俺達が向かうのはダンジョンの十六階の海風景フロアで海水浴場じゃない
いつまで身を隠さなきゃいけないの?
ディの台詞に、俺達が愛し合っていることを認められるまで、と答える。
俺の言葉に、ボッと音がしたみたいにしてディは顔を真っ赤にした。
可愛いい!!
俺は彼女の肩を抱いて引き寄せ、その代わりに彼女が開けたドアを閉める。
もちろん、誰の邪魔も入らないようにしっかりと施錠するのは忘れない。
ただし、鍵がかかる音で俺の中の暴れん坊が逆に解き放たれそうになったので、慌てて気を引き締める。
しっかりしろ、俺。
ディは俺を信用しているから、自宅に招いてくれたんだぞ。
「ほらほら、ジェット。急いで荷物確認しよ!!」
ディも照れているんだろう。
焦ったようにして俺の体から抜け出して、……楽しそうな足取りで居間の方へと廊下を小走りで駆けて行った。
……照れとか余韻とか、全部置いてけぼりかよ。
俺も急いでディの後を追い、居間に入って見れば。
ディはダンジョン探索用に買った用品を収納魔法からモロモロ出して、その中に埋もれながら用品を吟味していた。ディは、なんというか、とっても楽しそうで、完全にピクニックに行く五歳児状態だった。
分かっているのかな。
ダンジョンに潜る冒険旅行かもしれないが、数日は俺と二人での行動で、ダンジョン内で野営もする予定なんだぞ。
俺が股の間に巨大針を持っているグリズリーに化けるかもしれないんだぞ!!
「ねえねえ、あそこは日差しが眩しいし、パラソルはどうだ!!」
ディは大きなパラソルを持ち上げ開いて見せた。
……うん、海水浴には必要だね。
でも俺達が行くのは、魔物が襲い掛かって来るし、倒しても時間が経てばリポップする、危険極まるダンジョン十六階だよ?
白が眩しいそれは、魔物には良い目印にならないかな?
「――それ、今日買ってたっけ?」
俺って、弱っわ。
防御魔法付きテントにすべきだぐらい言えないのか!!デイの安全だって掛かっているんだぞ。いや、俺が索敵スキルを常時展開していれば平気か?
「今日じゃない。見つけた時に買ってたの。広げた傘の範囲は魔法も物理攻撃も大体防げる魔導回路も添付しておいた。安全安心ディ印だ!!」
「さすがだね」
本気でさすがですよ、ディさん。
そんな技術ない俺って、本気で弱っわ、だわ。
恋人に俺に全部任せとけ言えない、俺の存在意義ってなんなんだろう。
「これを浜辺に立てて、ごろごろ転がって、日焼けオイルを塗り合う? 日焼け止めクリームの方が良いのかな。どう思う? 両方持っていく?」
何度も言うが(心の中で)ディはどこに行くつもりだ?
ダンジョンだよ?
ダンジョンの太陽で日焼けして大丈夫かよ? 考えようか?
「日焼け止めはわかるけど、日焼けオイルで顔だけ日焼けしてどうするの?」
弱っわ、俺。
ディの気を悪くしたくないって、簡単に迎合してどうするんだ。ダンジョンだよ? 気のゆるみでヘタすりゃ全滅するかもな場所なんだよ? それが、何がわかるだ。それでもって、何がどうするの? だ。
弱っわ過ぎだろ、俺。
大体さ、ディもちょっと考えてよ。
フライングフィッシュが投げナイフみたく飛んでくるダンジョンで、クリームやオイルなんて塗りたくってる余裕あるかな? ……あるね、君はきっと。ああ、あるよ。君は残酷だ。きっと俺は君に良い所見せたくて、君の壁になろうとするだろう。ああわかった。君はきっと、俺の背中にフライングフィッシュがどれだけ刺さるか実験したいだけだ。
なんて残酷な策士!!
そして君は生きている魚パイ状態になった俺に言うんだ。
お前は弱いんだから私の後ろにいなさいよ、と。
ああ、糞。わかっているよ。俺が君を守るなんてことこそおこがましいって!!
「どうするのって、海だよ、海。ジェットったら遊び心ない。せっかくの海フロアだよ。浜辺でごろごろして、人魚族ごっこしようよ。ほら、これなんかどう?」
ディは人魚族の女性用の服を掲げて見せた。
それだけでなく、とっても無邪気な五歳児は、女型人魚族用の胸しか隠さない上着と(下履きにしか見えない)ショートパンツを自分の体に当ててた。
胸とケツしか隠さない、それを着た自分を俺に想像しろと?
俺の髪色と同じ銀色の不埒でしかないそれは、俺を嘲笑うようにして風も無いのにぴらっと揺れた。
弱っわい俺を煽るように。
これを着たこの女を襲わずにお前は我慢できるのかな? と。




