第14話 雨が降るように。
ああ、酷い目にあった……
フロリアーノさんと別れるまでは良かったのだ。いや、私の気持ち的に良くは無いが。
それからが本当に大変だった。
代わる代わる訪れる来客、単なる挨拶程度のものであっても、積み重なれば相当な負担になる。
私が目立つ、というのはどうやら本当のことらしい。
昨日一日で学園の半分程の人と会ったような気がしないでもない、私は……
今、街で一人、お茶を飲んでいた。
きっかけはシェイラちゃんだった。私が来客に対応する間、彼女は何度もお茶を淹れ、カップを洗い、またお茶を淹れ……
「これはもう労働よ。分かっているの?児童・奴隷労働法……私がその気になれば、今すぐあなたを牢に放り込めるのよ。だから、あなたは今日一日、学園の外にいなさい。帰ってくるんじゃないわよ」
彼女は普段の1.3倍程冷たい口調でそう言った。
フロリアーノさんも
「今日も私は布教するね〜大丈夫〜色々、上手くいっているから〜」
なんて言っていなくなってしまった。私は、一人……
ということで、なけなしのお金(とはいえ、フロリアーノさんいわく、そろそろ稼げるようになりそう、とのこと。私がその域に行くまではもう何日か必要だったのに……さすが、フロリアーノさん)を使って、優雅にお茶を飲んでいる時のこと……
そう、大抵の事は予想もしていない方向から現れるものだ。特に、この世界では。
「……心花?」
聞き覚えのある声が、私の耳に刺さった。
いや、そんな訳はない。だって、その声を最後に聞いたのは、私が……
私が、勢いよく振り向くと、その声を発した相手も、戸惑いと、驚きが混ざった顔で……
「真夜、ちゃん?」
そうして私は、中学校ぶりの親友と、再開した。
私達2人は、相対してカフェでお茶を飲んでいる。
私はどんな話を切り出せばいいのか分からず、ただ風で揺れるお茶の水面を見ていた。
「……東国、って聞こえたから、もしかしたら同じ境遇の人に会えるかもって期待して、辺りをぶらついてたの」
彼女、鶯真夜は、そしたら貴女に会った、と言外に滲ませながら喋り出す。
「そう、なんだ。……あの、真夜ちゃんは、いつ頃こっちに来たの?どうして?」
真夜は、素知らぬ顔で優雅にお茶を1口飲んでから喋った。
「質問多いね、昔から変わらない。……まだ、ついさっき、一日も経ってない」
何故ここに来たのか、きっかけは何か、という部分を濁しながら質問に答える。何か言いたくない訳があるのか、それとも、彼女自身も知らないのか。
「その、なんで、ここに来たか、っていうのは……」
彼女は軽く私を睨みつけてきたあと(こういう所も変わっていないと思って呆れているのかもしれない)私の話に応じた。
「言いたくない、それで?」
と、何故かこっちに質問を返すような形で圧をかけてきた(もしくは、それを聞いてどうするつもり?の意だったのかもしれない)
そう、思えば、彼女は昔からそうだった。
気が強く、我も強い。言うこと成すこと、全てに強烈な自己が宿っていた。
自分を見失いがちな私と比べて、彼女はずっと圧倒的だった。
……まぁ、彼女のことを悪く言うつもりは無い。私が彼女に受けた恩は計り知れないものがある。
それこそ、中学以来の私の趣味であるライトノベルを教えてくれたのも彼女だ。
それに、他にも、沢山の恩があった。
そう、えーっと。……あれ?
……まぁいいか、とにかく、何か大きな恩があることは覚えている。だから、私は話を変えた。
「そういえば、こっちで何か、こう、アテはあるの?」
彼女はまた私を軽く睨んできた。うぅ、やっぱり圧が強い……多分この睨みは、ある訳ないでしょ?馬鹿なの?の睨みだ……
彼女は、私の想定通りの言葉を吐いた(自慢じゃないけど、一応、中学3年間の親友だったので!)
「無いよ。逆にあると思うの?異世界にポンと飛ばされてさ」
「私もね、最初そうだったけど、良い人に会えて、色々変わったんだよ」
「そう、良かったね。それで?」
「だ、からさ……真夜ちゃんにも、そうしてあげたいな、って」
真夜はしばし悩むように顎に手を当てて考え込んでいた。
その後、少し躊躇したように
「まぁ、でも、貴女ならいいか……。でも、お金の心配はさせたくないから、私も働く。貴女、今何してるの?」
「私は、今宗教を立てて、その教祖みたいなことしてるね!」
その発言を聞いた途端、真夜ちゃんの顔から血の気が引き、それでいて表情は怒りに満ちた憤怒の表情に変わっていった。
あ、人って本当に怒ると血の気が引くんだ……なんて、私が考えていると、真夜ちゃんの精一杯溜め込んだ
「は??????」
が噴出した。
その後、私は真夜ちゃんに「信じられない」「人の心がない」「本当に思考が理解できない」「馬鹿とかじゃない、クズ、カス」「周囲の人のことをどう捉えてるの?貴女は?」などなど、あらん限りの罵詈雑言を吐かれ、
私が固まっていると、彼女は、大きく椅子を鳴らして怒りのままに立ち上がると
「二度と会いたくない、ゴミ」
と、吐き捨てて去っていった。
「……………………え?」
ようやく思考が追いついても、私の考えはまとまることはなく。
彼女がどうしてあんな態度をとったのか、理解することもできなかった。




