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『RePersona』 - Ultimate Story  作者: 耀羽 絵空


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第10章|ふたりが継ぐもの

麻由のRePersonaが削除されてから、半年が過ぎた。


春は夏になり、夏は秋へと移り変わっていた。


聡と陽、そして佐藤家との交流は続いていた。むしろ、麻由がいなくなってからの方が、お互いの絆は深まっているようだった。


「パパ、今日結愛ちゃんと一緒に図書館に行ってもいい?」


「もちろんだ。気をつけて行ってこい」


陽はすっかりお兄さんらしくなった。結愛に甘えるだけでなく、時には彼女を気遣う優しさも見せるようになっていた。


一方の結愛も、陽の存在が彼女の人生にとって大きな意味を持っていることが伝わってきた。


「陽くんがいると、心が軽くなるの」


そう佐藤さんに話す結愛の表情は、本当に幸せそうだった。




週末の午後、いつものように公園で二人が遊んでいる姿を、聡と佐藤夫妻が見守っていた。


ブランコに座る結愛を、陽が後ろから押している。


「もっと高く!」


「危ないよ、ゆめちゃん」


「大丈夫、陽くんが押してくれてるから」


そんな他愛もない会話が、秋の空に響いていた。


「本当に仲がいいですね」


佐藤さんが微笑みながら言った。


「麻由が見たら、きっと喜ぶでしょうね」


聡も頷いた。


「二人とも、とてもいい子に育ちました」


「それは佐藤さんたちのおかげです」


「いえいえ、血筋でしょうか。麻由さんの優しさを、しっかりと受け継いでいます」


風が吹いて、銀杏の葉が舞い散った。


その光景を見ていると、時の流れの不思議さを感じた。


麻由はもういない。でも、彼女が残したものは確実に受け継がれている。


陽の中に、結愛の中に、そして聡や佐藤夫妻の心の中に。




夕方、家に帰った陽が聡に言った。


「パパ、結愛ちゃんが言ってたんだ」


「なんて?」


「『ママがいなくても、寂しくないね』って」


聡は少し驚いた。


「どういう意味だろうな」


「わからないけど、僕もそう思う」


陽は屈託のない笑顔で答えた。


「ママがいないのは寂しいけど、でも結愛ちゃんがいるから大丈夫なんだ」


「そっか」


「結愛ちゃんも、僕がいるから大丈夫だって言ってた」


聡の胸が温かくなった。


二人は、お互いの存在によって、失われたものを補い合っているのだろう。


それは、麻由が最も望んでいたことだった。




その夜、聡は久しぶりにタブレットを開いた。


画面は真っ暗で、何も表示されなかった。


RePersonaはもう存在しない。


でも、聡は画面に向かって話しかけた。


「麻由、見てるかな」


「陽も結愛ちゃんも、本当に幸せそうだよ」


「君の願いは、叶ったんじゃないかな」


風が窓を揺らした。


まるで、返事をしているかのように。




翌日、佐藤さんから提案があった。


「来月、結愛の誕生日なんです。もしよろしければ、陽くんもお呼びしたいのですが」


「ありがとうございます。陽も喜ぶと思います」


「実は、結愛がお願いがあるそうで」


「お願い?」


「麻由さんのお墓参りをしたいと」


聡は驚いた。


「お墓参りを?」


「はい。結愛なりに、麻由さんにお礼を言いたいそうです」


聡の目に涙がにじんだ。




結愛の誕生日当日。


四人は麻由の眠る墓地を訪れた。


墓石の前に花を供えて、それぞれが手を合わせた。


「麻由さん、初めまして。結愛です」


結愛が小さな声で話しかけた。


「私を産んでくださって、ありがとうございました」


「そして、陽くんという弟をくださって、ありがとうございました」


「私は幸せです。お父さんとお母さんも優しいし、陽くんもいるし」


「麻由さんのおかげです」


陽も隣で手を合わせた。


「ママ、結愛ちゃんと仲良くしてるよ」


「ママが言ってた通り、結愛ちゃんはとても優しいお姉さんだよ」


「ありがとう、ママ」


秋の風が、優しく頬を撫でていった。


墓参りの帰り道、四人は公園に立ち寄った。


陽と結愛が遊具で遊んでいる間、大人たちはベンチに座って話していた。


「麻由さんは、素晴らしい方だったんですね」


佐藤さんがしみじみと言った。


「結愛の中に、確かに麻由さんの血が流れているのを感じます」


「陽くんもそうです。優しさや思いやりは、きっと受け継がれたものでしょう」


聡は頷いた。


「麻由は、二人のことを本当に愛していました」


「その愛は、確かに二人に届いています」


夕陽が公園を照らしていた。


陽と結愛が、滑り台で一緒に遊んでいる。


二人の笑い声が、秋の空に響いている。


その光景を見ていると、時間が止まったような錯覚を覚えた。


過去と現在と未来が、一つになったような。


麻由がいた時間と、麻由がいない時間が、つながったような。


「パパ、結愛ちゃん!見て見て!」


陽が手を振った。


「すごく高く上れたよ!」


「気をつけなさいよ」


結愛が心配そうに下から見上げている。


その瞬間、聡には見えた気がした。


陽と結愛を見守る、もう一つの影を。


麻由の影を。


彼女は確かにそこにいた。


二人の子どもたちの中に、愛として、記憶として、受け継がれた何かとして。


「あの人がいたから、今の私たちがいる」


佐藤さんがつぶやいた。


「本当にそうですね」


聡も答えた。


人は死んでも、愛は残る。


記憶は受け継がれる。


そして、新しい絆が生まれる。


麻由が残した最も大切な贈り物は、この二人の子どもたちの笑顔だった。


陽と結愛が手を取り合って、夕陽の中を歩いている。


その後ろ姿が、希望そのもののように見えた。


過去に断たれたはずの命と命が、今、確かにつながっている。


愛によって。記憶によって。そして、未来への願いによって。


「また来ようね」


結愛が陽に言った。


「うん、また来よう」


陽が答えた。


二人の声が、風に乗って遠くまで響いていった。


麻由の愛が、確かに未来へと続いている。


それを確信できた、美しい秋の午後だった。

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