共にこの件を解決すれば、王家との繋がりをより一層強化できたかもしれなかった。

避難民を信者にし、この街の支配を行えるかもしれないと思った。


身分詐称と人の善意に付け込むような生き方をしていた私達には、強い力が必要だと。

このギリギリの橋を渡り切るためには、強さを、危険を犯してでも、権力を、手に入れなければならないと。


……そんな私の浅知恵こそが、決してあってはならない方向へと、事態を狂わせてしまった。


そう、フロリアーノは悔やんでいる。



「……いいか!各教室を解放し、椅子と机を簡易的なベッドにしろ!ホールも開け!布を敷き、症状が重い者たちを運べ!」

神花の横でイヴさんが檄を飛ばす。


学園長、ライアとの対面は思ったよりも呆気なく終わった。

イヴさん曰く反乱の成功率は五分五分だったらしいが、権力のためか、失敗を恐れる学園長ライアは、簡単に座を明け渡した。

「今後貴女が成功したら私の教育の手柄、失敗したら貴女の責任」と最後までイヴさんに捨て台詞を吐いていたらしい。

「彼女らしい判断だな」とイヴさんは侮蔑的に吐き捨てていた。


その後、教師の抑えがなくなった民衆が学園に雪崩込むのを押さえ込みながら、イヴさんが率先して学園を野戦病院に変えるための指示を行っている。

それが先程のイヴさんの激であり、天鳳教やイヴ派の貴族達が指示通り動き始めると、残りの二割程度の生徒も釣られて動き始め、学園は急ピッチで野戦病院へ変わっていっていた。


ただ、その全てを指示するイヴさんの負担は大きい。今、イヴさんと私は学園建物内部のエントランスホールに陣取り、やってきた負傷者の対応や情報の統制に励んでいた。いや、学園中の情報を集めて指示しているのはイヴさんで、私は他の生徒と一緒に負傷者の対応をしているだけだけど。


……実際、私にとってこんな災害現場を見るのは初めてだった。パニックに陥った男性が言葉をまくし立てるのも、痛がる様子を見せる男を四人がかりで抑えて傷口を治療することも、、既に亡くなった子供を治して欲しいと必死に懇願する母親も、真っ白な顔で横たわる老人も、何もかもが、初めてだった。


不思議と、そんな凄惨な現場にいてもなお、私の身体は指示された通りに動いた。イヴさんの指示の元、救急医療の知識のある生徒が中心になって治療を行っていた。

それらの生徒の指示に忠実に。私の両手が血塗れになっても、足元に血溜まりができても、私は変わらず働き続けた。


命を救うという使命感か、本能か、他人の血にも、目の前で死に行く人にも動揺せず、ただ処置を、そう、処置を。


私もイヴさんも、――いや、生徒達全員、そうやって摩耗していたのかもしれない。

だから、あんなことが起きてしまったのかもしれない。


――本当の、目を覆いたくなるような惨劇は、もう目の前にあった。



……神花の部屋でフロリアーノ、真夜、クララが、街の惨状を探っている。

クララとフロリアーノは正確な街の地図を記憶から引っ張り出して、更にそこに目視での火の周り方を書き込み、火元と火の広がり方を特定しようとしていた。

真夜は自身の持つ魔力の特色である探知を最大限活かし、フロリアーノとクララでは書ききれない抜けを地図に書き込んでいた。


忘れてはならないことがある。別の国の学園とはいえ、フロリアーノは学園史上最高の才女とも呼ばれ、クララは、イヴに認められるほどに頭も、戦闘技も優れている。

そして真夜もまた、二人には及ばないまでも賢く、そして二人には持ちえない能力を持っていた。


だからこそ、この三人だからこそ、アンドラーシュ帝国の誰よりも早く、この火事に隠された意図に気付けたのだ。


「火が……まるで学園に向かって、人を追い込むように狭まっていませんか?」

クララが口に出す。真夜が地図を指でなぞりながら呟く。

「まるで、追い込み漁のような……」


そこで真夜が気付く。

「だとしたら、網を投げたのは?……いや、火を点けたのは、誰?」

その声を聞いて、フロリアーノが地図をなぞる。この火災は同時多発的に、街の複数箇所で起きた。

それらの火元を線で結ぶ。できた線を更に分析し、導線を作っていく。


真夜とクララはフロリアーノのその鬼気迫る様子をじっと見つめていた。

すると、ある一点に線が結びつく。


……それは、フロリアーノにとって懐かしい場所で、そして今となっては忌まわしい場所でもあった。


白金教会。フロリアーノがかつて働いていた場所でもあり、そして、天鳳教の商売敵。


三人はすぐに気が付いた。白金教会に端を発する火災、それらは学園へ人を追い込むように広がっていった。

これが単なる偶然であるはずがない。

そう、これは、白金教会からの宣戦布告に他ならない。


……だとしたら、この程度で終わるのだろうか。

その時、フロリアーノはかつて自分が白金教にいた時に世話させられていた人物を思い出していた。


フロリアーノの教会での職務の一つは、年老いた痴呆気味の老人の世話だった。

常に庭か聖堂でボーッと椅子に座るだけの、覇気もない、生きているのか死んでいるのかすらわからない老人の世話。

毎日、空を眺めて、無気力に笑うだけの老人。


……それがもし、演技だとしたら?

敵を騙すなら味方から。かつての至言を、その老人が忠実に守っていたとしたら?


……その老人はかつて、神聖カシウス国内での英雄だった。

二つの植民地戦争を勝利に導き、三つの種族を隷属させた。

その偉業を、恐れ、そして崇められた彼は、民衆から、こう呼ばれることになった。


『策謀』のハラード。


今、教会の長椅子に座りながら、燃える街を眺めて長閑に笑っているその爺こそ、天鳳教における、初めての敵となる人物だった。


――そして、その爺は、散歩でもするかのような気楽さで、神花達に敵対した。




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