第11話 嘘を付いている時って、相手の一挙一動が妙に気になるよね!
「どうも、アズマ国、第三王女の天峰 心花でございます。以後お見知り置きを」
私は腰から、会釈のようにほんの少しだけ頭を下げた。
その後ろのフロリアーノさんとシェイラちゃんは
「私はこちらの天峰様に仕えさせて頂くフロリアと申します」(フロリアーノさんは念の為、偽名を使うそうだ)
「私も、同じく天峰様に仕えさせていただく、シェイラです」
「本日は、異文化での慣れないことですので、失礼があるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします」
二人が自己紹介を済ませ、そのまま私がまとめるように話をする。
ここまではシナリオ通りだ。
学園長、ライアは驚くでもなく、私達をソファーに促すと、自分は早々に対面の席に座った。
ソファーに座ったのは、私だけで、シェイラちゃんもフロリアーノさんも立ったままだ。
「ふむ。良くできた侍従のようですね」
学園長ライアが微笑み返す。私もゆっくりと、にこやかに返事をする。
「ええ、フロリアも、シェイラも、私に良く仕えてくれています」
まず、最初の自己紹介はこちらが有利に進められたようだ。先制点は貰った。
「あぁ、まず、そうですね……その魔力は、一体、どういうつもりでしょうか?」
学園長が表情を変えず、にこやかなまま尋ねてくる。
予想外の質問に私は少し焦るが、そうとは表情に出さず
「中々、制御が難しく……一族の中でも図抜けて高い魔力を持って生まれた、弊害でございますね」
学園長であるライアはふむふむと頷くと
「まぁ、大丈夫ですよ。この学園の教師に、その程度の魔力の影響を受ける人はいませんから」
これは、牽制だろうか、その考えは穿ちすぎなのだろうか。
人を騙しているとなると、なんてことのない雑談のようなものまで、緊張感が走る。
「さて、聞いた話では、ガウル辺境伯から紹介を受けたそうですが……」
「ええ、何か手違いでも?」
「それが、紹介状のようなものは、届いていないのですよ……失礼ですが、あなたの国はおおよそどの位置にあるのですか?」
依然として学園長ライアの目は鋭く、私をじっと観察している。何か、ほんの少しでも障りがあれば、すぐに排除されるだろうと感じさせる目だった。
「およそガウル辺境伯の持つイレシュ港から二日ほど、船でかかる場所にある、島でございます」
学園長はそれを聞き、少し頭の中で考え込んでいるようだった。気になるのは島の所在か、それとも島の規模か、もしくは私か……
「その服は、それはその島のもので?」
学園長、ライアは少し悩みながら、服を指す。
「ええ、伝統的な衣装で、王族が好んで着るのです」
「……失礼ですが、王族が着るにしては、あまり華美ではありませんね」
「ええ、我が国は質素、倹約、そして謙虚さを美徳としておりますから。目立つような華美さはむしろ、下流の振る舞いなのですよ」
ここまで読んだ人ならわかるだろうが、このアズマ国は、日本をモデルにしているのだ。だからこそ、私もほぼ悩まず、言葉がスラスラと紡げる。
「帝国学園へ入学するとなれば、制服を一律で着用して頂くのですが……」
「ええ、問題ありませんよ。郷に入っては郷に従え、と、我が国に伝わる言葉がありますから」
学園長ライアは、もはやこちらを王族だと疑っていないようだ。実際、この異世界の水準からすれば、日本の国の暮らしなど、殆どが王族級だろう。
その時、ノックが鳴った。
「申し訳ありませんが、実は、形式的なものとして、編入試験を行う必要がありまして……簡単な座学なのですが」
ふむ、これもまだ、私達の想定内だ。
「私はこの国付近の地理や歴史には疎く……出来るのは数学程度なのですが、フロリアなら凡そ答えられると思われますよ」
これは正しい答えのはずだ。遠くから来た王女がこの地域に根ざした地理や、歴史に詳しい方が、かえって違和感を持たれる。その答えを聞き学園長は嬉しそうに頷いた。
「では、御三方で受験頂いて大丈夫ですよ」
そうして私達三人が別室へ向かう時、こっそりフロリアーノさんと話をした。
「これで、大丈夫そうかな……」
「うん、上手くいってると思うよ、心花ちゃん……」
そのフロリアーノさんの言葉通り、簡単な(本当に簡単だった。中学レベルもないんじゃないか)数学の問や歴史、地理を終わらせた私たちに寄ってきた学園長ライアは、既にその手に三人分の制服を持っていた。
「実は、辺境伯からの書類が未だ届いていないようなのですが、だからといって追い返すわけもありません。この帝国学園の門は知を求める人に常に開かれておりますから。こちら、三人分の制服です」
私は内心でほくそ笑みながら、あくまで外見は鷹揚に
「ありがとうございます。本日より、よろしくお願いいたしますね」
と答え、シェイラちゃんが少し重そうに三人分の制服を受け取った(設定上しょうがないとは言え、私の心にある良心がチクチク傷んだ)
「住む場所なのですが、もし他にあれば不要ですが、多くの学生は寮で暮らしております。貴族寮が一室空いておりますので、もしよろしければ、そちらに……」
「ええ、是非とも」
そうして私と学園長ライアのやり取りは終わった。
私達三人は無事、新たな家を手に入れた!!!やったー!!!!
早速貴族寮の前へと向かうと、一人の女の子(15歳くらい?私より少し小さい子)が、そこに立っていた。
綺麗なストレートの金髪、青い瞳、それは正に本物の貴族としか言えない出で立ちで……その少女は私達に話しかけてきた。
「どうも、クララ=チューリップです。クララと呼んでくださって構いません。私が、貴族寮を案内いたします」
そう言って笑った少女に、風が吹いた。
風に煽られてそのストレートの金髪が宙を舞った。
片手で髪を抑えながら、少し恥ずかしそうに笑う彼女は、人形のような、作り話のような、美しさだった。




