第10話 お金もないし職もない!私こんな世界嫌だ!!!
翌朝、早朝に目覚めたシェイラちゃんと一緒に、私達はフロリアーノさんの家を出た。
フロリアーノさん曰く
「あそこ、私の家って言っちゃってるから……早めに逃げた方がいいと思う〜ごめんね〜」
と可愛らしく謝っており、その姿からは昨日のような雰囲気は感じられなかった。
「実はね、フロリアーノさん、昨日の昼の事なんだけど……」
フロリアーノさんに昨日の昼、兵士たちに追いかけられていたことを伝える。
「そっか〜それなら、今までのように布教するのも、難しいかもしれないね〜」
そこでシェイラちゃんが口を挟んできた。
「それに、家がないままでは格好がつかないわ。家無しの教祖なんて、メッキのはがれたネックレスみたいなものよ」
シェイラちゃんとフロリアーノさんの邂逅は朝のうちに済ませておいた。フロリアーノさんは少々驚いたようだったが、シェイラちゃんの説明を聞き、すぐに受け入れたようだった。
ちなみにシェイラちゃんは今も私の背に乗っている。昨日疲れたかららしい。いや、疲れた原因は私にあるけど!ちょっと重い……なんて言えるはずもなく。
シェイラちゃんに対する昨日の恩を考えたら、呼び方はシェイラさん、なんならシェイラ様でもいいかもしれない……なんて思いながらも、ついつい外見に引っ張られて、私はシェイラちゃんなんて言ってしまうのだけど。
「それなら、まず喫緊の課題は、家ってこと?」
「でも〜お金が無いと家も借りられないしね〜」
余談だけど、フロリアーノさんの口座は使えないらしい。足が付きかねない、と本人が言っていた。
「うーん、お金を稼ぐためには家がいる、家を借りるためにはお金がいる……」
この難題を、なんとか解決できないかと私が頭を捻っていると、目の前を学生らしき制服を着た人達が通っていくのが見えた。
いいよね、学生……お金もそこまで使わないし、家に帰れば美味しくてあったかいご飯があるし……
そこまで考えた時、私の脳みそに電撃が走った。
「そ!そうだ!!!」
……三時間後、私達は、服を着替えて、アンドラーシュ帝国立学園、通称、帝国学園への門の前に立っていた。
もちろん、着替えたのは制服などではない。
私がこの数日で寄付してもらったお金を使い、私達は質素ながら特色のある、威厳の感じられるような服をオーダーメイドして貰ったのだ。
そう、その服とは……
浴衣、だ!
フロリアーノさんは白を基調にした浴衣に、綺麗な花柄の帯、シェイラちゃんは子供サイズとはいえ、その綺麗で白い肌をより目立たせる黒の浴衣と金に近い色の帯。
そして私は、仄かに銀の線が光る、灰色の浴衣に黒い帯。
この服を着て、私の知識と、フロリアーノさんの知識と、シェイラちゃんの可愛さを活かして……
私達はこれから、人を騙す!!!
とは言っても、金を騙し取るとか、そういったことではない。それはリスクが高すぎるし、人にも恨まれるだろう。フロリアーノさんも、そんな策には同意してくれないに違いない。
だから、私達はあくまで、学園の中に入ることを目的とするのだ。
帝国学園の門前で、警備と思しき人が話しかけてくる。
「何か用ですか?」
私は、以前に布教していた頃の気持ちを思い出し、ゆっくりと、風格を感じるように
「こちらの学園の長の方と、本日、約束をしていたと思うのですが?」
と、答える。ただの警備員でしかない相手は当然、少し焦り
「すぐに、確認してまいりますので、少々お待ちください!」
と言い、下がっていった。
思えば、この私の演技は、私の魔力に支えられているのかもしれない。シェイラちゃんが言っていた、魅了?催眠?系の魔力だ。
これが私から常に少量放出していたからこそ、私に都合のいいように物事が進みやすいのだろう。
シェイラちゃん曰く、長い間一緒にいると効力が落ちるらしいから、フロリアーノさんやシェイラちゃんにはあまり影響しなくなったのだろう。
さて、ここで演技の確認だ。
私が演じるのは、遠い東の国の第三王女で、この国には辺境伯のツテを辿って留学しにきた。辺境伯の手違いで書類は届いていない。という設定だ。
フロリアーノさんはこの国から私の国(とりあえずアズマ国ということにした。まぁ、あまり重要では無い。どうせ嘘だし)を紹介するために送られた、知に優れた人物、ということになっている。
シェイラちゃんは私の侍従……いや、本人に睨まれたが、王女に侍従が一人もいないのは格好がつかないので……
五歳から五年間、私の侍従として勤めている。生まれた時から私の侍従になると定められていた人物……ということで、どうやら、フロリアーノさん曰く、アンドラーシュ帝国の王族にはそういった侍従が一人、必ず居るそうだ。
さて、ともかくそういう設定で、私達のシナリオは……
1、辺境伯との手違いで書類はないが、留学をするよう言われていると伝える
2、なんとか留学に近い形を取り、ここの寮に滞在させてもらう。
3、この学園の使者(もしくは書類)が辺境伯の元へ向かい、辺境伯からそんな人はいないと伝えられるまでの往復およそ3ヶ月(これはフロリアーノさんが言っていたので本当だ。私の言うことは間違うかもしれないが、フロリアーノさんの言うことはほぼ合っている)の間に学園内で布教し、寄付などを集めてから、学園を去る。
これが私達の理想のシナリオだ。この通りに話が進めば、私達は家と、今後の稼ぎと、布教の三つをこなせるようになる。
さて、ともかく、私達は警備員に連れられ、学園長の部屋へと向かった。
戸を開くと、そこには激しい赤色の髪をたなびかせる、長身の美女が立っていた。
彼女は、鋭い切れ長の目で、こちらを観察するように睨みながらも、口元だけは微笑み
「どうも、学園長のライア・アジェリーナです」
と、語った。
私はその時直感した。あぁ、この人を騙すのは、骨が折れるぞ……と。




