第22話 さくせんじっこうちゅう!
「さて、君達がここに来た理由を察するに、それは校内で最近流行っている宗教かな?」
フロリアーノがソファーに座ったまま頷く。本格的な会話に入る前に、部屋の隅にあるソファーに案内されたのだが、対面に座るイヴさんはしなやかな足を大きく組み、まるで王のような風格を見せている。
「なるほど、私の勘も捨てたものじゃないな。では続けて……私に協力を持ちかけたいのだね?そして、それは国内において反白金教勢力が台頭してきていることを理由にしようとしている」
フロリアーノの顔色が悪くなった。私も、背中にじっとりと汗をかき始めている。
「だが如何せん、白金教に対しては皇族はノータッチでね。何せ、貴族の多くは白金教信者だ。民衆がどれだけ反感を持とうと、それは大した理由にはならないさ」
私のスタンスははっきりしている。君たちはどうするんだね、と言わんばかりの姿勢。
先陣を切ったのはフロリアーノだった。
「天鳳教は〜優れた教義があります〜。民衆を団結させ、導くのに最適な教義〜自由と平和を説くことが〜。貴族といえど、人であることに変わりはないでしょう〜?」
「自由も平和も見せかけだ。檻の中に閉じ込められた小動物が、より広い檻に移された時に感じる開放感が自由と平和の正体さ。そんなもので人を導けるとでも?」
イヴからは的確な反論が飛び出してくる。一瞬フロリアーノさんは怯むが、負けじと言葉を続ける。
「でも〜矛盾した教えを晒し続ける白金教よりは良いのでは〜?」
「白金教に成り代わろうと?確かに、今現在戦争している相手を賛美するような宗教には欠点もある。しかし、その宗教こそが現在のアンドラーシュ帝国の礎を築いた。伝統という名の旧態依然としたコミニュティには未だに白金教は欠かせない。そう、今現在お前たちが教えを広めている相手の親、古き良き貴族こそが正にそうだろうな」
一を聞いて十を知る、なんて言葉があるが、この人にはそれが最も的確だろう。と、私は傍から聞いて感じていた。
クララちゃんが苦手というのも分かる気がする。隙がないとか以前に、会話が成立しない。
向こうが一人で語り、それでいてこちらの話したいことは全て通じてしまっている。だからこそ、彼女の考えを変えられない。
フロリアーノすらイヴさんの流麗な返答を前に、口をつぐんでしまった。はっきり圧倒されている。
「あ、あの〜」
そんな場で、私が恐る恐る手を挙げる。いや、実際、騙っているとはいえ、立場的には私が最もイヴさんに近い、王族なのだ。
彼女も私が手を挙げたのを遮ることもなく、ただ見ている。
「その、ちょっと分からないんですが……」
あぁ、もう既に王族のメッキが剥がれてきている気がする。中高とボッチだった私が蘇ってきている気がする。
本物の王族を前にすると自然と頭を垂れてしまいそうになる。
そんな弱気な気持ちを吹き飛ばし、姿勢を正す。
今の私は、日本にいた時の私じゃない。
天鳳教教祖、天峰 神花なのだ。
「そこまで分かっているならば、イヴさんは何故、私達とこうやって話しているのですか?」
イヴさんの目が細められる。まるで難問に出会った時のような、この問題をどう解くか考えている時のような表情だ。
いや、彼女に『解く』という言い方は似合わない。『答える』の方が近いだろう。
どう自分の思惑を告げるか……あるいは告げないか。それを思案しているような顔だった。
「何か、期待していらっしゃるのではないですか?だから、ここに私達を通してくださった。違いますか?」
イヴさんは無言で、目を細めて、私を舐め回すように観察していた。
そして少し経ってから、ほんの少し口の端を緩ませて
「あぁ、なるほど……これは、素晴らしいね。内心を見透かされたかのようだ」
そして彼女は無言で片手を挙げると
「すまなかったよ。ただ、私は自身の悩みを話すつもりはないんだ。それは弱みになりうるからね。だから、ただ値を踏むだけだ。天鳳教という集団が、この国に、そして私に何をもたらすかを、ね」
そこで話が途切れたからだろうか、ハッと我を取り戻すようにフロリアーノが蘇ると、会話に割り込んできた。
「それでは〜案内したい場所がございます〜後日、いかがでしょうか〜?」
フロリアーノが話に割り込んできたのはたまたまでも失敗でもない。これは、計画された会話の通りなのだ。
勿論、イレギュラーはあった。しかし、ここでフロリアーノが話を戻したことで、ようやく、この会話のペースを私達が握ることができた。
「ふむ……後日、なんて時間を浪費することは止めておきたいね。今すぐ行けるというならば、今行こう。どうだね?」
来た。やはり、この返答は予想通りだった。
この計画を立てた時、恐る恐るといった表情でクララちゃんが一言、呟いたのだ。
「あの方なら、たぶん、今すぐ行くって言い出すんじゃないかな、と思います」
つまり、この返答も含めて、全ては予想通り、万事つつがなく進んでいる。




