女性からの絶大な信用は時として男を縊り殺す真綿となる
ディはダンジョンの海フロアで人魚族の服を着るんだと、嬉しそうにしてその不埒な服を俺に見せびらかす。
そのお陰で、銀色に輝く薄い布地のセパレートの上下を着たディの姿を俺の脳は勝手に想像し、それを着たディに突撃していく自分の姿を予想させてくれた。
俺はそれを着たディではなく、人魚族がそれを着た姿を想像しろと自分を叱る。
マーフォークと言えば腰から下が魚の姿を思い浮かべる者が多いが、マーフォークには頭部が魚でえらと鱗がある人型の種族だっているのである。そしてディが着ると言い張る衣服は、後者の方の半魚人とも呼ばれる方のやつだ。
ディが着た姿を想像するな。
半魚人だ、銀のエッロぃ服を着ているのは半魚人だ。
よし、俺の下半身に流れた血が脳みそに戻ってきた。
冷静に戻れた俺は、軍団を率いる司令官の声を出す。
ディにそんな銀のエッロぃ服を着せてはいけない。
「それは却下だ。ダンジョン探索にそんな体を出す危険な服で挑むことを俺は認めることなどできない」
「大丈夫だって。人魚族の防御力付与って凄いんだよ」
基本水の中に住まうマーフォーク達は、人間と交流するまで全裸が基本だった。
水の中で服を着用すれば機動力が落ちる上、彼等には全身の鱗という自然の服を持っているからである。
けれど人間は性器の丸出しに抵抗が強い。
なのに人間が信奉する神様や女神像こそ半裸や全裸が多いから、頑なに丸出しを許さない人間に対してマーフォーク達はきっと戸惑った事だろう。
全裸な女神像には平気なくせに、ドレスから足首が覗いただけで女性に襲い掛かる男性がいるのが人間だ。また雪男や人狼は全裸であるのに、人間は彼等に何も言わないのだ。
なぜならば鱗と違ってもっさもっさな毛皮が、隠すべきところを毛の中に埋没させてしまうからである。だがマーフォークの感覚で言えば、同じ全裸なイエティやワーウルフが許されて自分達が許されないのか理解が難しかったことだろう。
それでもマーフォーク達は寛容を持って、人間側の都合に合わせてくれた。
申し訳程度の布地による服を纏うようになったということだ。
陸上でも水中でも邪魔にならず、かつ防御力も付与された素晴らしい服を。
性器丸出しにしない程度にね。
もう一度言う。
マーフォークの服は山と頂と危険な三角地帯を隠すだけの代物なのだ。
「知ってるよ!!だが考えてみろ。それが隠すのは君のおっぱいと尻だけだ。却下だ!!水に入った途端にツルって脱げちゃったらどうするつもりだ!!」
水に入ったぐらいで脱げないけどな。
魚よりも早く泳ぐマーフォークが水中で着ていても脱げないのだ。
けどね、心配は水力じゃない。
人の手による剥ぎ取りだ。
君からそれを剥ぎ取りたい性獣が俺の中にいるんだよ?
そいつを制御するのが俺だってところで危機感持てよ!!
「んふふ。マーフォークのパンツが簡単に脱げないって知ってるくせに。心配症だな。呪いの装備みたく剥ぎ取れないんだよ。着てくるから確認してみよっか」
「おい、着てくるって!!確認って!!」
混乱する俺を残し、ディは二階へと階段を駆け上がって消えていった。
俺は裸同然になる服に着替えると言ったディを止めるべきだろう。
だが俺は大事なとこだけ隠したディを見たい自分に負け、待てと右手を上げた姿のままディを見送ってしまった。
どうしよう。
いや、途方に暮れるな、考えるんだ。
ディを助けられるのは、ディを愛し守りたい俺だけだ。
ディにディを任せてはいけないんだ!!
さあ、考えろ。
今のディの危険性は、そこいらの貴族令嬢の如く危機察知能力が壊れているところにある。世界は安全だと思い込み、警戒心を捨てている。
ならば俺がその警戒心を思い出させるべきじゃないのか?
俺がディに飛び掛かる?
それで良いじゃないか。
剥ぎ取れるか確認しようって言ったのはディだ。
俺は彼女の望み通りあの銀色の不埒なものを彼女から剥ぎ取ってやり、プリンとした可愛いお尻を丸出しにしてやればいいのだ。
ダンジョン十六階は風光明媚な海風景なフロアだが、中級冒険者でも死ぬことが多い危険なフロアでもあるのだ。俺の脅威を受けたおかげでディがおっぱいとお尻を隠した程度の裸同然の姿でダンジョンに挑むことを諦めてくれるかもしれないじゃないか。そうだろ。
方向性を決めた俺は、居間のソファに腰を下ろした。
ディに襲い掛かる勢いどころか。
勃起ったせいで立ってられない、とは。




