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第28話 ただ、穏やかな日だけがあった。

初冬、段々と寒くなっていく季節に、私達、天鳳教幹部はイヴさんに招待された(因みに天鳳教幹部っていうのは、私が勝手に呼んでるだけの集まり、フロリアーノ、真夜、クララちゃん、シェイラちゃん、私で五人、これから増えることはあるんだろうか……?)


呼ばれてテクテク歩いて飛び込んで、招待に預かると、イヴさんのリビング(綺麗な暖炉とか大きなソファーが置いてある部屋)は簡易的なパーティー会場のようになっていた。


「あれ?今日は何かのお祝い?」

なんて私が尋ねると、イヴさんが答えてくれた。

「これは白金教の風習の一つでね、毎年この位に豪勢なパーティーを開いて、それぞれのプレゼントを送り合うのさ」


なんか、クリスマスみたいだな。なんて思っていると、隣の真夜が「まるでクリスマスね」と呟いた。

その真夜の呟きにフロリアーノさんの知的好奇心が刺激されたのか「クリスマスってなに〜?」と尋ねてきた。

イヴさんの前で日本の話をするのは抵抗があるし、それ以前にせっかくパーティーに呼ばれたのに自分達だけしか分からない話をするのは礼儀に問題がある。

フロリアーノのその質問に「後でね」と答え、イヴさんに向き直る。


「私達は白金教信者ではありませんが、参加しても良いのですか?」

「むしろ、だからこそさ。白金教と真っ向から対立する気だとしても、今はまだ時期尚早だろう。これはカモフラージュの一貫だよ。私だって、天鳳教への礼儀を欠いた訳では無い」


その返事に合点が行く。確かに、依然としてこの国は白金教徒の方が多い、下手に目立たないためにも、形だけのパーティーを行っておくべきだろう。


と私が考えていると、クララちゃんがフロリアーノに耳打ちし、それを聞いたフロリアーノが私に耳打ちする。

というか、完全にそこは上下関係があるんだね、クララちゃん……偶に真夜にもこき使われているし、完全にパシリにされてる……かわいそ……


「天鳳教徒にも〜形だけのパーティーを行うように、ってクララちゃんが言ってたよ〜」

そのフロリアーノの言葉に安堵する。もし、教徒がこの祭りを避け、真摯に祈ってるのに私達だけがパーティーしてるなんて言われたら、なけなしの信心が失われてしまうかもしれない。

ついでに、それを一人でサラッと水面下で進めていたっぽいクララちゃんの株も上がる。クララちゃん、やっぱりできる子なんだよね……!


「でも、そんな祝い事があるなんて、知らなかったな」

「あなた、この時期に祝い事があるってことすら知らなかったんじゃないの?」

「失礼な!あっちでも毎年12月頭くらいにパーティーしてましたー!」

「12月頭……?まぁ、いいけど……?」


そうやって適当な話をしている私と真夜の元に、ランミンバーさんがシャンパンの入ったグラスを差し出してくれた。

気づけば他のメンバーもそれぞれの場所で寛いでいた。

と、そこでイヴさんがグラスを掲げ、パーティーを宣言する。

「さて、建前だが、鎮魂と冬への備えを捧げよう。乾杯!」

各々が好きにグラスを揺らし、パーティーが始まった。


「思うに〜この祝い事っていうのは〜時代と共に変化していったんじゃないかな〜。それこそ神聖カシウスもアンドラーシュも、冬への備えなんてそこまでいらないでしょ〜もっと北部で産み出された文化だと思うんだよね〜」

「それは早計じゃないか?北部にルーツがあるからといって、発祥が北部という訳ではないだろう。むしろ、こちらに存在する祝い事が北部との交流で変化していった……のほうがしっくり来るね」

フロリアーノとイヴさんが少し高めの椅子(カフェとかバーにあるカウンターチェアってやつ)に座って論争を繰り広げている。

フロリアーノのあの早口長台詞論説に対抗できるなんて……イヴさんは底知れないと思ってたけど、益々その感覚が強まっていく……。


「あ、ありがとうございます!それで、これってどうやって作っているのですか?」

「これはですね……この葉をこう処理しまして、この野菜と肉を合わせて盛り付けると……」

キッチン付近ではクララちゃんがランミンバーさんに質問している。

「それで、侍従としての心構えって……」

「主の望むように振る舞うことですね。自分でこうあるべき、と固定してしまえば、主の望むようにはなれませんから」

「わぁ……参考になります!」


色々話してるなぁ……侍従としての心構えとか。

「私達は難しい話分かんないよねぇ、シェイラちゃん」

私は膝の上に乗せた(抱き抱えて膝に乗せるとき、シェイラちゃんは物凄く屈辱的な顔をした)シェイラちゃんに話しかけるも

「貴女と一緒にしないでちょうだい」

と一刀両断された。くやしいのでシェイラちゃんの頭をなでる。


「何を……!?本当に最悪だわ!全く!」

シェイラちゃんは怒ってどこかに行ってしまった。かなしい。

あ、目の前に真夜がいる。かわいい。


「真夜ぉ〜〜〜」

「うわ酒臭い……自分のペースも分からないのに飲んで……」

真夜の顔を両手で掴んで自分の顔を近付ける。

唇と唇が触れ合うくらいの距離になった時、真夜に両方の頬を同時に叩かれた。いたい。


「全く……一回寝なさい」

「うぅ〜〜〜」

なんて言いながらも、私は眠気に勝てないのだ……ぐぅ





……目が覚めると、夜も更けて、あんなに騒がしかったパーティーはすっかり静かになっていた。

私はいつの間にか掛けられていた毛布を取って、周囲を見渡した。すると、窓の近くの椅子に身を寄せ合って座っている二人の姿が目に入った。

今にもキスしそうな程に頬を近付け、互いの体温が完全に一致する程に密着している、イヴさんとランミンバーさんだった。


私が少し気まずくなって狸寝入りを続けようとすると、既に私が起きていたことは気付かれていたようで、イヴさんが振り返って、私を軽く手招きした。

その手招きのままに窓際まで歩いていくと、イヴさんが窓の外を指した。


「あ、雪……」

新雪だろうか、小さな粉雪が、サラサラと舞っていた。

「この時期は夜更けに稀に降ることがある。良いものだよ」

そうやって立ったまま、雪を眺めていると、後ろから肩に毛布を掛けられた。

「あ、フロリアーノ……」

「風邪、引いちゃいますよ〜あ、雪〜」


ふと気になって周囲の床を見ると、真夜がクララちゃんのお腹を枕に、シェイラちゃんと横並びになって寝ていた。

「見て、フロリアーノ。クララちゃんが苦しそう」

「ふふ〜ホントですね〜真夜ちゃんも、シェイラちゃんも、可愛らしい寝顔で〜」


私は、ふと思い立ったようにフロリアーノの腰に手を回し、身体を寄せる。

「こっちの方が寒くないでしょ?」

そう言って、肩に掛かった毛布をフロリアーノにも掛ける。


自分でも、なんでそうしたのかなんて分からない。ただ、イヴさんとランミンバーさん、仲の良い二人を見て、真似したくなっただけかもしれない。

だけど、それでも良かった。フロリアーノの少し温い程度の体温が、伝わってくる。


窓の外の雪が止む気配はなく、ただ、さらさらと降り注いでいた。

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