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第29話 地獄の緋緋色


それは、乾いた北風が吹き続ける冬の日の夜のことだった。

「寒いねー」

と愚痴を零した神花に

「極北山脈から北風が振り下ろされますから〜」

とフロリアーノが返した。


「極北、ってことは最北端の山々ってこと?」

と、紅茶を飲みながら真夜が尋ねると、

「これ、ここがアンドラーシュ帝国だから」

とシェイラちゃんが持っていた世界地図を広げる。


そこでたまたま部屋にいたクララちゃんが

「あ、私の実家、この辺りです」

と地図でアンドラーシュ帝国の端辺りを指し示す。


そんな当たり障りのない日常のことだった。

神花はふと、何気なく外を眺めた。


普段であれば、部屋から見られる夜景からは、微かなガス灯の明かりと、家々の窓から漏れ出るランプの光くらいだった。


神花の見た、窓からの夜景は、まるで地獄のような光景だった。

街を覆い尽くすように、炎が燃え盛り、夜空は血のような火の色で照らされていた。


「……うそ……」

そう神花が呟くと同時に、部屋にいた他の全員も、窓の外の異変に気付き始める。


「……クララちゃん〜イヴさんに連絡して〜」

フロリアーノがゆっくりと、しかし切迫した表情で指示を出す。その返事を待つまでもなく、扉の方から声が掛かる。


「もう来たよ。どうやら、あまり無駄話をする時間も無さそうだ。校門の方が騒がしくなってきている」

私達が窓の外から扉の方に視線を向けると、そこにはランミンバーさんとイヴさんが立っていた。


いつもと同じ姿に見えても、急いで用意したのか、微かに服のしわや髪の乱れが見える。

「……校門?」

真夜が尋ねる。

「この部屋からは見えないだろうが、今、校門前で避難してきた民衆と学園長率いる教職員が激突している」

「なんで……!?」

イヴさんの返答に私は困惑の声を返す。


「学園長の判断だろう。あの人は大概の場合、リスクを嫌う。事態の把握も出来ない内に学園を危機に晒す訳にはいかないと考え、学園へ逃げ込もうとした民衆を追い払っているんだろう」

イヴさんが苛立ちを隠せない表情で告げる。皇帝としての心構えを持っているイヴさんからしたら、学園長の判断に思うところもあるのだろう。


……そして、私も。

「その避難民の中には、天鳳教の信者もいるはず。だとしたら、見捨てる訳にはいかないよね」

学園に場を移してからは、基本的に学園内での布教に終始した私達だが、私は最初の集会を忘れてはいない。あの、そこら辺の主婦や老人、一人一人に声を掛け集めた時のことを。


それに、何より。

助けられるのならば、救えるのならば、救いたい。

これは、教祖としての天峰 神花じゃない、ただの私の常識的な信念だ。


「フロリアー……」

「クララちゃん〜あの火、どう思います?」

フロリアーノに呼び掛けようとするが、その前に言葉を被せられる。

フロリアーノは気付いた時にはまた窓の外に視線を向けて、今度はクララちゃんを呼び寄せていた。

「真夜ちゃんも〜うん、そうだよね〜。地図を持ってきて、クララちゃん」

三人は意志を通じ合ったかのように息を合わせて動いている。私とシェイラちゃんは蚊帳の外だ。


それに気付いた真夜が説明する。

「炎の広がり方が自然発火したとはとても思えない。何か、作為的なものを感じる」

それを聞きイヴさんも窓の外を見る。

「……確かにそうだな。私の部屋からは街が殆ど見えない。故に見落としていたようだ」


私が話に着いていくので精一杯の時。

「……神花ちゃん〜」

「フロリアーノ?」


「私と真夜ちゃんとクララちゃんでこの火事の原因を突き止めますから〜神花ちゃんは下に行って、皆を救ってあげてください〜」

「……いいの?」

「ええ、それは神花ちゃんにしか出来ないことなので〜あぁ、そう。シェイラちゃんを連れて行ってあげて〜神花ちゃんをよろしくね、シェイラちゃん」


フロリアーノは最後にシェイラちゃんに指示を出すと、クララちゃんが持ってきた地図を広げ、三人で忙しなく動き始めた。


「良かった。君の協力を取り付けられて。君と、その信者達がいれば、私の分も合わせて、充分に学園長達に対峙できる戦力になるだろう」

廊下を早歩きしながらイヴさんが話しかけてくる。ランミンバーさんはシェイラちゃんと一緒に各寮を回って人を集めてくれているようだ。


「おおよそ天鳳教の信者は150人前後……私の部下たちを合わせれば300人前後の集団になるだろうな」

その言葉を聞き、少し緊張する。

「これから行うのはある種のクーデターだ。……まぁただ、私もいるし、何より正義はこちらにある。気負わず行こうか」

イヴさんがニヤリと笑う。その笑みがこれまでに見た事の無いようなものだった。


「退屈な授業中にこういう妄想を偶にしていたものでね。柄にもなくテンションが上がっているのさ」

イヴさんは寮の外に出て、少し冗談臭そうに言う。

それは私に向けたものではなく、私達の周囲に集まった、生徒達に向けてだった。


イヴさんが、次は君が一言、と言うように目配せをしてきた。私はそれに応えて

「……迷える人を、苦しむ人を、悲しむ人を。助け合いましょう。平和と、安寧のために」

と、教祖モードで答える。

隣のイヴさんが少し面白そうに微笑むと、周囲の生徒達が歓声を上げる。


「いい言葉だ。……さぁ、行こうか」

膨れ上がった集団を連れて、私達は校門へ向かう。


「……ダメだ!どうしても入りたいと言うならば帝立審査会にでも行って災害避難指示書を貰ってこい!」

「その審査会が燃えてるんだよ!アンタら、私らを殺す気かい!?」

「子供が、子供が酷い火傷をしているんです!!!」


「……くっ、圧が……」

赤い髪の女性が少し悔しそうに一歩後ずさり、今なお校門の扉を押さえ付けている巨漢達に命令を下す。

「そこを開けるな!扉をロックしろ!」


その女性が何かを感じて振り向く。感じたのは単に人の気配か、それとも、危機か。

「夜分遅くに失礼する。ライア学園長」

集団の先頭を歩くイヴが鷹揚に挨拶する。

赤い髪の女性、ライア学園長は、それだけでその集団の意図を感じ取ったのだろう。苦々しげにこちらを睨みつけてきた。



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