そうだ、海に行こう……普通の
俺はディの可愛さに、俺の舵取りが難しいと判断した。
俺の棒が俺の言う事聞きやしねえ。
元から勝手な行動をとる器官でございますけどね。
だが暴れん坊を暴れさせてはいけない。
そこで俺はディに普通の旅行に行こうと提案したのだ。
俺を矮小だ臆病者だといくらでも笑ってくれていい。
だけどね、二人きりのダンジョン探索は危険すぎるじゃないか。
ただし、ディの気持を台無しにしてはいけないと思い、行先はバルウィン王国自慢の海がきれいな観光地のミハマにした。レイが新たな離宮を立てるつもりらしい、そこ、だ。
「行こう、ミハマに」
「でも、私達は隠れてなきゃいけなくない?」
「駆け落ちだろ? 俺は世界中に君が俺の恋人だって見せびらかしたい気持だ」
ディは花が咲いたように微笑んだ。
決まりだ。
俺は腐っても伯爵家令息で、ギルドではそれなりな無理が通るゴールドランクだ。
ミハマまではギルドの転移陣を使えばすぐであるし、ミハマの一番宿だろうが個人財産を持つ俺ならば、滞在費が高くかかろうがなんてことはない。
「えっと、それだったら荷物は。もう一回買い出し?」
「下着と魔導ボードだけ持って行けばいいよ。晩餐用のドレスだろうが全部現地で俺が買ってやる。足りないものは俺に任せろ!!」
「あ!!ドレス必要ならジェットが買ってくれたあのドレスでもいい? お気に入りだからまた着たいの」
くうっ、どこまでも殺しに来るな。
だが俺もあれを着た君がもう一度見れるのは嬉しいばかりだ。
「最高。俺は……あのスーツは実家か」
「取りに行く?」
「いや。現地で買う。俺は今すぐ君と出かけたい」
こうしてミハマに辿り着いた俺達だが、無事に高級宿にチェックインして入室したそこで、俺はダンジョン行きを取りやめた自分を罵る羽目になった。
まず、部屋ごとのプライベートビーチを持つミハマで一番の高級宿の癖に、部屋がとても汚いのだ。百鬼眼スキル付の俺の目には過去の客達の残した汚れが、人の目には見えないそれが、ありありと見えるのである。
サーチ視覚によって色を失った室内だが、普通の目に見えない汚れなどが白く輝いた状態で見てわかる状態に加工された視界だ。
ついでにレベルが上がってスキルもバージョンアップしたのか、「自動鑑定」なんて余計なものも付随しやがってる。知りたく無かったよ。
汚れブツについての鑑定なんかいらねえよ。
どうして天井にもケダモノが吐き出した印がついているのか?
そんなん考えたくもない。
人間の繁殖行為が今日寝るベッドで色々あったと推定できる証拠ブツなんか、俺は知りたくなかったよ。
借りれられたこのプライベートビーチを持つ部屋だが、残っていた最後の一部屋で、部屋のチェンジなど出来ないというのに。
幸いなことに鑑定によれば、寝具はどれも清潔だ。
汚れの痕が見えるのは、壁に絨毯に、天井だ。
今夜から、この部屋の大きなベッドで二人で眠らなければいけないというのに、ベッドに横たわって俺は天井の染みを見つめることになるのか。
どうやってあそこまでアレを飛ばしたんだろうと思考しろと?
「どうしたのジェット。すごくいい部屋だね。わあ、窓から見えるあれは海? 本当の海? ありがとうジェット」
「うん。君が喜んでくれて俺も嬉しいよ」
「わあ、ベッドも大きい!!」
ディは俺の頬にちゅっと口づけた後、確かに大きなベッドに突進していった。
――新婚夫婦用の部屋だもんな。そりゃベッドは最良のベッド使っているさ。
使用客はどれもろくでも無かったようだがな。
何だよ、天井の水鉄砲の跡は!!
「ほんと、ジェットはすっごくわかっている」
俺は褒め言葉に一瞬気を良くしたが、ディの動きの意味に気付いて体が凍った。
ディがウキウキ状態で服を脱ぎ始めてる!!
どうして俺は、すぐに向かおうなんて言ってディを追い立てたんだ。
着替え直さなくても上に服を纏えばいいよ、ミハマに着いたらそのまま海なんだから、なんて、どうしてディに言ったの俺は。
その通りなんだけど、ベッドの上で無造作に服を脱ぐな!!




