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第20話 ふふ〜明日の風は、明日吹くんだよ〜

「鶯さん〜少し出掛けませんか〜?」

フロリアーノがそう提案する。言葉こそ提案の口調ではあるものの、その瞳は、有無を言わせぬ……つまり、面貸せやこらぁ、と言わんばかりの激情を秘めていた。


私、鶯真夜は、その瞳を見て、断れないと悟り、フロリアーノの誘いに頷いた。

「良かったです。では、参りましょうか〜神花ちゃん、真夜さんのこと、少し借りるね〜」

神花はいってらっしゃーい、と呑気に声を上げる。


部屋から出て少し歩いた頃、私はフロリアーノに尋ねる。

「……それで、どこまで歩くの?」

「そんなに遠くはありませんよ〜でも、少し人通りは少ないですね〜」

私はすっとフロリアーノの斜め後ろに移動する。彼女を警戒しての動きだ。襲われた時も斜め後ろが一番逃げやすい(らしい)

「そんなに警戒する必要はありませんよ〜何もする気はないですから〜」

あぁ、そうなの!と安心するだけの迂闊さは真夜にはなかった。むしろより警戒を強め、その鋭い目つきが更に研ぎ澄まされる。

フロリアーノは軽く肩をすくめ、先導するように歩く。


実際、彼女『も』また、神花に心を奪われた一人なんだろう。彼女は少し、魅力的すぎる。

先日本人から、周囲を魅了する色香のような魔力が漏れ出ていると聞いたが、それを差し引いても、すらりとしたスタイル、中性的な綺麗な顔立ち、それでいてあの隙のある性格だ。周囲を惹き付けて止まないだろう。

フロリアーノも、私も、そんな彼女に引き寄せられた夏の夜の虫だ。


「……ここですよ〜ここについて、あなたの意見を伺いたくて〜」

フロリアーノに案内されたのは、煤けた地下室だった。

恐らく何年も使われていないのだろう、扉を開けると酷い埃が舞った。

「酷い汚れね」

「そうですか〜?これでも、2日ほど換気しておいたのですが〜」

どうやら以前彼女が訪れた時はもっと酷かったらしい。

いるだけで何らかのアレルギーにかかりそうな部屋だ。


「意見を伺う、って何?ここについて言えるとしたら、掃除をした方がいいってことくらいだけど」

フロリアーノは呆れたように視線を切って、部屋を見渡すと

「ここを、私達天鳳教の集会所にしようと思いまして」

と言いながら、壁をなぞった。フロリアーノがなぞった指の跡の埃が落ちて、一本、真っ直ぐな線が引かれた。


フロリアーノはそのまま指を動かしながら語る。

「実際〜今は廊下や教室、図書館で偶然を装って勧誘したり〜寄付を頂いているのですが、そろそろ規模に限界が〜」

「それに、人をひとところに集めて儀式の真似事でもすれば、団結力も高まるでしょうね。悪辣な宗教家の手口よ」

「あら〜そこまでは考えてませんでした〜賢いですね〜」


ちっ、いけしゃあしゃあと……まぁ、それは置いておきましょう。ともかく、フロリアーノの言い分では、この部屋を丸ごと集会所に変えよう、と。


「……まぁ、人目につかない場所で、更にはこの埃……長く放置されてたんでしょうし、秘密の集会所、には丁度いい場所でしょうね」

そこで私は一度会話を止め、埃塗れの壁にもたれかかる。服が汚れるが、まぁ構わないだろう。洗濯すれば落ちる範囲だ。


「それで?まさかそれだけが理由な訳ないわよね?」

フロリアーノはただ微笑んだ。それが雄弁な答えだった。

「神花ちゃんは別の世界から来たとか〜あなたも、そうですよね〜?」

ちっ、あの馬鹿……余計なことまで……トラブルの元になるでしょうが……まぁ、それだけ神花はフロリアーノのことを信頼しているんだろうけど。

「それで、何か問題でも?」


「神花ちゃんは〜人々を魅了する力を持っているそうです〜。それも〜こちらの世界に来た時に身につけたとか〜」

私は思わず、フロリアーノの口から視線を逸らして、天井を見てしまった。

これでは……

「あなたも〜何か持っているんじゃないですか〜?」

……隠し事をしている事が悟られてしまう。


「……それで?もし私が無いって答えたら解放してくれる訳?」

「そんな人が〜神花ちゃんの隣にいるのは〜格が、釣り合っていないんじゃないかな〜って〜」

「……ちっ」

私は敢えて聞こえるように舌打ちをした。フロリアーノはそれにも動じず、私を見つめてきた。

「逃げても無駄ですよ〜外で私の熱心な協力者達が扉を抑えています〜」


……ふぅ。

この追求を無傷で切り抜けることは難しそうだ。向こうは準備と場を整えてきている。対してこちらは裸一貫。何も持ってはいない。

……しょうがない、切り札を切るか。


「……その言葉、嘘でしょ?」

「嘘ではありませんよ〜実際、その扉を押してみてください。動きませんよ〜」

「建付けでも悪いんでしょうね、何せ古いし」

フロリアーノが目を細め、こちらを睨むように見てきた。

「探知系の何か、ですか〜?」

私は肩をすくめる。

「詳しいことは知らないけれど。何となく程々に広い範囲で周囲がどうなっているか、分かるくらいよ。この部屋の周り、勿論その扉の前にも人はいない、でしょう?」


「……随分と、後ろ暗い事をするのに向いていそうな魔力ですね〜」

「言うじゃない」

「そっちが〜素直に答えなかったので〜」

その返答に私がフロリアーノを軽く睨むと、彼女はそれを意にも介さず、

「これで、半分の目的は終わりました〜」

「何?まだ何かあるの?」

うっとおしそうな顔をする私を前に、フロリアーノは悪びれもせず


「これは本来みんなで話すべきことかもしれませんが〜この際ですし、先に言っておこうかな〜と」

私がフロリアーノを見つめる。彼女は一呼吸置いてから話し出した。

「大物を、信徒にしようと思いまして〜一大事業、ですね〜」

私はこの学園については詳しくないけれど、先生側で最も権力を持っている人なら学園長のライアであることくらいは把握している。


……そして、生徒側で、最も権力を持っているのは……

「アンドラーシュ帝国、第三王女。アンドラーシュ・イヴ。彼女を堕とせば〜この帝国を宗教で支配することも〜現実的な話になってくるでしょ〜?」


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