想い人
桜が香る新学期の初日から私は思いも寄らない相手に呼び出されていた。
「君が好きだっ! 俺と付き合ってくれっ!」
そう言って手を差し出し、私の前で深々と頭を下げているのは学校でも超有名なサッカー部のエース新井優だ。
彼は県選抜にも選ばれるほどの選手で将来プロになるのは誰の目から見ても分かるほど活躍している人物だった。
文武両道に加え、おまけに顔までいい。性格も真っ直ぐで後輩にも優しく面倒見もいいと聞く。 だから当然モテない要素がない。毎日のように他校から女子生徒が彼のためだけにわざわざこの古橋高校まで足を運び、ラブレターやらプレゼント、終いには想いを伝えに訪れている事くらいサッカーに興味のない私でも知っている有名人だ。
本来なら泣いて喜んで手を差し伸べるほどの相手なのだろう。
だが、私から出した答えは最初から決まっていた。
「すまない。 君と付き合う気はない。 諦めてくれ」
「あ、ちょっ……待ってくれないかっ! まだ話が……」
「これ以上君と話しても告白なら時間の無駄だし無意味だ。 諦めてくれ他の人を見つけてくれ。 では……」
そう冷酷な言葉を残し、校舎裏から早々に立ち去った私は橘 葵 古橋高校に通う高校3年生だ。
クラスに戻った葵はダルそうに椅子に腰をかけた。こんな事が起きる度に溜め息が出る。これで何度目だろうか。いちいち呼び出される度に告白されて、その度に振って。
こっちはいつしか顔色一つ変えず男子を振る様子から雪女とまで囁かれるようになって迷惑してるっていうのに。
そりゃそうもなるだろう。中途半端に振ったら諦めの悪い連中は何度でも不死鳥のように蘇り告白してくる。私にとっては夏の蚊よりも厄介な相手なのだ。
「ねえ葵。 新井君を振ったって本当? 学校中噂になってるよ。 でも何で? あんな優良物件早々ないよ」
「え……?」
ほんの数分前の出来事だというのに、この学校はどれだけ情報が回るのが早いんだろう……。もう携帯の電波より速いんじゃなかろうか?
「美紀か……別にいいだろ。 相手がモテると言うだけで知りもしない相手と付き合うなんて本当にどうかしてるしナンセンスだ」
「それはそうだけど、もったいないなぁ。 新井君て言ったら将来プロ間違いなしの相手なのに……。 私だったら速攻で返事をして付き合っちゃうけどな。 葵って本当に誰とも付き合わないよね。 一体この高校に入ってから何人の男子を振ったの?」
「ふん。 振った人数なんていちいち覚えてない」
私にとって相手が誰であろうといつもの事だった。顔が良かろうと、勉強が出来ようと付き合う気にはならなかった。ある1人を除いては……。
「それに……私だって好きな人くらいいる」
こんな話をしていたせいだろうか。普段なら決して口に出さないような事を、あの人の事を頭の中で想い描いたらボソッと呟いてしまった。
その言葉に美紀は信じられないといった様子で過剰に反応して見せた。
「えっ! 葵に好きな人がいるの? どんな人? それって日本人? 有名人? もしかして外国人っ?! こんなデレが一つもないツンツン美少女を好きにさせるほどの相手ってどんな人っ!?」
「人を何だと思ってるんだ! 普通の同じ高校生だよ!」
「えぇっ!!! 同じ高校生っ! って何処の高校なのよっ!」
「き……今日入ってくる新入生にいる……」
「え……年下ぁっ? 葵って年下好きのショタコンだったのっ!?」
「おいっ!! 妙な言い方はよせっ!! 好きになった相手がたまたま年下だっただけだっ!! それに恋愛で女が年下と付き合うなんて話はありふれた事だろう!」
「えぇ……信じられない。 葵なら有名人とだって付き合ってるってカミングアウトされても驚かない自信があったのに、まさかの年下のショタコン好きなんて世界中探しても誰もその答えは想像つかないよ」
「お前……その口、もう二度と話せないように………して……やろうか!!」
「………ごめ……んな……さい」
これでもかというほど深く首を絞めた手を緩め、許してと懇願する美紀に背を向けた。
全く。色恋沙汰に興味がない訳ないだろう。そんなの私だって既に小学生の時に身をもって体験している。
そう。 今日新しく新入生として入ってくる野崎 健太君。
2つ下の男の子だが、私が小学生の時、四六時中ずっと一緒にいて苦楽を共にした人だ。
だから誰にも靡かなかったし、興味も持たなかった。私の心の中には既に想い人が存在していて私の心をケンちゃんが埋めているのだ。
あぁ……。 考えるだけで胸が高鳴って苦しくなる。
中学生の時は訳があって会わなかった。だから凄く我慢したし、だからこそ今日、会いたかった。
会ったらどんな話をしよう。 一通り会話をしたら今度は一緒に何処かに遊びに行く約束をしよう。
小学生の時とは違う、今は高校生だ。多少のお金なら2人分くらい貯めておいた。ケンちゃんとなら何処にでも私は遊びに行けるし、行く準備も三年前から済ませてある。
今度は私が色々教えてあげれるから。
「ケンちゃん……私をみたらびっくりするかな……」
ニヤニヤと妄想を膨らませながら私は始業式が終わるのを待った。
チャイムが鳴って私は勢いよくスカートを翻し教室を出た。1年2組。既にケンちゃんのいるクラスは名簿を見て調べがついている。
「―っ!!」
午前中で始業式が終わった教室からは次々と一年生が出てくる。その中には勿論待ち焦がれた意中の相手、野崎健太もいた。
「ケンちゃん!!」
「っ!!!」
手を握られた瞬間。ビクッと肩が揺れる。
まるで小動物のような立ち姿。
小柄な身体。中性的な顔立ちにサラサラとした髪。小学生の時からすれば身長も伸びたし、勿論男らしくもなっている。でも変わってない。
高鳴った鼓動と共に抱きしめたくなる衝動を抑えながら葵は声を弾ませた。
「ケンちゃん、 久しぶりだねっ!!」
「……っ」
あれ……唐突に来ていきなり挨拶されたからびっくりしちゃったのかな? 流石にケンちゃんも戸惑ってる。これは何か悪いことしちゃったかな。いきなり皆のいる前で上級生が声を掛けてきたら確かに恥ずかしいよね。
だったら一度、校門まで別々に行動して、それから一緒に帰る事にしてもいいかもしれない。いや、その方が最初はいいよね。上級生としての配慮に欠けていた。反省。反省。
「………え……誰ですか?」
「え………その反応…………まさか…………私の事を覚えて………ないの? ……えぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙っ!!!!」
読んで頂きありがとうございます。面白かったと思われた方、評価とブクマ登録して頂けると大変嬉しいですm(_ _)m
隠れて浮気をする妻に復讐というプレゼントしてみた。
恋愛短編部門 年間23位獲得
ありがとうございます。




