第12話 かわいいよねぇ
クララ=チューリップ。チューリップ子爵の娘で、綺麗な金髪の少女。成績優秀者であり、魔法、剣術、座学、その全てに優れているらしい。
「天峰様。申し訳ありませんが、どうやら、授業クラスは期の切れ目にしか編入できないらしく……代わりに、いくつか学園内の良い場所を教えて差し上げますね」
そう言うと彼女は少し悪戯っぽく笑った。その笑みに、思わず私は、頬を少し染めてしまった。
「まずは天峰様の部屋に案内いたしますね。三階で、とても眺めが良い部屋なのですよ」
そうやって案内された部屋に入ると、
「では、少し経ったら迎えに来ますから。ゆっくりしていてください」
そう言ってクララちゃんが下がる。後には、私とフロリアーノさん、シェイラちゃんが残された。
……なんだか、二人とも、不機嫌そうな。
フロリアーノさんは私と顔を合わせず、何か支度をしているし、シェイラちゃんはわかりやすくやさぐれて、手に持っていた制服をベッドに投げ捨てるし……あ、シェイラちゃんは重い荷物を持たされていたから不機嫌なだけか。
「あの、フロリアーノさん……その……」
「……呼び捨て」
私がそっとフロリアーノさんに話しかけると、フロリアさんから返ってきた返事はそれだけだった。
「誰が見ているか分かんないんだから〜フロリア、ね」
「……フロリア」
そう言っても彼女の機嫌が目に見えて良くなることはなく。とはいえ、疲れているだけなのかもしれないし……
ちょうど制服に着替えたくらいで、扉がノックされた。
扉を開けると、そこにはクララがいた。
フロリアーノさんもシェイラちゃんも、クララちゃんの学校案内にはどうやら行かないらしく、参加するのは私だけになった。
シェイラちゃんは「疲れたわ……」とだけ言って綺麗なベッドに寝転ぶし、フロリアーノさんは「これからのこと、考えないとね」なんて意味深な笑みを浮かべるし……いや、意味深に感じたのは気のせい、私の気の迷い、邪念が蠢いているだけだ!去れ!フロリアーノさんは意味深な笑い方なんてしない!いつだって綺麗な笑顔を浮かべているんだ!
ともかく、クララちゃんの学校案内は、つつがなく進んだ。
「あちらは学園名物の噴水で……ふふ、実は学園長がたまに、あちらの噴水のほとりで休んでいるのですよ」
「あ、あちらが私の教室になります……ふふ、来年からは、きっと同じクラスですね。楽しみです」
「私は学年統括を務めていまして……何か困ったことを見つけたら、私にこっそり教えてくださいね、なんて、ふふ」
クララちゃんは少しおかしそうに笑ったり、優しそうに微笑んだり、いつ見ても素敵な表情を浮かべていた。
「こちらが当学園自慢の図書館でして……およそ蔵書数は三千冊程とか……あ、」
クララちゃんが話を途中で止めたのは、図書館からフロリアーノさんが出てきたからだった。
「あ、フロリアさ、……フロリア。奇遇ね」
私の詰まりかけの言葉にもフロリアーノさんは狼狽えず、
「ええ〜とても良い図書館でした。自由時間を与えてくださって〜ありがとうございます〜」
と、優雅に頭を下げた。
「いいのよ、フロリア。自由にして」
私が心にもない態度(本当にその通りだ!今の自分の姿を鏡で見たらひっぱたくかもしれない!)
をクララちゃんに気付かれないようにとっていると、彼女は
「あ、申し訳ありません。天峰様を連れ回してしまって……おおよそ学内の案内も出来ましたし、天峰様がよろしければ、ここで別れましょうか?」
私は一瞬逡巡したが、フロリアーノさんの目が、何か言いたげだったような気がして、その提案に乗った。
クララちゃんと別れてから、フロリアーノさんと話す。周囲には人が殆どいない、クララちゃんオススメの隠れ家スポットだ。
そこで、私達二人は、内緒話をする。
「フロリアーノさ、いや、えっと、フロリアーノ。さっき、何か言いたそうにしてなかった?私の勝手な思い込みかもしれないけどさ」
「ううん、そうだよ〜心花ちゃん〜私のこと、よく見てくれてるんだね〜ありがとう〜」
フロリアーノさんが私に顔を近付ける。その綺麗で可愛らしい顔が私のめ、目の前に……!
「それでね〜話したかった事っていうのは、天鳳教についてのことなんだけど〜、ずっと心花ちゃんに任せてたの〜私、気にしてて〜」
「そんなことないよ!フロリアはずっと助けてくれてたよ!」
私は拳を握って語気を強めに否定した。フロリアーノさんが私に負い目を感じる必要なんてないんだ!元々は私の夢だったし、それに、この世界に来てからフロリアーノさんに、どれだけお世話になったか!
「そうかもしれないけど〜私も、色々活動したいな〜って」
あぁ、そういうことか。フロリアーノさんも、天鳳教の布教に参加したいと。
「だから〜この学校での布教は、私に任せて〜」
フロリアーノさんはしっかりとした口調で私にそう語った。私がフロリアーノさんを否定することはないので(重要!)二つ返事で頷いた。それに、フロリアーノさんならしっかりと計画を考えた上で、言ってそうだし。
さっき不機嫌に見えたのも、色々かんがえてたからかもしれない。
「ありがと〜心花ちゃんの助けが欲しい時は、言うからね〜」
そう言って、フロリアーノさんは笑った。
私も安心して、先に部屋に帰ることにした。
私が居なくなったあと、フロリアーノさんが小さな声で呟いた。
「……まずは、クララ=チューリップから狙おうかなぁ〜」




