第27話 それを世界はいずれ愛と呼ぶだろう
私と、イヴさんとランミンバーさん、私達は三人でイヴさんの部屋へ向かっている。
イヴさんの悩み、秘密……それを、教えて貰えるとのことで。
とはいっても、な〜んとなくは、察しがついているんだけどね。
ともかく、私達は会話も殆どなく三人、速足で歩いて、イヴさんの部屋に着いた。
そういえば、イヴさんの部屋って何部屋かに分かれてるんだったよね……
前は応接間?に通されたけども、今回はどうだろう。
なんて考えていると、その通り、前に通された部屋とは別の部屋へと招かれた。
リビング?らしきその部屋は、くつろげる長いソファーや、本棚、暖炉が一つにまとまった部屋だった。
「どうぞ、好きな所に座るといい」
そう言いながらイヴさんは部屋で一番大きなソファーの真ん中を陣取る。その横にスっとランミンバーさんが座る。
私は二人の顔が見れる位置に椅子を回転させ、座った。
「仲良いですよね、二人とも」
すぐ真隣に座っているイヴさんとランミンバーさんを見て、なんとなくその感想が出た。
……とはいえ、そうだ。ランミンバーさんは自分のことを侍従だと言っていたが、とてもそんな距離感には見えない。
そう、それこそ、親友のような……
「まぁ、ずっと一緒だからね」
そう言ってイヴさんはランミンバーさんの肩に手を回す。
ランミンバーさんもそれを受け入れつつ、少し照れたように笑う。
「とはいえ、あまり人の目が多い所でやらないで欲しいのですが……」
「そうだな、君の指摘通り、こういうことは信頼した相手の前でしかやらないようにしているよ」
イヴさんはそう言うと、こちらを見てウィンクをしてきた。
「まぁ、ただの信頼と言う訳ではないけれどね。少なくとも、白金教の教徒でないことには価値を見出しているよ」
イヴさんのその言葉を聞き、私は目を見開く。
「公に白金教を批判するなんて思わなかったな。貴族たちの統制に丁度いいって言ってなかった?」
「確かに以前、そういった事を語った記憶はある。しかし、それは王女として、国家を背負った発言だよ」
その言葉に、私はさらに驚く。
「更に驚いたなー。イヴさんの口から、王女であることを倦むような発言が出てくるなんて」
彼女は意味ありげに微笑んで、答える。
「私は王女であることと同時に、人を愛し、愛される、ただの一人の少女だからね」
愛、というワードがこの人の口から出てくると思わず、私の思考が一瞬固まる。
「さて、ということで。ビジネスパートナーとして立候補した君たちに一つ、問いたい」
「君たちは、私の恋路の助けになってくれるかな?」
イヴさんは、片手にランミンバーさんを抱いたまま、こちらを真っ直ぐに見据えて、その両目で、私に問いただした。
私は、少し考えるように目をつぶった。
「あぁ……白金教は、同性愛を禁じているから?」
イヴさんは答えなかったが、否定もしなかった。
「だから私に尋ねたんですね。単に教義として尋ねれば、自分の弱点を晒すことになると思ったから、あのように回りくどい質問で」
「……それは申し訳なかったね。だが、それだけでないのも事実さ。我がアンドラーシュ帝国と神聖カシウス国の争いは激化している。宗教的な優位は、首都を総本山とする向こうに備わっている。これは、我が国にとっても大きな痛手だ」
私は、単刀直入に切り出す
「それは、嘘ですよね?」
「……なに?」
「戦争は理由じゃない。イヴさん、貴女の本当の願いは、一つだけなんでしょう?」
「……何を、根拠に?」
「見ていれば」
私のその端的な答えが、彼女を沈黙させた。今の彼女の瞳には、迷いと恐れが現れている。
彼女は二の句を継げなかった。その行動は、私の推測を肯定していた。
「……自由、平和、愛。私達は、受け入れますよ。それら全てを」
私は、席から立ち上がってイヴさんに歩み寄る。
「迷うことなく……貴女の生き方を肯定する手段は、ここにありますから」
私は彼女に手を差し出す。
彼女は何も言わず、ただ……その手を受け入れた。
「それでは、本日はお暇しますね。また」
私はそう語って、未だソファーから動けないままのイヴさんとランミンバーさんを置いて、部屋から退出する。
と、部屋の前には予想外の人物がいた。
「クララちゃん、どうしたの?」
「フロリアーノ様に、神花様をお守りするよう伝えられまして……何かあったら、その、部屋に入ろうかな、と」
見れば、彼女の手の色は真っ青だ。私のために、苦手と言っていたイヴさんに、立ち向かおうと決意を固めていたのだろう。
私は、彼女に軽くハグをする。そのまま、耳元で囁く。
「ありがとうね。……ところで、部屋の中の会話は、聞こえた?」
少し青みがかっていた頬色が一瞬で茹でダコのように真っ赤に染まったまま、クララちゃんは慌てて答える。
「い、いえ!大丈夫でした!わ、わぁ……」
そうやって真っ赤な顔で茫然自失とするクララちゃんの手を引いて、私は自室へと歩く。
……それなら良かった。イヴさんだって、秘密は、余り知られたくないだろうから。
「……私は、良い選択をしたと思うかい、ラン」
神花が退出し、クララを連れて帰ってから、少し時間を置いて、イヴがゆっくりと話し始めた。
「私には、とても、判断できるようなものでは……」
ランミンバーは少し遠慮がちに告げる。
「ただ……」
ランミンバーは頬を赤くしながらも、言葉を続ける。
「ただ、貴女が何よりも私を選んでくれたことが、とても嬉しいです」
次に、その言葉を聞いたイヴの頬も赤く染まる。
「当たり前、だろう……」
そう言いながらイヴはランミンバーに顔を近付ける。
二人の距離は段々と縮まっていき、そして0になる。
溶け落ちそうな気持ちの中で、イヴはただ願った。
こんな日々が、これからも続けば良いと。
その願いが、いずれ血に塗れることを、今は二人のどちらも、知らなかった。




