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第15話 豪雨の中で。

私は、真夜ちゃんのことを考えて、それでも全く、彼女が怒った理由を思い付けず、茫然自失としたまま、自室へ帰った。

そんな私を見て、フロリアーノは狼狽え、シェイラちゃんも心配する様子を見せていたが(珍しく!)私は二人の心配に気付くこともなかった。

そうこうする間に翌朝が来て、私はまた、昨日と同じ店で、昨日と同じ席に座っていた。

ただ、今の対面は真夜ちゃんではない。シェイラちゃんだ。

「フロリアーノさんに頼まれて、話を聞きに来たわよ。……まぁ、私も心配だし。

……それで、昨日、外で何があったの?」


シェイラちゃんが話しかけてくる。私は答える元気もなく、ただ俯いているばかりだった。

そこに、ウェイターさんがやって来て、昨日と同じお茶を、昨日と同じ場所に置いた。


対面を見ると、ウェイターさんにお礼を言い、お金を払っているシェイラちゃんがいた。

そこで、私は、唐突に涙が出てきた。

「うっ、うぇ、う、」

嗚咽のような声が、合わせて一緒に漏れる。

ずっと、静かに泣く私を、シェイラちゃんは見詰めていた。




私の涙がようやく治まると、シェイラちゃんはハンカチを渡しながら

「少しは気分がマシになった?」

なんて気遣ってくれた。

その優しさにか、それとも黙っているのも限界だったのか、ともかく。

「うっ、私、私、昨日ね……」

昨日、私の身に起きたことを全て、洗いざらいシェイラちゃんにぶちまけた。

「ひっく、うっ、うぇぇん……」

話している最中、また涙が流れてきた。

人にあんなに酷いことを言われたのも、それが親友だったことも含めて、私の心は深く傷ついたようだった。


「まぁ、宗教のことを言って、それが怒りに結びついたのなら、それが原因なんじゃないかしら」

シェイラちゃんは冷静に私の話を聞き、時系列順に並び替え、分析する。

「でっ、でも、真夜ちゃんにそういう、何か、過去があるって聞いた事ないし」

そう、真夜ちゃんは宗教とは何の関係もない、至って普通の家の生まれのはずだ。ご両親も優しかったし、宗教にハマりそうな感じには見えない(その点、私の両親は見るからに怪しかった。父は眉毛まで含めて全部剃って坊主にしていたし、母は長すぎる前髪が顔を半分隠していたし)


だから、別に真夜ちゃんが宗教に怒る理由なんて無いはずだ。多分だけど。

「まぁ、それに……貴女達のやっていることって、かなり人の道から外れているし」

「………………えっ!?」

初耳だよ!シェイラちゃん!?そんな風に思っていたの!?

「フロリアーノさんは少なくともそう思っているでしょうね。全ての神に仇なす行為よ。死後もまともな所に行けるかしらね」

だ、だからシェイラちゃんは今まで宗教関係のことになると口を閉ざしてたの……!?そ、それより!?

「そ、そんな、そんな悪いことじゃないでしょ!?」

そう私が言うと、シェイラちゃんは頭に当てて

「……あなた、大概おかしな感覚しているわね……」

と零した。


その後、シェイラちゃんから

「とにかく、きっとその真夜さんが怒った理由は、あなたのズレた感覚にあると思うわ。話せるなら本人と話して、無理なら自分を見つめ直してみなさい」

なんて言われたので、私はまた一人、空を眺めています。

あぁー……私が悪かったのかなぁ……昔から、周囲と善悪とかの感覚合わなかったもんなぁ……

まぁ、生まれてから高校卒業までまともな友達が真夜ちゃんくらいしかいなかったものなぁ……

まともじゃない友達ならいたけどね!みんな今頃立派?に布教して、立派?にお金を納めているはず!


はぁ……生まれてからこの方、宗教と絡まなかった時間がほとんど無い女……唯一学校の図書館でラノベを読んでいる時だけは宗教から逃れられたけどさ……

なんて、私が自己嫌悪に陥っていると、隣に恰幅のある女性が座ってきた。

「何か悩み事でもあるのかしら?」

他人に細かく説明する気にはなれなかった私は、まぁ、軽くあしらっていた。

「まぁ、ないことはないですけど、気にしないでください」

「あら?お姉さんが話を聞きましょうか?」(ちなみにこの女性はとてもお姉さんという年齢には見えなかった、有り体に言っておばさんだった)

「いえ……すいません、大丈夫です」

言ってから異世界で大丈夫、というスラングめいている言葉が通じるかと思ったが、それならと隣の女性は席を立った。


何だったんだろう、なんて私が考えていると。

「ちょっと、そこのおばさん。逃げられると思ってるの?」

刺すような声が聞こえた。昨日、その声の主に言葉のナイフでズタボロにされたばかりだ。

「……真夜、ちゃん」

そこには、私の財布を持って逃げようとするおばさんと、そのおばさんの手を掴んでひねり揚げている真夜ちゃんがいた。


「心花、あんたトロすぎ。それに、さっきのおばさん。どうして見逃したの?」

相変わらず鋭い切り口の真夜ちゃんに、私が口ごもっていると

「ああ、同じ犯罪者同士、ってこと?まぁ、別にいいけどね。あんたが犯罪者になろうが、捕まろうが」


「……犯罪、じゃないよ」

「は?」

真夜ちゃんがジロリと睨んでくる。今のこの会話は、きっと昨日の会話の続き、2ラウンド目だ。

「私、ちゃんと考えて!それで、しっかり法とか知ってる人とも話して!だから!」

私の言葉は真夜ちゃんの机を叩く音で断ち切られた。

真夜ちゃんは机を叩いた格好のまま、こちらを強く睨んで、叫び始めた。

「だから!?犯罪じゃないって!?あんた馬鹿!?それが問題じゃないって分かんないわけ!?私は!それが!正しい行いかどうかって言ってんだけど!?」

私も、一瞬怯むが、そのままの勢いで言い返す。

「正しいかどうかって誰が決めるの!真夜ちゃん!?私は!立ち上げた天鳳教が!正しいって信じてる!だって、ずっとやりたかったことなんだから!」

真夜ちゃんは、カッと目尻を吊り上げると、手を伸ばして私の胸ぐらを掴んできた。

「なんで分かんないの!?宗教で、人が幸せになったことなんてないでしょうが!?あんたも!あんたの親も!みんな不幸になったでしょ!?」

「だから!私の作るそれは、そうじゃないようにしたいって!!みんな、幸せにしたいって!」

真夜ちゃんは、侮蔑のこもった怒りの目で、私を見て

「数年前にも同じようなこと言われたよ。あんたの、天照教だっけ?あんた、あのおっさんに股でも開いたの?」

真夜ちゃんのその言葉が耳に入った途端、私は衝動的に真夜ちゃんの頬を叩いていた。

「……ごめん、言い過ぎた」

真夜ちゃんは、顔を背けたまま、そう言った。

「もう、帰るわ。じゃあね」

背を向けて立ち去っていく真夜ちゃんの後ろ姿は、一日二日ろくなものを食べていないと分かるほど、やつれていた。


私は、そんな真夜ちゃんの後ろ姿を見ながらも、何も言えずにいた。


……私は…………



その晩、私は久しぶりに、小さい頃の悪夢を見た。


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