第25話 Love……♡デート……?
翌日、私は二人より少し早めに出て、待ち合わせ場所で立っていた。
いや、本当は二人と一緒に出ようとしたんだけど、シェイラちゃんに「あなたが二人をもてなしたいのなら、先に向かって待っておくのが礼儀なんじゃないの?」って言われたから……
ともかく、今日は、街で一番!流行りのコーデを買って着てきたんだから(フロリアーノの稼いだお金で……)
頭の先からつま先まで完璧に……いや、髪もこっち来てからは切れてないし、靴はこっちに来る時のスニーカーのままなんだけど……
まぁでも、私にしてはよく出来た方だよ!高校時代は友達と外出するなんてこともなく、最後に遊んだ友達が中学生の真夜まで、なんて私にしては、上出来……!
そうやって私が一人自分を奮い立たせていた時
「あ〜!神花ちゃん〜待っててくれてる〜ありがとね〜」
「…………」
フロリアーノが笑顔で、真夜は仏頂面で片手を軽く上げて、こちらに歩いてくる。
「ごめんね〜待たせちゃって〜」
「いやいや!全然!それより、フロリアーノ、ふ、服可愛い、ね」
つっかえながらも褒め言葉を口に出す。会ったらまず最初に言おうと思っていた言葉を。
実際、今日のフロリアーノは可愛い。髪も巻いてきたのか、普段より30%くらいカールしている。
「神花、スカートなんて珍しいね」
それまで黙っていた真夜が喋る。
「あ、うん。余り好きじゃないんだけど……今日くらいは、ね!」
「似合ってるよ、可愛いじゃんか」
真夜とのやり取りで私が照れる。あれ?今日は私がエスコートするつもりだったのに……!
「二人とも〜お店行こうよ〜。私、新しい服が欲しいな〜」
「あ!うん!行こ行こ!」
そう行って私は二人の手を掴んで歩き出す。
二人の掌が、私の掌を強く握り返してくれて、無性に嬉しかった。
「え〜可愛い〜この服、神花ちゃんに似合うんじゃない〜?」
「えー、そんな可愛らしいの、似合うかなぁ……フロリアーノの方がいいんじゃない?」
「一度合わせるだけ合わせてみたら?自分ではそう思わないだけで、似合うんじゃない?」
「う〜ん、やっぱりダメじゃない?これ」
「……そうね、そうかもしれないわね」
「え〜!似合うよ〜!可愛いよ〜!」
「フロリアーノのことは忘れて、こんなのはどう?」
「おー、私こういう系統の服が好きだなぁー」
「……あ〜!今真夜ちゃん、フロリアーノって言った〜!前はさん付けだったのに〜」
「べ、別にいいでしょ!神花だってフロリアーノって呼んでいるんだし!」
「うんうん〜いいよ〜!嬉しいな〜真夜ちゃんと仲良くなれた気がして〜」
ニコニコしているフロリアーノと、少し恥ずかしそうに頭を搔く真夜。
そんな、二人を見て、私は。
「……私も、二人が仲良くなってくれて、嬉しい。二人は、私の大切な人だから」
口を突くように飛び出した言葉の意味に気付き、はっと口を押さえるが、二人はニヤニヤしたままこちらを向いてくる。
「よしよし〜ありがとうね〜神花ちゃん〜神花ちゃんも、私の大事な人だよ〜!」
「あなたが、そんな事をはっきり口に出すなんてね。嬉しいよ、神花」
二人に両側から挟まれて頭に背中に、色々なところを撫でられる。
「ふ、二人とも、辞めてー!!」
なんて言いながら顔を真っ赤にして、私は店から飛び出す。
後ろから「あらあら〜」「ふふふ」といった二人の声が聞こえるが、恥を知った私はとりあえず店の外で顔の火照りを冷ます。
(はぁー、全く、二人とも……でも、楽しんでくれてて良かったな)
なんて考えながら、店の外の日陰で、顔を扇いでいた時、知らない男の人が私に近付いてきた。
何だろう、と思ったのも束の間、その男性は速足で距離を詰めてくると
「ねぇ、ちょっと道を聞きたいんだけど」
と、言いながら、私を壁際に追い詰めてくる。
「なぁ!ねぇってば!」
そうやって私を追い詰めるその男の人の、右腕側の袖が、だらんと垂れている事だけが、やけに記憶に残っている。
服屋の中で、フロリアーノが真っ白な服を手に取ってサイズを測っている。真夜は、ふと気になって出入口の方を見ながら呟いた。
「……神花、遅くない?」
「そうだね〜真夜ちゃんが虐めるから〜」
「ただのスキンシップでしょ……」
なんてやり取りをしながらも、フロリアーノは手に持っていた服を置き、真夜も同様に手に持っていた商品を置く。
「……神花?」
二人が店を出て、辺りを窺うが、彼女の姿は見えず。この時点で、既に二人は緊急事態と認識した。
「――真夜ちゃん!」
フロリアーノが真夜に呼び掛ける時には、真夜は既に行動に移していた。
彼女の魔力に備わるそれは、探知。
「――向こうの角!」
二人は走り出す。
角を曲がって暗い路地裏に入ると、神花が男に密着される形で壁に押し付けられていた。
「神花っ!」
真夜の鋭い声に、驚いた男が動きを止めると、その一瞬でフロリアーノが飛びかかるように男を引き剥がし、殴りつける。
真夜は、その場でへたりこむ神花の元に駆けつけると、自身の上着を掛け、その両肩を優しく掴む。
神花の顔は青ざめており、その瞳の焦点は合わず、ゆらゆらと地面をさまよっている。
一瞬体を見て、服の乱れなどはほとんど無く、致命的なことにはなっていないと確信できたが、だからと言って安心はできなかった。
その時、フロリアーノが寄ってくる。見れば片手は返り血か赤く染まっており、もう片手には何かの紙切れを持っていた。
「多分、戦争帰りだね〜、変な薬を使ってたり〜それと目も、余り見えてなさそうだったよ」
そう言ってフロリアーノは片手に握っていた紙切れを見せてきた。そこには何かの地名と、そこに向かうまでの道筋が書いてあった。
「……じゃあ、薬で錯乱していた、目の不自由な人が、道を聞こうとして、こうなった、ってこと?」
「それは好意的な解釈だよ〜だって、それだけなら壁に追い詰める必要はないだろうし〜」
「あぁ、そうね……その男は?」
「片手と両足を縛って向こうに置いてあるよ〜後で、兵士か誰かに捕まえてもらえばいいんじゃないかな〜」
フロリアーノが神花の背中をそっと撫でる。私も、遅れて神花の背中をさする。
「帰りましょう。私達の部屋に……」
神花は青ざめたまま、頷いた。
その瞳に映る恐怖は、男でも、勿論私達でもなく、どこか、遠い過去を恐れているようだった。




